プロローグ 社畜と悪役令嬢②
パン! と世界が
天上界の神々が見える。
(え、ここ天国? いえいえ、ベッドの
わたくし、何を考えているの? ここはどこ?
「エカテリーナ!」
「はうっ!」
すぐ横から名前を呼ばれて、そちらを見たエカテリーナは安心した。
しかし中の人は思わずのけぞった。
(ななななんという美形! 肉眼で見たことない、俳優にだっていないレベル! どストライク命中すぎて胸に穴が空きそう!)
ベッドの横にいるのはもちろん、前世の
でもゲームの画面よりはるかに素敵だよ!
アラサー目線ではまだ線の細さが残る若さがまぶしいけど、もう
(一瞬にしてチェック細かいぞ自分!)
「
自分のほうが苦しそうな
またお兄様を苦しめてしまった。
(ピンチはチャンス! 関係改善のチャンスだよ! 甘えて
……なに、これ。
(あー、人格が
頭が痛い。
思わず片手を額に当てる。
「エカテリーナ……医師を呼ぶか? うなずくだけでいい、応えてくれないか。お願いだ」
お兄様に、大丈夫と伝えなければ。でも、ずっと意地を張ってきて、今さら声がかけられない。
(んじゃ、額の手をちょっと横移動しようか)
額から
アレクセイは目を見開く。
我に返って、エカテリーナの手が細かく
それに気付くと、アレクセイは妹の手を取って両手で包み込んだ。
大きな手。温かい。……
エカテリーナは横を向いて、兄と目を合わせた。
「お兄様……心配……おかけして、ごめんなさい」
アレクセイは一瞬
「何を言う、悪いのは私だ。初めて皇都に来たお前を連れ回してしまってすまなかった」
そう、だった。
(魔法学園の正門て、
前世の記憶。
(ほんとになんじゃそらだけど)
アラサー
(え、じゃああのままいくと
「えっ!?」
びくっと震えた妹の手を、アレクセイはあわてて離した。
「すまない、エカテリーナ。やはり医師を呼ぼう」
「いいえ、お兄様。わたくし、病ではございませんわ。誰も呼ばないでくださいまし」
「しかし……」
「それより、もう少し……手を
それを聞いて、アレクセイは今度こそ喜びに顔を
「ああ、もちろん。お前が望むことなら、私は何でもしよう」
そんな表情をすると、少し大人っぽさが薄れて、片眼鏡の似合わない少年の顔になる。
(あ、お兄ちゃんデレた。……くうう可愛い! エカテリーナも
「い、痛……」
「エカテリーナ!」
(ごめん、まずこの分裂状態をなんとかしよう……)
悪役令嬢と社畜の人格
一日目はあの後こんこんと
二日目、だいぶすっきりしたので起きてみたが、ちょっと何かに
三日目、心配するアレクセイに
そして気が付いたら、心の動きに
(疲れましたけど、三日ならじゅうぶん早い順応ですわね)
融合したといっても、悪役令嬢は
というわけで、令嬢の皮を
「お兄様、ご心配をおかけしました。わたくし、もう大丈夫ですわ」
四日目の朝、
「いいや、今日も休んでいなさい。あんなに何度も倒れただろう、お前はとても
ツンデレだ、この人は真正元祖ツンデレさんだ。
どこかで聞いた話ではツンデレとは元々『他人にはツンと
とにかく、アレクセイはエカテリーナにツンツンすることはなく、ひたすらデレなのだ。見た目は
「本当に大丈夫です。わたくし、今日ほど
キリッ、とエカテリーナは表情を引き
「お兄様、わたくしの学園入学まで、あと一カ月を切っておりますわよね。ですが……わたくしには学力と言えるものが、あまりにも
どどーん!
そう。半年前まで幽閉されていたエカテリーナには、貴族令嬢としての教育を受ける機会がなかったのだ。
ある程度のことは母が教えてくれたが、教材などもろくになく、やがて母は寝たきりになってしまった。半年前からは兄が教師をつけてくれたが、
なにしろ、入学するのは『魔法』学園。魔力の使い方を学ぶのが最大の目的という場所だったりする。なのに今の私は、魔力なんて本当に存在するのかも疑っちゃうレベルなんだよ。ゲームの世界なら魔力はあるはずだけど、使い方の前に存在
「お兄様もそれを心配なさったから、入学より一カ月も早く皇都にお連れくださったのでしょう?」
「……だが、お前の
って、こらこらこらこら。
乙女ゲームのエカテリーナは、公爵家の権力で
「でもわたくし、お勉強したいと思いますの。昨日お兄様が貸してくださった歴史の本が、とても
これは本当なので、真心こめて言える。そもそも、前世では就職して社畜にジョブチェンジするまで、歴女だったし。
いや
「それにわたくし、やりたいことができましたの。そのために、たくさん学ばなければならないのですわ」
「やりたいこと? ほう、何かな」
「たくさん勉強して、法律でもなんでもわかるようになって……お兄様のお仕事を、お手伝いできるようになりたいのです」
よほど意表を
十七歳ですでに公爵、という設定を前世で見た時は、ふーんとしか思わなかった。
しかし……よく考えたらそりゃそうだ、という感じだが。この三日だけでわかってきた。
公爵、
前世の世界で例えたら、総合商社の社長と、県知事を、
この三日出来るだけエカテリーナの
聞き取れた話だけで、公爵領内の鉱山(あるんだスゲー!!)の産出量がどうのとか、どこかの村でがけ
なかでも思わず聞き耳を立ててしまったのが、領地に広がる森林に
『竜が出た』のファンタジー感と『報告書』『追加予算』の日常感。シュールよのう……。
まあとにかく、アレクセイは
しかし、それをこなしてるんだよこの人!
たぶん彼の頭の中には、
知識だけでなく対処のスキルもすごい。すべての問題にてきぱきと指示を出し、書類を
なんというできる男! 十七歳でそれができるって、もうチートのレベルじゃないの? 江戸時代の名君、
そして、社畜ははたと思ったのだ。
なんか……過労死フラグ立ってない?
仕事ってのは、有能な人のところへ集まってくるんだよ!
やめて!
そんなフラグどうやって折ればいいんだよ。破滅フラグよりこっちの方が
そんなわけで、お手伝い宣言になったわけだ。
まあ、アレクセイはただ
「お前は
「はい、まずは
負けずにアレクセイの言葉を流すエカテリーナであった。
「無理はしないとお約束いたします。ですからお兄様、よい教師を手配してくださいまし。……このまま入学するのは、わたくし、
ね、と
……悪役
とにかく、明日から
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