第29話 姉妹の住む家
フレデリカさんとシモーネさんの姉妹2人に連れられて、クロッコ姉妹が実際に住んで生活している家へと案内される。
旅人や冒険者達が利用する宿や、魔法道具や食料品、本などの様々な商品が売っている店などが立ち並ぶ商業地区を抜けて、王国民が住んでいる民家が立ち並ぶ住宅地区へとやって来た。
先ほど、道の真ん中で僕に抱きついてきたフィーネは、姉妹の自宅へ向かう途中は抱きつくのを諦めてはくれた。しかし僕を逃さないためなのか、腕を離さないように僕の腕と彼女の腕をギュッと絡めて掴んでいた。
そしてフィーネは僕の腕を掴みながら歩いている間中、案内をしてくれているクロッコ姉妹を後ろからキツく睨んでいるので、流石に彼女たちに悪いだろうとフィーネを注意する。
「こら、フィーネ。今からお世話になるんだから、そんな不愉快そうな目で彼女たちを見るのはやめなさい」
「しかし、エリオット様!」
言い訳しようとするフィーネを、今度は僕がキツイ目をして批難するようにして見つめる。フィーネは自分の行動を省みてか、それとも僕の態度を気にしてなのか、反省する姿勢になるフィーネ。
「……すみませんでした、エリオット様」
「僕に対してではなくて、彼女たちに向けて後で一緒に謝ろう。ソレにさっきの態度についても、初めて出会った人に対してあんな風に敵対心剥きだしにするのは、いけないだろう?」
普段は人当たりがそんなに悪くない彼女。そんな彼女は人との距離感を上手に保って、研究所内でも人間関係に特に問題はなかったはず。
しかし今のように感情的になると、敵味方の区別をフィーネなりにハッキリとつけて味方には非常に甘えるが、敵に対してはフレデリカ達と接するように、嫌という態度を隠すこともしないので問題だった。
そんな人なので、あまり彼女が感情的にならないように、そして感情的になってもすぐに落ち着けるように僕は対処していた。しかし、今日はよっぽど怒っているのか、なかなかフィーネは落ち着かない。
クロッコ姉妹の自宅へ到着する頃には、今よりもう少しだけ感情を抑えておいてほしいけれど、と思いながらフィーネと一緒に歩いている。
冒険者ギルドの建物があった場所から10分ぐらい歩いた所、民家の立ち並んだ通りにある1つの家に入っていく。
豪華ではないが、石造りで作られたドッシリとした安定感のある立派な家に案内された。家の中を観察してみると、見た目が非常に綺麗に整頓されいながら生活している感じもあって快適そうな空間だった。
聞くところによると、クロッコ姉妹はこの家を母から受け継いだらしい。その母親は冒険者として活動していたが、5年ほど前に仲間と一緒にダンジョンに挑戦している時に亡くなられたそう。
そして父親については、母親が子種だけ貰って姉妹は一緒に生活することはなかったらしい。そんな父親とは、他人のような関係性だそうだ。
男性の人口が少ないこの世界では、男性は複数の女性と関係を持って子どもを生ませる。そして女性は男性から子種だけ貰って一緒に生活をしない、というのはあまり珍しくはない事情だった。
今は姉妹だけが住んでいる家に招き入れられて、座って話が出来るようにと6人が囲んで座れるような大きめのテーブルが置いてある部屋へ案内される。
テーブルの置かれた部屋に案内されて、やっと落ち着いてフィーネの話を聞けるだろうか、と思いつつテーブルの側に置かれた椅子に座ると当然のように、僕の座っている椅子の横に置かれた椅子に座るフィーネ。
出来れば真向かいに座ってもらって話をしたいと思ったが、彼女に席を移動させるように説得するには話が長くなりそうだったので、とりあえずは僕の横に座らせてフィーネの話を聞くことにした。
ふと気づくと案内してくれたフレデリカさんとシモーネさんは、席に座らず立っていた。どうしたんだろうと訳を聞こうとすると、フレデリカさんが先に聞いてきた。
「えっと、その、私達もその女性との話し合い、エリオットの事情を聞いてもいいか?」
どうやら、席に座って一緒に聞いていい話かどうか判断できずに迷っていたらしい。
「多分魔法研究所の事ですけど、聞かれて困ることもそんなに無いですし、話を聞いてもらっても大丈夫ですよ」
フレデリカさん達に家の一室を借りて話をするということなので、家主の彼女たちを部屋から追い出すのは気がねして、聞いてもらっても問題ないと了承する。
フィーネは、フレデリカさんとシモーネさんが向かいの席に座るのを無言で、それとなく見ていた。先ほどの僕の注意が効いたのか、彼女は睨むような目はしていなかったので安心した。
女性3人と僕1人が席について、さて何から話すべきかとちょっと悩んでいるとフィーネから先に質問をしてきた。
「何故突然、魔法研究所を辞められたのですか? ずっと進めていた研究をあんな奴に引き渡して、ダンジョンなんかになぜ行かれていたのですか?」
フィーネが質問してくる内容に分からない事が幾つかあったので、僕は逆に彼女に質問して、その疑問から解消していくことにした。
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