第24話 僕達の1週間

 部屋へと入ってくる女性2人。1人は先ほど急いで部屋を出て行った受付の女性で、もう一人は見覚えのない熟年の女性。2人の女性が部屋に入ってきた時に、今まで座っていた僕達3人は失礼のないようにと立ち上がって彼女たちを迎え入れた。




 熟年の女性は、受付の女性ほど若くは無いが老女というほどに見た目が老けているわけでもない、まさに中年層と言った年頃の感じがする女性。落ち着いた動作で部屋に入ってきたが、長身でどっしりと構えているのでおっとりとした雰囲気なのに妙な迫力があった。



 そして、その熟年の女性は部屋に入るなり僕に向かって頭を下げてきた。


「エリオット様、今日はわざわざ足を運んで頂きありがとうございます」

「いえ、僕達も詳しく報告しておきたい事があったので。ちょうど良かったです」

 何故か僕の名前だけ上げて、感謝の言葉を口にする彼女。フレデリカさんとシモーネさんの名前はどうしたんだろうと疑問に思いつつも、コチラにも用事がある事を伝える。


 


「どうぞ、お座りになって下さい」

 受付の女性の一声で、部屋に居る人全員が椅子に座る。


「改めまして自己紹介を。私は事務長をしております、アンニーナと申します。そして、コチラが……」

 受付の女性の名前はアンニーナと言うらしい。詳しくは分からないが、事務長という役職の付いた偉い人のようだった。見た目は若くて可愛らしいので、内心で入ったばかりの職員が受付をやっているんだなと思っていたが、どうやら僕の考えは間違いのようだった。


 


「私はココのギルド長をしています、ソイントゥと申します」

 熟年の女性は、座りながらも僕達に向かって頭を下げてる。ギルド長という偉い立場の人間が非常に丁寧な仕草で自己紹介した。と言うか、いきなりの重要人物の登場にビックリしていた。


 一体何故、ギルド長である彼女が出てきたのか? 僕達に聞きたいこととは、よほど重要なことなのだろうか? 疑問が次々に湧いて出る。


 


「それで、お話なんですが、エリオット様の帰還報告の前にコチラからお話をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 アンニーナさんは、終始急いでいる感じだった。そして、ダンジョン内で取得したアイテムを申告する帰還報告は後にしてくれ、との事だった。

僕達から急いで報告する必要も無かったので、了承する。


 


「えぇ、問題無いです。そちらの質問からお願いします」

「それでは早速、6日前のことですが……」

 質問はアンニーナさんが中心になって進められた。アンニーナさんから聞かれた内容は、リーヴァダンジョン内で問題は起きなかったか? ダンジョンは何処まで進んだのか? 何故6日間ダンジョン内に潜っていたのかという事。


 フレデリカさんとシモーネさんの両方から対応を任されて、僕が質問を答えることに。何処から話そうか少し悩んで、最初から順番に話していくことに。


「僕達3人は、アンニーナさんからダンジョンの入場許可証を貰ってすぐにリーヴァダンジョンに向かいました。ダンジョンに入って、ほとんど真っ直ぐに10階層へ降りて行きました。途中でモンスターとも遭遇しましたが、問題なく目的の10階層へ到着しました」

 僕の説明を聞き入るアンニーナさんとソイントゥさん。彼女たちの反応を確認しながら、話を続ける。


 


「それから、数時間程その狩場でモンスターとの戦闘を繰り返した後、十分ドロップをゲットしたという頃になって地上へ戻ろうとしました。しかし、8階層まで上ってあるフロアを通ろうとした時、転移の魔法による罠に引っかかってしまいました」

「なるほど、罠ですか」

 僕が、罠に引っかかった所を説明した時、ソイントゥさんが声を出して反応した。何かを納得するような“なるほど”という言葉。


 


「そして、転移の魔法で別のダンジョンに飛ばされてしまい、飛ばされた先でドラゴンと遭遇。その時は命からがら逃げたのですが、何処に転移されたのか分からず、出口も分からない状態でした」

「質問よろしいでしょうか?」

 アンニーナさんが顔の横に手を上げて、質問。僕は頷いて先を促す。


 


「その転移された先に、他の冒険者は居ませんでしたか?」

「いえ、転移された場所に僕達以外の冒険者は1人も居ませんでした」

 僕の見たリーヴァダンジョンで引っかかった罠は、一度魔法が発動したら魔法陣は消えて無くなってしまうものだった。ドラゴンの居るフロアに飛ばされた後、魔法陣は消えていたのを確認している。だから、前に罠を発動させた冒険者や、後に続いて転移された人間は居なかったはず。


 


「ドラゴンと出会ったという事は、飛ばされた先はドラークダンジョンということかしら?」

 ソイントゥさんの疑問。たしかにドラゴンが出現したと聞いたら、最初にドラークダンジョンを思い浮かべるだろう。僕が最初に潜ろうとしていた難易度の高いダンジョンで、王国から一番近いドラゴンが出現すると言われているダンジョンである。


 


「いえ、それが僕達の飛ばされたのはケラヴノスという名のダンジョンでした」

「「ケラヴノス?」」

 アンニーナさんとソイントゥさんの2人が声を揃えて反応する。やはり2人の反応からして、思い当たるダンジョンはないようだった。アンニーナさんはともかくとして、ギルド長であるソイントゥさんに思い当たりがないとすると、未発見のダンジョンである可能性が非常に高くなった。


 


 僕は、魔空間から王国の周辺地図を取り出して、転移されて脱出してきたケラヴノスと書かれた石碑があるダンジョンを指し示す。2人は僕の指した場所をじっくりと見た。そして僕達への質問を一旦止めて、アンニーナさんとソイントゥさんの2人で会話を始めた。

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