第40話 意図せぬ再会

 トリュスに案内された建物の地下室で、魔法研究所に置いてきた荷物などを図らずも受け取ることが出来た。更に、トリュスが準備したという食料などを受け取って王国から別の国へ逃げる準備が万端となった。今日予定しいていた店を回って旅の準備をする必要が無くなって、今すぐ出発できる状態だった。




 


「それじゃあ、行こうか?」

 僕が声を出して建物を出るように促す。無口なトリュスは首を傾けて反応するだけで声は出さない。しかし彼女は先を歩いて進んでいくので、僕も再び彼女の後について歩いて行く。街の方へ向かっているようで、どうやら街を通り抜けて草原へと出るようだった。


 


 街は普段と変わらない様子だったけれど、時々見えない遠くの方から女性の大声が聞こえてきて、捜索の手は街まで伸びていることが分かった。しかし、相変わらずトリュスの選ぶ道の先には王国兵は居なくて、鉢合わせになることもなかった。一体全体何処から捜索ルートの情報を得ているのか、それとも今判断して道を選んでいるのかは分からなかったが、先に進むトリュスは非常に頼もしい。


 


 そういえば、街から外へ出るのにも門を通る必要がある。ソレ以外は、王城の城壁に比べたら背は低いが、一応街を守るための防衛壁が街と平原との境界にある。どうやって通るのだろうと歩きながら考えていると、草原へと出る普通に門の方へと向かって歩いていた。


 


「ちょ、大丈夫なの?」

「ウン、安心。付いて来て」

 門は開かれた状態だったけれど、王国兵の女性が2人見張りをしていた。2人の王国兵が僕達を見つけて仲間を呼ぶ可能性があると考えた僕は焦ってトリュスに確認を取ると、彼女は何事もないように普通に門へと向かて行った。


 門の近くまで来ると、トリュスが立ち止まって警備していた1人に視線を向ける。僕もトリュスに合わせてその場に立ち止まる。一体何をするのだろうと状況を見ていた。


 トリュスが視線を向けていることに気づいた王国兵は、立ち止まったトリュスに視線を向けて、次に僕を見た後、再びトリュスを見ると頷いて反応。そのまま、トリュスが歩き出したので、僕は慌てて後を追う。


 


「あれは一体、何?」

 まるでトリュスが魔法を使って人を操作したように、王国兵に警備されていた門を問題なく通ることが出来た。もちろん魔法を使った形跡はなかったし、人を従属させると言われる邪悪魔法と呼ばれる魔法を使うことは一般的には禁止されている。一体何をしたのかをトリュスに尋ねる。


 


「賄賂、事前に仕組んだ」


 どうやら、金品を王国兵に予め渡しておいたらしく、今のように門を通してもらうために事前に膳立てしていたようだ。しかし、門を通る人物をシッカリと確認しないという、あんなザルな警備で良いのだろうか王国。と、ほんのちょっとだけ心配しながらも平原へと出る。


 


 王城から脱出し、街から外へでた僕達。今のところは追手もなく、しばらく王国兵は王城内部や街のあらゆる場所を探そうとするだろう。一先は安心だった。


「これから何処へ向かう? どの国を目指そうか?」


 王国にある周辺の国を思い出しながら、向かう先を話しあおうと思っていたらトリュスが待ったをかける。


 


「待って、人、来る」

「え? トリュスの他に誰か一緒に来るの?」


 どうやら、トリュスは街を出た外で人と待ち合わせをしているらしくて、もう少し待てば人がやって来るそうだ。行き先は皆が集まってから決めるべきとのこと。聞いていない話だったので驚きながら、彼女にどう言うべきか迷っていると誰かがやって来た。


「エリオット様ぁ!」


 昨日と同じような聞き覚えのある声と、身に覚えのあるタックルの衝撃。昨日の夜に分かれて魔法研究所の方へと戻っていったフィーネだった。


 


「フィーネ! 何故こんな所に」


「私も魔法研究所を辞めてきました。一緒に連れて行って下さい」


 “辞めた”という衝撃の告白を聞かされた。と言うか、トリュスもフィーネも仕事を簡単に辞めすぎだろうと思いつつ、トリュスが呼んだのはフィーネだったのかと思って視線を向けて確認する。


 


「フィーネをこの場所に呼んだのは、トリュス?」


 彼女は首を振って否定した。あれ? ということは彼女は何故この場所に居るのだろうか。と言うか、トリュスは誰を呼んだのだろうか。


 


「彼女に呼ばれたのは私達だよ、エリオット君」

「お待たせ、エリオットにトリュス」


 声を掛けられて、クロッコ姉妹の存在に気づく。今朝別れたばかりで、再び会うのは当分先のことだろうと思っていたのに、思いの外早い再会だった。


 


「何故、彼女たちをこの場所に集めたんだトリュス」

「危険、かもしれない」


 トリュスは、この1週間で交友関係を結んだクロッコ姉妹や、研究員時代に親しかったフィーネが王国に居ることは危険だと訴え、そして一緒に連れて行くべきだと主張した。


 


「だけど、僕と一緒に居る危険性は? 僕はこれから王国に狙われるかもしれないんだよ?」


 王国が危険というならば、それぞれで他国に向かえばいい。僕と同行する必要も感じないし、別れて進んだほうが良いだろうと僕は考える。


 


「逃げる、戦力、必要」

「しかし、……」


 確かに、人数が居れば取れる手段も多くなって有利に逃げられるかもしれないが、彼女たちが危険にさらされる可能性があるならば、別れて逃げたほうがいいだろう。トリュスにフレデリカさん達の同行を諦めるように説得をしようとしたとき、横から声が掛かる。


 


「私たちは別に問題ないぜ」

「えぇ、別れたとしても追われる危険性があるわ。それにダンジョンでの出来事を考えたら、エリオット君と一緒に居たほうが安全と思うわ」

「エリオット様の助けになるならば」


 フレデリカさん、シモーネさん、そしてフィーネの3人は既に同行することを決めて問題ないと言っている。彼女たちの顔を見て、既に覚悟しているというのを感じて何も言えなくなる。


 結局、他国へと向かうパーティーには僕とトリュスの2人に加えて、フレデリカさん、シモーネさん、フィーネの3人、合計5人パーティーで進むことに決まった。

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