第4話 オッサンの正体

「お、オッサン、あ、あんた一体何者だよ。僕に何の用だ?」

僕の声は震えていた。


オッサンは目を大きく開き、

「あれ、俺のこと知ってるの?」

と訳が分からないことを言った。

「は?」

「だって、今、俺の名前を言っただろ」

僕は困惑した。このオッサンの名前など知るはずもなく、実際にオッサンと呼びかけただけだ。

「言ってないよ、頭がおかしいんじゃないのか、オッサン」

「ほら、また言った!俺って有名人なのか」

オッサンは頬を赤らめ、頭をかいた。その仕草が僕をイラッとさせた。

「いい加減にしろよ、オッサン」

「また言った!」

オッサンは嬉しそうに拍手をした。


『まさか。いや、そんなことはない』

僕は心の中に浮かんだ考えを慌てて否定した。

『オッサンなんて名前の人は聞いたことがない。苗字であれ、名前であれ、ダサすぎる。鈴木オッサン。オッサン・スズキ。カタカナにして外国人風にしてもやはり違和感がある』

「俺の名はオツ・サンキチだ。漢字で書くと、乙女の乙に漢数字の三、大吉中吉の吉だ。オツ・サンキチ、略してオッサン。格好いいだろう」

オッサンは僕の目の前で空気を黒板に見立て、自分の名前の書き方を説明した。

僕は苦笑した。鈴木オッサンやオッサン・スズキよりもマシだが、決して格好良くはない。むしろ、少年時代からオッサンと呼ばれていたことを想像し、気の毒に思えた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スーパーヒーローになりたくて Karasumaru @kennyblink360

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ