第25話 未発見のダンジョン


「私の記憶では、この辺りは特に何もなかったはずなのだけれど。こんな場所にダンジョンがあると言う事を知らなかったわ。アンニーナ、この場所にダンジョンが有ったという報告は受けていませんか?」

「いいえ、ギルド長。私が仕事に就いてから今まで、王国の近くに新しいダンジョンを発見したという報告は受けていません。いくつか報告は間違いだったという話は聞いていますが、間違いについてもエリオットさんの示す場所付近で発見したという内容は一切ありませんでした」


 アンニーナさんの答えを聞いて、顎に手を当てて考えだすソイントゥさん。


「未発見のダンジョンが今頃になって発見される……。いえ、今だから、なのかしら?」


 考えにふけるソイントゥさん。アンニーナさんが質問を再開する。


 


「話を途中で止めてしまい、すいませんでした。それで続きなんですがドラゴンから逃げて、その後は一体どうしたんですか?」

「それから外へ出るための道を探したんですが、上層へ登る階段に向かうにはドラゴンを越えて行かないといけないという事が分かったので、逆に下層へ向かう階段を降りて行きました」

 僕の言葉に呆れたような顔のアンニーナさん。


 


「道を探したということは探索魔法でしょうか? しかし、上へ登る階段がドラゴンに立ち塞がれているから下へ向かうというのは安易ですね。と言っても、ドラゴンに立ち向かう方が無茶ですし、他に方法は有りませんか」

 彼女の言うとおり、上へ登る階段に進めないから下に向かって降りていこうと言う考えは安易だった。しかし、ドラゴンとの突然の遭遇で体力も魔力も一度全部使い果たした僕は、神経質になっていて精神的にストレスも感じていたから、ドラゴンから逃げたい、距離を取りたいという考えが内心にあったのかもしれない。だから、僕たち3人はだれも反対すること無く下へ向かう道を選んだのだろうと今になって思う。といっても、単純に他に取れる有効な手段も無かったのだけれど。


 


「それで、下へ向かった僕たちは最下層まで到達することが出来て神の祝福を受けました」

 アンニーナさんが今度は驚いた顔になった。


「未発見かもしれないというダンジョンを発見して、すぐに最下層まで到達したのですか? 無茶というか何というか……」

 今考えると、かなりの無茶だと思う。普通は新しいダンジョンが発見されたとなれば、何人もの冒険者達が挑戦していって徐々に情報を集めていき、対策を立てて、十分な準備をして、そして最下層へと到達するという過程をたどる。

一般的には層の浅いダンジョンなら1週間ほどで到達する者も出るが、全80層もあるダンジョンだと、ダンジョンの難度や一階層の広さ、冒険者達の能力にもよるが、最下層へ到達するのに何年か掛かる時もあると言う。


 


「神の祝福を受けた僕たちは、ドラゴンの居るフロアへと戻り、ドラゴンと再戦。なんとか倒して、上へ向かう階段に進んで行きダンジョンを脱出。先ほど王国へ戻ってきました」

「え? ど、ドラゴンと戦って勝ったのですか?」

 最下層へ到達した事を言った時よりも驚いた顔のアンニーナさん。


 


 ダンジョン内で有った出来事を説明し終えた僕。しばらくして、驚きから落ち着いたアンニーナさんと、考えにふけっていたソイントゥさんが細かな質問を繰り返す。

 ケラヴノスに出現するモンスターはどんな種類が出現するのか? モンスターの能力は? ダンジョンの内部構造は? 一階層の広さはどれぐらいか? 睡眠や食事はどうしたのか?


 一通りの質問を終えて、落ち着くアンニーナさんとソイントゥさん。新たに発見したケラヴノスというダンジョンについては、後で改めて聞くということになって話は終わった。次は僕達を受付のカウンターテーブルから個室へ案内して、部屋にギルド長が訪れた理由を説明してくれることになった。


 と、その前にアンニーナさんは一旦席を外すとの事。部屋をでるアンニーナさんに指示を出すソイントゥさん。



「アンニーナ、今聞いた話を職員に共有して、冒険者達は引き止めてダンジョンに行かないように警告しておいて。それと、ケラヴノスというダンジョンについても一応調べておいて、簡単でいいから時間は掛けなくていいわ」

「わかりました、それではエリオットさん、クロッコ姉妹のお二人、お先に失礼します」

 一礼して、部屋を出て行くアンニーナさん。部屋を出るアンニーナさんを見届けて、ソイントゥさんが説明し始めた。


「何故エリオット様達をこの部屋へ呼んだのか、今冒険者達やダンジョンに何が起こっているのかお話したいと思います」

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