第20話 伝説級との再戦

 強制的に始まったドラゴン戦から命からがら逃げて、ダンジョンの最下層へ向かうことになり、神の祝福を受けてから再びドラゴンが待ち受けている階層まで戻ってきた。

途中で休みを取りつつ慎重に進んでいったために、ドラゴンとの最初の戦闘から再びドラゴンと再戦しようとしている今日まで計3日という時間が経っていた。


 




 ドラゴンとの戦闘に挑むにあたって、僕たちは入念な事前打ち合わせを行った。攻撃は主に僕の攻撃魔法を中心にして、隙があればフレデリカさんの大剣で接近して斬りつけたり、シモーネさんの弓矢で援護するようにする連携を考える。



 どうもリーヴァダンジョンの10階層で戦闘を行っていた時には、フレデリカさんとシモーネさんの2人には僕の魔法の実力は“男性にしては魔法使いとしての能力が非常に高い”という程度の認識しかされていなかったみたいだが、ドラゴン戦を経て最下層へ向かう道中、そして今に至るまでに色々な魔法を使って見せたところ“王国でも女性と男性の両方含めてトップクラスの実力の持ち主かもしれない”という風に今までに比べて高く評価をされるようになったので、今回のドラゴン再戦でも主力として攻撃を行うことを認めてもらうことになった。

 

 今回の戦闘は無理をしないことを方針として、何か問題があったら直ぐに撤退する判断を下すことを2人に言い聞かせる。死を覚悟した特攻なんて事は絶対に考えず、必ず死なないようにすることを第一目標に掲げる。どの程度、今の自分たちがドラゴンに向かって対抗できるのかを確認し、攻勢に出るのか守勢に立つのか見極めるようにする。


 


 話し合いの後に装備の見直しも行った。この3日間で、フレデリカさんの持つ大剣の刃が欠けていて、斬る事ができなくなっていた。そして、シモーネさんの持っている弓の持って構える部分がボロボロになっていて、狙いが定まらなくなってきていた。



 そんな2人の武器を見て僕が以前研究に使った武器類を魔空間に収納していたことを思い出した。今回のドラゴン戦において途中で武器が壊れたり、武器の不具合のせいで上手く戦えないという問題をなるべく取り除いておきたいと考え、僕の持っている武器を2人に貸し与えることになった。2人は僕の取り出した武器を1つずつ吟味して、気に入ったものを選んでいった。



 フレデリカさんは、飾り気の一切ない無骨な大剣。この大剣は魔法によって破壊力を高めたもので、刃を当てるだけで対象を粉砕するという剣というよりも棍棒のような打撃武器になっている。



 シモーネさんは、見た目は何の変哲もない初心者などが使うと言われるようなシンプルな弓を選んだ。この弓も魔法によって強化されていて、矢を飛ばした後に少しだけ矢の軌道を自動的に修正してくれて、狙った獲物に少しだけ追尾するというものになっている。シモーネさんがこの弓を使えば百発百中とはいかないが、かなり命中力が上がった。


 


「それじゃあ、最後にもう一度確認します。無理は絶対にしないでくださいね」

「あぁ、危険だと思ったら言う事。無理そうなら、もう一度ドラゴンをじっくり観察することと、自分の能力が何処まで通用するか調べることだな」

 ドラゴンが待機しているフロアの近くまでやって来た僕たちは、最後の確認を行っている。フレデリカさんの返事を聞きながら、不満はないか、無理をしそうにないか目を見て判断する。彼女は真っ直ぐな目で見返してきたので信じることした。彼女たちが無理をしないかの心配をしないで、魔法による攻撃に集中することに。


 


「ドラゴンは攻撃魔法に耐性があるので、僕が主力となって攻撃しますが多分長期戦になると思います。長期戦ならば体力に十分注意して、誰か1人でも体力が無くなって動きが鈍くなってしまった時も撤退しますので、気をつけておいて下さい」

「えぇ、わかったわ。私は、遠距離から弓を使うから大きく動かない分は体力が持ちそうだわ。逆に姉さんやエリオット君は大きく動いたり接近して行くって事だから、体力が無くなるのは2人のどちらかになりそうね。2人の状況は私が注意して見ておくわ」


 細かな役割振り、武器に問題が無いかチェック、3人のテンションもいい感じになってきたので、ドラゴンの待つフロアに足を踏み入れる。


 


 ドラゴンは眠っているのか、全長20mぐらいありそうな巨体を地面に横たえて丸くなっている。これなら、脇をすり抜けて向こう側へ行けるかもしれないと少しだけ考えた瞬間に、首を上げてこっちを見た。


 


 やはり気づかれたか。



「来ます、注意して!」

 僕は言いながら、先手として雷の魔法であるサンダーショットを放つ。雷が放つ光でフロア全体がピカッと一瞬だけ眩しくなり、ジグザグと蛇行しながらサンダーショットがコンマ何秒かという短い時間でドラゴンに向かって飛んで行く。

ドラゴンの首の下、胴体と首の間の部分にしっかりと当たる。


 


 立ち上がろうとしていたドラゴンの機先を制して戦闘を開始することが出来た。サンダーショットが当たったドラゴンは苦しいうめき声を上げたが、すぐに立ち上がって僕を狙うように真っ直ぐ視線を向けると口を大きく開いた。上手く注意を引けたと思いながら、魔法防御壁を展開する。



 先ほど一緒にフロアへと足を踏み入れたフレデリカさんとシモーネさんは既に後ろには居なくて、フロアの中を左回りに大きく迂回してドラゴンの横っ腹を目指して走っていた。ドラゴンは僕の方に注目していて2人にまだ気づいていないだろう。


 


 ドラゴンが炎を口から僕に向かって放つが、僕は魔法防御壁によってドラゴンから放たれた炎の全てを防ぐことに成功。その隙を狙って、フレデリカさんが一気に接近してドラゴンの左脇腹に向かって剣を振るう。



 剣を受けたドラゴンは、叫ぶような声を上げて炎を吐くのを止める。ドラゴンの横脇腹は、剣による傷は付いていないもののドラゴンの反応から内部に大きなダメージを与えたと考えられる。



 逆上したドラゴンは、腹を攻撃したフレデリカさんに目標を変えて顔を横に向けたが、その顔に向かってシモーネさんが弓矢を放つ。ドラゴンの目元の辺りに弓矢が当って、ドラゴンが唸るような低い声を上げる。ダメージは与えられなかったが、その隙にフレデリカさんはドラゴンの近くから離れる。

 

 そして、フレデリカさんとシモーネさんに注目が行っている間に準備しておいた特大な魔法をドラゴンに向かって再び放つ。

 僕とフレデリカさんとシモーネさんの3人で上手く連携しながら攻撃を繰り返す。


 こうして、ドラゴンとの再戦が始まった。

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