第34話 王国の城
僕は今、行方が何処とも知れず馬車に乗せられ連行されている。馬車には僕の他に2人の王国兵である女性が乗り合わせていて、馬車の中には僕と合わせて計3人が居る状態だった。彼女たちは二人とも、僕の向かいの席に座って僕の監視を続けている。
何処に向かっているのか、どんな目的で馬車に乗せられているのか、いつ開放してくれるのか、色々質問してみたが彼女たちは表情ひとつ変えずに僕の言葉を無視。なので、質問を諦めて考えに没頭することに。
僕が今馬車に乗せられている理由、考えられるのは魔法研究所関連の問題だろうと思う。そして、僕が魔法研究所から去った事が関連しているだろうか。
昨日のフィーネから聞いた話では、僕の方から“辞めます“という事になっていたらしいが、間違いなく僕は追い出された。辞めるつもりは無かったが、考えてみると既に魔法研究所に所属するという事に執着は持っていない。ちょうどいいから辞めて王国から出て旅でもしよう、故郷にでも帰ろうかと考えて歩き出した。
その後は直ぐに王国を出るつもりだったが、なんだかんで1週間もダンジョンに篭もることになって、王国からの旅立ちが延びに延びた。
「着いたな……。降りろ」
馬車が急に止まって、王国兵の1人が右にある扉にある小さな窓から外を確認してつぶやいた。その後、僕に向かって馬車を降りるように命令してくる。僕は特に反抗せずに、王国兵の指示に従って馬車を降りる。
連れて行かれる先は魔法研究所だと思っていたけれど違っていたようだ。目の前には開かれた大きな門が見える。目線を上げると、石でできた非常に大きな建物が目に入る。王城だった。
遠くから見ることはあるが、近くで見た経験があまりないために認識するのにしばらく時間がかかった。魔法研究所に所属してからも、両手の指で数えられるぐらいしか来ていないので本当に馴染みがない。
「ついて来い」
僕は特に何も言わずに彼女の言葉にうなずいて反応を示すと、直ぐに彼女は歩き出した。そのまま王城へ入るのだろうと思ったら、城の側に立っている小屋へと連れてこられた。
普段王城には来ない僕なので、この小屋が何なのか分からなかった。中から何人かの魔力を感じるので魔法使いが複数人いる気配を感じとれる。しかし、王城の近くという場所で一体何をしているのだろうか。
王国兵が扉を叩いて数秒、小屋の中から女性が出てくる。王国兵とは違って、僕と同じようなローブを身に着けている。魔力の感じや操っている魔力のゆらぎも一般人に比べて少ないので、魔法使いだと判断する。しかし、一般人に比べればゆらぎは少ないが、魔法使いとしてはまだまだ未熟だと思う。そんな風に観察を続けていると、目の前で魔法使いと思われる女性が王国兵になにか渡す。
そのまま魔法使いは扉を閉めて小屋の中へと戻っていった。どうやら小屋の人間に何かを受け取るために寄ったらしい。と思ったら、王国兵が受け取った何かを持って僕に近づいてくる。
「コレを付けろ」
ボーッと様子を眺めていた僕に近づいて言う王国兵。彼女が差し出す手に持っているのは木の珠を数珠のようにつなげた腕輪。コレを小屋の女性から受け取ったのかと思いつつ、腕輪を引き取って見てみると、その腕輪にも先ほどの馬車に施されたものと同じように魔法を使用するのを阻害する効果を発生させる魔法陣が描かれている事が分かる。早く付けろと急かされた、特に問題はないかと左腕に付ける。
しかし何故今更こんな古い技術を使った物を取り出してきて、僕に装備させるのだろうか。コレを付けさせた後に魔法を使える所を見て魔法制御の能力の確認? でもコレぐらいのものだったら、ある程度の魔力の制御を身につけた魔法使いなら楽に破れるし、今更破れたとしても自慢にはならない。わざとコレを付けさせて何かさせる気なのだろうか、阻害を破って城の中で魔法を使えという合図?
考えながら左手を通した腕輪を確認していると、側に立っていた王国兵が僕の腕をグイッと掴んで引っ張った、どうやら僕が左腕に腕輪を付けた事をしっかり確認しているよう。見終えたら、バッと腕を離してそのまま身体をグルリと回して王城の方へと歩き出してしまった。
えらく乱暴に扱われるなぁと思いつつ、再び先行した王国兵の後についていく。左右や後ろに数人王国兵が付いて来て、僕は囲まれたまま城の中へと入っていった。
綺麗な廊下、途中に置かれた内装を飾る高そうな品々、時々壁で控えている使用人たち。
使用人の多くは女性だけれど、中には男性の使用人も居る。彼らのような男性の使用人を雇うことはステータスシンボルとなるそうで、王城には何十人もの男性の使用人が居ると言われていて、彼らの待遇はかなり良いらしい。前世を知る僕としては逆のように感じてしまうが、この世界では男性を多く雇うほうが社会的地位が高いことを示せるとのこと。
前後左右を5人の王国兵に囲まれた僕を、壁に控えた使用人たちが物珍しく見ている。
しばらく王城の廊下を進んでいくと、ある扉の前で先に進んでいた王国兵が立ち止まり僕の方へ身体を向けた。
「今より女王様の御前へと案内する。失礼のないように」
突然の王国兵の言葉に声を失う。いきなり王様の目の前に? 混乱しているうちに、扉が開かれて中へと押し入れられる。
僕が入れられた部屋には、入って直ぐ目に入る大きなテーブルがあって、テーブルの向こう側に女性が座っている。そして、座っている女性の側にも1人の女性が立っていた。
座っている女性には見覚えがあった。確か彼女はこの国の女王様だったはずで、何かの機会で演説を聞いた覚えがあったが薄っすらとした記憶で定かではない。そして、こんなに接近したのは初めてだった。
大きなテーブルの前に座っている女王様と思われる女性は何か書いている途中らしく、ペンを持って手を動かしていたが、僕がテーブルの前に立つと書くのを止めて脇に置かれたペン立てにペンを戻す。どうやら、この部屋は執務室のようだが何故こんな場所に連れてこられたんだろうと疑問に思う。
ペンを戻した彼女は、僕の事を視界に捉えて言う。
「其奴が、エリオットか?」
スッと耳に入ってくる声で、側に立っている女性に確認するような言葉。
「子どものように小さな身長、薄汚れた茶色のローブ、そして魔法によって隠された顔、間違いなく魔法研究所に所属していたエリオットのようです」
なんだか酷い確認のされ方だと思いつつも沈黙を続ける。本当に何故僕は王様の目の前へと連れてこられたんだ。僕は混乱したまま話が始まった。
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