第38話 彼女の語る真実
トリュスと名乗る女性に連れられて、街の中心から少し離れた所にある建物へと案内された。先ほどのトリュスの発言で、僕の監視をしていたという事が分かったけれど、先ほどの女王の前に連れて行かれた時の王国兵の態度に比べると、なんとなく女性からは攻撃的な、危害を加えるという感じがなかったので案内されるままに付いて行く。
もちろん一定の警戒はしているが、今身に着けているローブなら物理攻撃ならば一度は攻撃を防げるだろうし、魔法もある程度は無効化出来るという安心感があるため、リラックスすることが出来ていた。
連れてこられた建物の中には何も置かれていない、普段から人が使用している感じの無い空き家のような建物だった。トリュスは建物の中に入っても無言のままスタスタと部屋を歩いて奥へ行き、奥に有った階段を降りて行った。僕は彼女の後を追いながら家の中を調べるために魔法を使う。
探索魔法は外という広い空間では使えない、というか範囲が広くなりすぎて意味がなくなる。建物やダンジョンのような空間が区切られた場所でのみ効果があるという制限があった。
この探索魔法によって建物の中を調べてみたが僕とトリュスの2人だけで、他に人が居る気配を感じなかった。
一体ここに何があるのだろうか、何故ここへ連れてきたのだろうか。疑問に思いながら地下室へと進むトリュスを追うと、上の何も置かれていない生活感の一切無い部屋と比べて、地下室にはベッドやテーブルと椅子などが置かれていて、人が住んでいるように感じられた。
「説明」
トリュスは、部屋の中にある椅子に僕を座らせてから説明を始めた。しかし、彼女は口下手というか言葉足らずで、僕が疑問に思ったことがあるたびに質問を投げかけたり、予測したりして話を聞く必要があった。
話は、トリュスの自己紹介から始まった。
「私、トリュス。女王様の命令、貴方の監視」
「何処の国の女王による命令なんだ?」
よくよく考えると、他国の女王の監視だろうと思っての質問だった。先程は、女王の前に連れて行かれて、逃げている最中に“女王様の命令”と聞いたので、この国の女王をとっさに結びつけてしまった。
確認のためにどの国の? と聞いたらまさかの答えだった。
「この国の女王」
詳しく話を聞いてみると、トリュスは今居る王国の諜報部隊の人間らしい。
1年ほど前、王国から監視任務を受けて、その監視任務のターゲットが僕だった。1年前に前任者から監視任務を引き継いだらしくて、その前もずっと僕の監視は続けられていたらしい。
トリュスは1年前の引き継ぎ以前の監視について、どのぐらい前から監視が続けられていたのか、前任者は誰か等は詳しく知らないとのこと。
とにかく、この国の偉い方々に目を付けられて監視されていた僕。ずっと監視を続けて王国に報告していたトリュス。しかし、2週間前に王国から指示されていたトリュスの監視任務が解かれて、監視任務が女王の指示によって暗殺任務に変わって暗殺者に任務が引き渡されたという。
「計画、魔法研究所を追い出されたエリオット、街、出たら殺される」
僕が魔法研究所を追い出されて、王国民ではない僕は旅人として王国からすぐに旅立つだろうと考えられていたらしい。そして、街を出た所で依頼された暗殺者が人知れず処分する計画だったとのこと。
「でも私、エリオットの暗殺、見るのは嫌」
1年の監視を続けていたトリュスは、僕に対して情がわいたらしくて暗殺を阻止するために街を出た所で、暗殺者の任務を邪魔して僕を助けて、王国の目の届かないところに逃がすつもりだったらしい。
「エリオット、ダンジョン行った」
ここで、僕が気まぐれにダンジョンへと挑戦するために、ダンジョンへと行ってしまった。しかも罠の転移によってトリュスと接触する前に、何処かへと転移して行ってしまった。
「しかし、何故いきなり暗殺なんて計画を立てられる事になったんだ?」
今まで静かに研究をしていた僕。今回のことが無ければ、もうしばらくは研究を続けて王国の発展のための発明を続けて、王国に貢献していたと思う。魔法研究所を突然追い出されて、それが暗殺の計画の一部だったなんて物の目的が理解できなかった。
その事をトリュスに聞いてみると、彼女は暗殺の理由を語った。
「王女、エルフ、嫌い」
どうやら、この国の女王はエルフ、というか人間以外の種族に対して差別意識を持っているらしくて、魔法研究所に所属するエルフの僕も差別の対象とされていたらしい。曰く、王国の由緒正しき魔法研究所にエルフが所属するなんてありえない、即刻処分するべきだと。
しかし、今の女王が即位してから10年ぐらい経っているはずだけれど、つい先日まで何もなかった、何故今ごろになって? と疑問に思って聞いてみたら、女王が僕という存在を知ったのは1年程前、つい最近らしくて、その頃には僕の王都防衛用結界魔法という研究が始まっていて手を出さなかったそうだ。
そして、僕の研究が終了間際になって女王は、やっとエルフを処分出来るという気持ちが先走って、まだ研究が終わっていないのに僕を処分する計画を進めてしまったようだ。
「……なるほどね」
人間以外の種族を嫌う女王に、僕は女王という最高権力者という立場の人間が、嫌いだからと言うだけの理由でそこまでやるだろうか? と考えてみたけれど、今日の彼女の豹変した無表情の顔や、暴力を働かせるような指示を思い出すと、エルフ嫌いによる計画は真実のように感じられた。
「でも今日、女王は僕を魔法研究所に戻そうとしたけれど?」
王国兵を使って、王城まで連れて来て僕を魔法研究所に戻そうとしていた。何故、暗殺計画を立てて殺そうとしたエルフを、再び方針を変えて魔法研究所に戻そうとしたのか。
「魔法、皆、理解できない」
どうやら、僕の研究の王都防衛用結界魔法を理解できる人間が居なかったらしく、残りの部分を完成まで仕上げられる人が居なかったらしい。それで、仕方なく完成させるには僕に任せるしか方法が無いと結論づけた。僕が街に戻って来たことを知って、苦渋の選択の後に僕を引き戻そうとしたらしい。
「けれど、僕が魔法研究所に戻る気はないと抵抗したから、ああなったと」
トリュスが頷く。
昨日は魔法研究所で仲間だったフィーネから研究所の状況を聞いて、今日の朝には、この国の最高権力者である女王から話を聞いて、そして今は諜報部隊に所属していると名乗るトリュスから話を聞いて、どれが真実なのか、何を信じて、何を嘘だと思うのか判断に迷った。
しかし、今確実なのは女王の指示によって王国兵に追われているという状況だった。
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