第33話 拘束
料理が終わって、食器などの後片付けをして使った道具などを全て魔空間に仕舞った後。フィーネは研究所の方へと帰っていった。
最初はクロッコ姉妹の家に居残ろうとしていたが、僕が魔法研究所については戻るつもりはないが、王国を出て旅に出ても、いつか戻ってきたときにはフィーネに関しては個人的に会いに行くという再会の約束をしたら、納得して帰って行った。
シモーネさんに今夜貸してくれるという部屋に案内された。中は綺麗に片付けられていて、ベッドも布団も泊まる分には全く問題はなかった。
急に泊まることになったので、部屋の準備や掃除が必要かもしれないと内心では考えていたけれど、案内された部屋を見るとその必要は全くなかった。
もしかしたら、2人のどちらかが普段使っている部屋だから綺麗なので、僕を部屋に案内した後に別の部屋を片付けたりして寝床を用意するのではないのか、2人の普段使いの部屋を取ってしまったのではと勘ぐったけれど、フィーネさんに話を聞いてみると普段からこの部屋はお客様用にいつも綺麗に保って準備しているという。だから、いつでもお客様を招く準備ができていて、今日も急に僕を泊めることになっても問題はなかったらしい。
準備の良さに感心して、2人の厚意に感謝しつつ部屋を借りて一泊。ダンジョン内部で過ごした1週間で思いの外疲れが溜まっていたのだろうか、すぐに眠りについて気がつけば朝になっていた。
疲労が全部回復して、頭もすっきり爽快。起きたそのままで、借りた部屋を簡単に片付けてから、昨日皆で話しをした食堂へ向かう。
夕食に続いて、朝も僕が準備をして振る舞った。と言っても、簡単な調理で時間も掛からない物だったけれど、起き上がってきたクロッコ姉妹の2人は、起床時に食事ができているのを知ってすごく喜んでくれた。味にも満足して褒めてくれたので、僕のほうも非常に嬉しく思って作ってよかったと感じることが出来た。
いつまでも長居はできないと、僕は朝食を終えて直ぐに家を出る準備を始めた。街に出て買い物をすれば、やっと王国を旅立つことが出来る。と言っても、今の時間はまだ街にある店は開けられていないだろう。けれど店が開くその時間まで、街をぶらついて旅立ち前の王国に居たという思い出作りでもしようと考える。
「フレデリカさん、シモーネさん、1日だけのダンジョン探索のつもりが1周間も一緒に頑張ってくれて、最後には家に一泊させてもらってありがとうございました」
「おう、1週間色々な体験ができて良かったよ。またこの街に来たら、私達の家に寄ってくれよ」
「短い間だったけれど、ありがとう」
僕は1週間にあった事を思い出しながらフレデリカさんとシモーネさんの2人に礼を言う。フレデリカさんは気軽にお礼を言って、王国に戻ってきた時は再開できるようにと約束を。シモーネさんは、短い言葉だけれど深い感謝を感じる言葉を。玄関前でクロッコ姉妹に別れを告げて、外へ出る。
さて、まずは何処から見て歩いてみようかと歩き出した時、僕の前を誰かが遮る。
「エリオット様ですね?」
王国兵の鎧を着た見知らぬ女性。彼女の言葉は敬語で一応丁寧な風だったが、高圧的な態度で確認を取ってくる。気づくと、周りに何人か鎧を着て僕を囲っていた。どうやら待ち伏せをされていたらしい。
「えぇ、僕はエリオットという名前ですけど?」
一応聞かれたことについて答えながら、僕の周りを囲んでいる人間を観察する。周りにいる女性たちも、最初僕に話しかけてきた女性と同じ王国兵の鎧を着込んでいる。
「申し訳ないが、我々と一緒に来てもらう。ついて来い」
僕の前にいる女性は、クルリと身体の向きを反転させるとそのまま歩き出した。何のために連れて行かれるのか、一切の説明はない。こちらの質問を受け付ける様子もなく、ズンズンと先へ進んでいった。
王国兵が動くということは、王族に関係することや王国の機関に関すること、王国兵は僕を名指しで呼んで連れて行こうとするならば、おそらく昨日のフィーネが言っていた魔法研究所に関することだろうと思った。
待ち伏せしていたようだが、僕がこの場所に居ると知っていたのか。それなら情報源は? 一瞬フィーネの顔が頭に浮かんだが、彼女には魔法研究所には戻るつもりはないと伝えてあるので、わざわざ僕の居場所を吹聴するとは思えない。
ソレならばどうしてだろうと考える。街中を王国兵が見回っているとか、王国の諜報部隊にずっと行動を監視されていたとか、昨日の立ち寄った冒険者ギルドから情報が漏れたとか、色々と考えてみたが真実はわからない。
このまま王国兵から逃げて王国から出るのもアリだが、王国で道具を買い揃えてから旅に出たいし、僕がどういう状況に置かれているのかハッキリと認識しておきたい。
なぜ突然魔法研究所を辞めさせられたのか、何故今になって王国兵を僕へと寄越すのか、場合によっては今後の旅にも影響が出るかもしれないので、今のうちにわからないことを明確にしておこう。
王国兵について行った先には、馬車が停められていた。どうやら、この馬車で目的地まで送ってくれるようだが、よく見ると普通の馬車とは違っていて、魔法阻害結界が施されていた。この魔法阻害結界によって馬車の中では魔法が使えいない状態にされているようだった。
多分僕という魔法使いへの対策なんだろうが、実はこの結界は僕の昔の作品だったりする。しかもこの結界には欠点があって、魔法の制御がある程度上手く出来て、ある方法さえ知っているか考えつけば、結界の中でも魔法は使えるという欠陥品である。
そしてもちろん、その欠点を突けば僕も馬車の中で魔法を使えることになるけれど黙っておこう。
この発明に関して言えばいつかは改善しようと思っていたけれど、今はまったく別の方法で魔法を使えなくする技術が確立されていて、古い技術となっていて開発者の僕でも忘れていた存在だった。
久しぶりに懐かしい物を見れて、昔の発明には他にどんな物をがあっただろうか、と思いをしながら馬車に揺られて王国兵たちの目的地へと向かって行った。
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