悪役令嬢、ブラコンにジョブチェンジします
浜 千鳥/角川ビーンズ文庫
プロローグ 社畜と悪役令嬢➀
──私は
カビの生えたギャグとお思いでしょうが、今ここにおいてはガチです。めっちゃガチ。本気と書いてガチと読む。
いや
だって私の中──私が、二人いる。
私の名前は
労働基準法なにそれ
幸か不幸か、仕事自体はやりがいあったんだよね。やばい間に合わないって案件にお助け投入されて、ギリギリ間に合わせるのが役目。
はい、冷静に考えると使い
とっとと転職でもすればいいのに、社畜適応しすぎてた。毎日あまりに仕事
心の
いや寝ろよ。今にして思えば少しでも休めや自分。
しかし働きすぎでマトモじゃなかった私は、テキトーに選んだ乙女ゲームをスマホにダウンロードし、通勤電車の中とかでプレイしてみた。そして、ナナメなハマり方をした。
ファンタジー
だけど、思わぬお気に入りができた。
乙女ゲームには付き物らしい悪役令嬢が、テキトーに選んだゲームにもしっかりいた。というか選んだゲーム、かなりのテンプレだったんだね。まあ前述のファンタジー魔法学園とか、メイン攻略キャラが王子様とかでお察し? いや設定は皇国の皇子様だったな。
ただちょっと
見た目、どストライクだった。メイン攻略キャラの皇子より、
そして設定では、彼は
なおどう見ても二十代。
こいつがね! 悪役令嬢をベッタベタに甘やかしてんだわ!
妹を甘やかす
『お前は誰よりも美しいよ、我が妹。お前こそ皇后にふさわしい』
『我が公爵家のすべてを
『お前を悲しませるなど、神にすら許されないものを。皇子であろうと私は許さない!』
出番の少ないサブキャラだから有名な声優さんではないんだろうけど、低くてめっちゃ良い声で、これでもかと妹を甘やかす兄。設定の非情とかクールとかどこ行った。兄ちゃんシスコンすぎる。もう笑った。
しかし妹は、正直アホの子だと思ったね。ヒロインにしょーもない
しかし兄は
と内心でツッコミを入れまくり、笑いをこらえ、悪役
そんな時でさえ、お兄ちゃんは
悪が
この後エンディングまでゲームは進めたけどさあ、ほとんど苦痛だったわ。
ブラック企業で
お兄ちゃんが攻略キャラなら良かったけど、ネットで調べても
……もう一回言うわ。寝ろよ自分。
でもさ、この
で、家でベッドに横になって、でも眠れずにゲームしてて、手が
たぶん死んだね。チーン!
……
わたくしの名はエカテリーナ・ユールノヴァ。
(あーそれ乙女ゲームの悪役令嬢の名前。お兄ちゃんはアレクセイだよね。ファーストネームだけ
十五歳になって、魔法学園に入学するために、生まれて初めて公爵領を出て皇都へやってきたところ。半年前までお母様と共に
(え、幽閉ってなにそれ。ゲームの設定に書いてなかったけど)
ユールノヴァ公爵家は三大公爵家のひとつ。初代セルゲイは皇国の開祖ピョートル
(マジかすげー。
お祖母様は誇り高く、厳しい方だった。ユールノヴァ公爵家といえど、皇女たるお祖母様は別格の存在で、すべての中心。
わたくしはお父様にお会いしたことがない。わたくしが産まれた後、お父様がお母様の
お祖母様は女児であるわたくしには関心がなかったから、わたくしはお母様とずっと
(そうだったの!? なにそれヒデェ、
お母様はいつもわたくしにおっしゃった。あなたは必ず皇后になってと……。
皇后になればお祖母様でさえあなたに頭を下げねばならなくなる。なんでも好きなことができるようになると。だから必ず皇子にお会いして、皇后になって。そうしたら、母をここから救い出しておくれ。
そう言いながら、いつも泣いていらした。美しさを
(そ、そんな重い理由で皇子を追っかけてたんだ……なんかごめん)
もともと病がちだったお母様は、わたくしが十歳になる頃にはほとんど一日中、ベッドを出られなくなってしまった。
わたくしはお母様をお
でもごくたまに、邸の前を通ってゆく一行がいた。
それを見るのはわたくしの楽しみだった。
(お兄ちゃん……きっとお母さんに会いたかったんだね。ババアが会わせないからせめて近くに、でも姿も見られず通り過ぎるだけ……くうっ、クソババア絶許!)
そんな暮らしは、半年前にぷつりと
いつも静まり返っていた別邸に、
そして、新しい公爵の命令だと言って、わたくしとお母様を馬車に押し込んだ。ずっと
お兄様がお部屋に
でもわたくしは、現れたのがお兄様だと気付かなかった。とても背が高くて、片眼鏡が厳しい印象で、ずっと年上の、大人の男性だと思った。
お母様が目を開いた。
そしてお兄様を見て、
「やっと……来て、くださった。アレクサンドル様……」
呼んだのは、お父様の名前だった。
お兄様は
「すまなかった……アナスタシア」
それがお母様の
だからお兄様は、一度たりともお母様にご自分の名を呼ばれたことがない。
(くうう……めっちゃ泣くー! お兄ちゃん
そう、本当はお兄様はお
でもお兄様は、公爵として
お兄様はわたくしを
……でもわたくしは、お兄様にまともに言葉を返したことがない。
くださる物を
(
これではいけないと思うの。でもお兄様に
(最期に声をかけた相手がお兄ちゃんだから? 意識
きっとお母様も、本当はわたくしなんかいらなかった。お祖母様も、お父様も、お母様も、お兄様さえいればよかった。わたくし、なんなのかしら。
(あー……こじらせてんのね。うん。
ピンヒール? ふふ……ありがとう。
でも、あなたは
(うん……たぶん……たぶんだけど。
私は、あなたなんだと思う)
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