第35話 女王様との話し合い
部屋の中には僕の他に、僕をこの部屋へと連れてきた5人の王国兵、椅子に座って僕を興味深く観察している女王様と思われる女性、その側に仕える女性1人の計8人が居る。
室内は、特に目立つようなインテリアのためのような目立つ家具は置かれておらず、目に付くのは中央に置かれた大きなテーブルだけ。そのテーブルの上には書類が置かれているのが見えて、今まで何らかの事務作業をしていたのが分かる。
「突然呼び出したりしてすまない」
椅子に座った女性は表情を笑顔にしながら、僕を突然の連行してきたことについて簡単に謝罪した。その後この国の女王であると自己紹介して教えてくれた。初見でビックリして混乱していた僕だったが、彼女の話を聞いているうちに徐々に落ち着いてきた。
「それで、私をこの場所へ連れてきた理由は何ですか?」
言葉は一応丁寧にして、だけど急かすようにすぐに本題に入る。今回の会談の目的は一体何なのだと聞いてみる。女王様は僕の疑問にすぐに答えてくれた。
「エリオット、君は一週間ほど前に魔法研究所を辞めさせられたのだろう? だけど、私は君に直ぐ研究所に戻ってもらいたいと思っているんだ」
「申し訳ないですが、私はもうあそこへ戻るつもりはありません」
言い出してから、しまったと思ったがそのまま言葉を途中で止めずに言い切る。相手はこの国の最高主権者である人間だが、魔法研究所には本当に戻るつもりも無いので彼女の言葉に断りを入れる。
「いやいや、そう急がないでくれ。今回の事情を聞いてから戻るかどうかの判断をしてくれ」
僕の断りの言葉に、待ったをかけて彼女は今回の事情とやらを話しだした。今回の僕の突然の解雇された理由について。
事の発端は、僕の上司であった女性の進めている研究が上手く行っていないという状況。もうすぐ何か発表できる成果を上げないといけない期限が近づいていたらしいが、それまでに何も発表できなければ降格、あるいは解雇される可能性があって焦っていたらしい。
焦っていたということは、彼女自身は発表できるものが用意できていないということだろう、そんな状況に置かれていた彼女の目に入ったのが僕の進めていた研究である“王都防衛用結界魔法”だという。
「彼女は自分の発表できない研究成果の代わりに、君の進めていた成果である王都防衛のための魔法を自分のものとして発表するつもりだったらしい」
そのために、1週間前に兵士を使って僕を追い出した。それから僕の方から“辞める”と言ったという嘘を吹聴して回り、そして同時に僕の研究についても引き継いだという事を宣言して回ったそうだ。
困ったことに、僕の上司は魔法研究所でも僕に比べてかなり上位の地位に居る人だったので人事権も有しており、僕の解雇を決定する権利を持っていた。
更には、僕から奪った成果によって後々手に入るであろう未来の利益を保証として仲間を集め、魔法研究所内部の人達に手を回して僕の追い出し行為を正当なものとしようとするために動いて回った結果、僕の方から辞めると言い出して研究所を飛び出したことが本当の事とされていたらしい。
しかし、その後が問題だった。僕の進めていた研究は未だに完成されていないものだった。残りの部分を上司が完成まで仕上げようとしたが、全く理解できずに手を付けられず完成させられないでいるらしい。少し前まで取り上げた研究の取り扱いについて四苦八苦していたそうだ。
一応研究の進捗は毎週報告していて、完成までにはもう少し時間がかかることを伝えてあったはずだが、完成をを待たずに僕を魔法研究所から追い出して研究を取り上げてしまった。
これは推測だが、僕が男性であるという事実が女性である彼女のプライドを刺激して、男の僕に出来たのだから女性である私が出来ないはずがないという思い込みで、仕上げてやろうと意気込んで挑戦してみたら全く理解不能だったのだろうか。それとも、僕に研究発表を絶対にさせないためにギリギリを狙って取り上げてみたら完成していなかったとか? 真実は分からないが、とにかくこのような状況だったらしい。
「君には申し訳ないことをしたと思っているんだよ。もちろん、事態を引っ掻き回した彼女は既に処分されているし、彼女に賛同した仲間たちも同じ措置を与えてある。今の魔法研究所には君を害するものは居なくなった。どうだい? 魔法研究所に戻ってくれないか」
そう言って締めくくる女王様。どうしても僕を研究所へと戻そうと躍起になっている。しかし僕の答えは変わらない。
「申し訳ないのですが……」
「なるほど、なるほど」
言葉を濁した僕の返事だったが、魔法研究所へ戻るつもりはないことは女王様に伝わっているようで、僕の返事に何度か頷いていた。
「しかし魔法研究所を辞めるとなると、これからどうする気だい? この街で他に就ける仕事はあるのか?」
「いいえ、女王様。私は王国を出て旅に出ようと思います」
話題を変えて話を続ける女王様。別のアプローチを探って引き止める気だろうか。
「それは困ったんなぁ。我が国の魔法技術を持つ君が国外に行くとなると、魔法技術が流出する恐れがあるから許可できないな」
「いいえ女王様、既に私は魔法研究所の職員では有りませんし、この国の民でもありません。なので、国外へ出る許可も必要なく旅に出られるはずです」
僕は一週間前に魔法研究所を向こうから辞めさせられて所属を外され、元々国民でもないために、一応は旅人という身分で扱われる。旅人ならば、国で犯罪を行った等の正当な理由がない限りは拘束できない。
下手な言い訳だけれど、彼女が僕を引き止められる決まりは今のところは無いはず。もちろん彼女はこの国の女王なので、その権力を発動し決まりなんて無視して僕を捕らえるとことも可能だ。けれど、この世界では男性というだけで優遇されていて、全世界の国において共通で守られる “男性に不当な危害を加えてはならない”という決まりがあって、男性である僕を強制的に捕まえたとなると他国から批難される可能性がある。国を治める女王様には、他国との関係を悪くする方法は選択できないだろう。
そう考えていたが、どうやら僕の考へは甘かったらしい。今まで笑顔で対応してくれていた女王は、表情を無に変えて右手を肩の部分まで上げて視線を集める。そして、彼女は王国兵に指示を与えた。
「その、エルフを捕まえて床に跪かせろ」
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