第30話 僕の去った後
「何故突然、魔法研究所を辞められたのですか? ずっと進めていた研究をあんな奴に引き渡して、ダンジョンなんかになぜ行かれていたのですか?」
隣に座っているフィーネの言葉を聞いて、なんだかおかしいなと思った箇所について質問する。
「フィーネの言い方だと、僕が自発的に研究所を辞めたような感じになっているけど研究所の方ではなんて言ってるの?」
あの朝は、突然上司がやって来て解雇を言い渡されて無理矢理に研究所を出されたから、“辞めた”ではなく“辞めさせられた”はずだった。僕の方の事情を説明すると、フィーネの顔が険しくなっていった。
「そんな……!? あの女、だから!」
そして僕の言葉を聞き終えると、何かを納得して激昂するフィーネ。先ほど、シモーネさんやフレデリカさんを睨んでいた時よりも怖い目をして怒っていた。しかし、僕は事態が飲み込めないので詳細な説明を彼女に求めた。
「フィーネ、君の言葉を聞く限りだと君の知っている状況と、僕の置かれた状況とに食い違いが有るみたいだ。順番に確認させてくれ」
怒るフィーネを落ち着かせて、僕が研究所を去ってから後の事を順番に説明してもらった。フィーネの知っている状況はこうだった。
まず、僕は一週間前に魔法研究所の研究職員を辞めると自分で言って研究室を飛び出して行った、ということになっているらしい。というのも僕の研究所を出た理由は、研究に使うための道具を購入する予算が出ないという事を不満に持っていたから。何度も申請のし直しをしていたが、全て却下されていた。そして、一週間前の日に予算が出ないことを再度知らせると、僕が辞めると言って研究所を飛び出して出て行ってしまったらしい。
そして、僕が去った後に残った研究は、仕方なくと言って上司が引き継いだとのこと。
「いや、確かに予算の申請は出していた。それに関しては却下されてしまったけれど、道具は自分で用意したんだよ」
研究に使う道具や、発明した物を形にするための人件費と材料費の予算が出ないので、仕方なく自作して用意したものを使用して研究を進めていた。だけど、自分で作ってみたものの見た目の出来栄えがあまり良くはなかった。研究だけを進める分には問題なかったけれど、研究成果の発表を提出する時には人に見せることも有るだろうから見た目も考えて、道具を作っている専門の職人に発注して用意しないと、自作では見栄えが良くないだろうと思っていた。
だから、申請理由もシッカリと説明してから二度目の申請を出したが当然のように却下された。それで自分の作った道具をそのまま使うことにした。多分この事について言っているんだと思い出してみたが、コレについて予算に不満があったという件に関しては正しい。
しかし、予算が不満だからといって何度も申請を繰り返したり、研究所を飛び出したりはしていない。あの件で申請したのは二度だけだし、辞めたことについては、むしろ追い出されたのが正しいので、後半部分は全然間違った風に伝わっているようだった。
「それで僕の上司は、シッカリと僕の研究を引き継いでくれたのか?」
王国の防衛を強化する為に発明した王都防衛用結界魔法は、かなり重要な研究発明事業だった。
王都の地理から王都中にある建物の配置を調べて、魔力や人間の流れ、それと魔法陣の効果を計算し組み合わせを研究し考えだしたものだった。時間さえあれば、シッカリと引き継ぎができたのに突然追い出されたことで資料も用意できなかった。だから、残りの作業は大変だろうと思っていた。と言っても、残っている作業は調べた結果から魔法陣を完成させて、王都の土地に刻みこんで発動させるだけ。残りの作業を残して追い出された僕は、あの後どうなったか一応の心配をしていた。
「それが、エリオット様が去った後に研究を引き継いだと言っていたあの女は、まだ完成していない事を理由に技術を独占して公表しようとしていないんです」
あの女とは、僕の上司の事だろう。しかし、完成していないから技術を隠匿する? よくわからない言い分だが、まだ完成していないようでガッカリした気持ちになった。
今まで不機嫌な顔をしていたフィーネが一転して笑顔になる。
「ということは、エリオット様が研究所を去ったのは間違い! あの女の独断ということですね! このことをちゃんと知らせれば、エリオット様は研究所に戻れます。今すぐ研究所に戻りましょう、エリオット様。貴方を失えば魔法研究所の大きな損失になります!」
興奮しているフィーネには申し訳ないが、僕は戻るつもりは全くなかった。
「フィーネ。すまないけれど、僕はもう研究所に戻るつもりはないよ」
既に王国を出る決心もできていて、お金もダンジョンに潜って手に入れていた。明日には街の魔法道具の売っている店を見て回って、欲しいものを手に入れたらすぐにこの国を出るつもりでいる事をフィーネに伝える。
「……」
フィーネは僕が魔法研究所へと戻るつもりがないこと、王国からも離れて旅に出ることを聞いてショックを受けていた。
魔法研究所の現状、そして冒険者ギルドでの事を聞いて少し不安ではあるが、逆に少しでも早く王国を出ようと密かに決心する。
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