第39話 逃げる為に

 トリュスから聞いた話が本当ならば、魔法研究所に戻ったとしても監視が続けられて用が無くなれば害されるだろうし、王国から逃げても女王によって兵を動かされて、狙われ害される可能性があるだろう。




 


 つまり、何とか王国から逃げ切る必要があるという事。


 


「私が守る」

 トリュスが意気込んで宣言してくれるが、何故そこまでしてくれるのだろうか。


 


「1年監視、好意を持った」

 彼女は僕の監視を続けていて、僕の色々な場面をのぞき見て、いつの間にか好意を持ったそうだ。僕の監視の任務を解かれると諜報部隊を無理やり辞めて、ずっと僕の監視を独自で続けていたそうだ。そして監視を続けながら、何故監視任務を解かれたのか、僕に何が行われるか、情報を集めていた。


 


 暗殺計画の情報を手に入れた後は、僕一緒に王国の目から逃れるためにどうすればいいのか、逃走計画を準備していた。しかし、逃走の準備をしている間に、女王の命令によって計画が動き出していて、気づいたら魔法研究所に居なくなっていた僕。それから、ダンジョンに潜った後、行方が知れなくなっていたという情報を入手。


 でもトリュスは僕が死んだとは欠片ほども思っていなかったから、逃走計画の準備を更に進めることにしたらしい。


 


「これ」

 そして、トリュスは部屋に有った荷物から何かを取り出して僕に見せる。


 


「コレは、僕の研究資料?」

 魔法研究所に置いてくるしかなくて諦めていた、研究道具が有った。更には研究の成果報告に提出した資料や、研究に使っていた資料、生活に使っていた道具などが揃えられていた。僕がダンジョンに行っている間の1週間で集めたらしい。


 


「僕の研究室から持ってきたの?」


 コクリと頷くトリュス。どうやら、僕が魔法研究所を追い出された時に置いてきた荷物を出来るだけ持ってきてくれたようだった。しかも、何処から集めたのか今まで僕が提出してきた研究結果の成果物や資料なども取り揃えてある。


 魔法研究所は、魔法技術という重要な情報が集まる、王国にとって最重要であると指定されている場所なので、王城と同じぐらい強固に警護されている。他国から来る魔法技術を探る間諜の侵入を防ぐために、かなりの数の王国兵達が常時配置されていて、しかも物理的にも魔法的にも侵入防止する為の仕掛けがしてある。侵入するのは容易ではないはずだった。そんな場所に侵入を成功させて、更には荷物を持ちだしたというのはトリュスの能力の高さを証明するだろう。


 


「1年監視、成果」

 トリュスは魔法研究所に侵入できたのは、僕の監視を続けている間に魔法研究所の内部構造や仕組みを調べ尽くしていたおかげだという。それらの情報などは、僕にバレないようにするために準備したモノだったけれど、その頃の行動が幸いして魔法研究所への侵入や情報や荷物の持ち出しには全く苦労しなかったそうだ。


 


 部屋には僕の荷物の他に、食料なども買い込んで隠して置いてあるらしい。逃げている間に必要な物を考えて、取り揃えたそうだ。それら全ての荷物を僕の魔空間に収納させるようにお願いされる。


 トリュスがココへ寄ったのは、僕の持ち物等を取りに来る事と、逃走に使うために隠した食料などを取りに来たという事だった。


 


「一緒に逃げる」

「しかし僕は王国の兵たちに狙われていて、一緒に来れば危険な目に合うかもしれないよ?」


 今更だけど、僕と一緒に居れば王国に目を付けられて危険な目にあうだろう事を言ってみる。しかし、トリュスは意見を変えない。


 


「私、諜報部隊、無理やり辞めた。私も追われる。一緒で大丈夫」

 トリュスも追われる身であるらしい。覚悟を持って、僕と一緒に逃げてくれるらしい。


 


「一緒じゃイヤ?」


 トリュスの今まで無表情だった顔が、不安そうな顔へと変わっていた。

僕を助けてくれて、逃走のために万全の準備をしてくれていた彼女が嫌なわけがなかった。しかし、トリュスが追われる原因になったのは、元をたどれば僕の責任だった。僕の監視を任されてしまい、僕の危険を助けるために諜報部隊を辞めた。そのせいで追われる状況に追い込まれた。


 


 しかし、トリュスは僕と一緒に来ることを望んでいた。それに、僕と一緒に来なかったとしても、諜報部隊を無理やり辞めたので、彼女も追われる身となっているらしい。


 僕は考え方を変えた。二人共が追われているならば、僕が最大限努力して彼女を守ればいい。彼女に不自由な思いをさせなければ良いだろう。そう考えて、一緒に来てもらうことを、改めて僕の方からお願いした。


 


「僕と一緒に逃げてもらえますか?」

「うん」


 一緒に来てくれるようにお願いしたら、トリュスは不安げな表情から、先ほどの無表情へと戻った。が、返事をした時の声が少しだけ嬉しそうに弾んでいたように聞こえた。


 


「この場所、用事、無い。外に行く」


 この場所に置いてある荷物を全て、僕の魔空間に仕舞ったことを2人で確認してから、僕達はすぐに建物を出た。


 そして、王国兵の見回りを注意深く避けながら街を通って、外へ向かって歩き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る