第19話 最下層到達の特典
最下層へ降りてきた僕たち。そこには、神秘的で崇高な雰囲気のする建物があった。
「あれが神殿か?」
「私は初めて見たわ。こんな建物なのね」
ダンジョンの最下層へ辿り着いた者には、神の祝福を受けることができると言われている。その祝福を受けることが出来る場所、神殿と呼ばれる建物は自然の現象では出来得ない明らかに人の手で作られたように見える白い石で出来た円柱が天井を支えて並び立っている。その向こう側にも白い石でできた壁が有って建物のようになっている。その中に入って行くと、像も捧げ物も何も置かれていない台座が中央に鎮座している。その台座の横には石碑が立っており読むことが出来ない何か文字のようなものや、絵のようなものが綴られている。その中で唯一分かるのは、一番上に書かれた”ケラヴノス”という文字だけ。
誰がいつ、何のために作ったのかわからない物だが他のダンジョンの最下層にも必ず、石でできた円柱、石でできた壁、そして台座と石碑という、ほとんど同じようなパターンの造りで出来ている建物がある。
ここに辿り着いたら台座の前に立って祈りを捧げると神の祝福というステータスアップの特典を受けることが出来る。
そして、どのダンジョンも石碑の一番上の文字だけ読めることが多いらしく、その文字がダンジョンの名前とされていることが多い。そのことから、ケラヴノスというのがこのダンジョンの名前だと思うが、そのような名前のダンジョンは聞いたことがなかった。少なくとも王国の周辺にあるダンジョンの名前にはどれも一致しなかった、そして姉妹2人も覚えがないということで、想像であった長距離の転移が現実味を帯びてきた。
クロッコ姉妹はダンジョンの最下層へ辿り着くのは初めてらしい。僕は2人が神の祝福を受けるのが初めてだという事を意外と思いながら、僕が知っている知識を2人に解説しつつ神殿の中へと歩を進めた。
神の祝福を受けるのは一瞬で終わるため、普通にモンスターと戦闘して経験を積むのに比べて能力を素早く上げられる可能性が高い。そのため、各ダンジョンを回って攻略していき複数のダンジョン最下層で神の祝福を何回も受ける人達も居る。実は僕も過去に世界を旅していた時に色々なダンジョンを回って神の祝福を何度か受けたことがある。
神の祝福の内容は各ダンジョンごとに違っていて、受けられる内容も様々である。そして一度攻略したダンジョンの祝福は二度は受けられれないようになっている。
しかも、ダンジョンの攻略する姿は何者かに見られていれていて評価される。どういう事かというと、パーティーメンバーを揃えて人数多くで攻略を進めたり、他人から補助と援護をずっと受けながらの挑戦ならば、ステータスがごく僅かにアップするという効果が低いものしか受けられなかったりする。
しかし、ダンジョンを1人だけで挑戦するという難しい条件をクリアした時には、ステータスが何倍にも上昇したり、特殊な魔法や特技が使えるようになったりするような非常に強力な特典を受けることが出来る。
もちろん、ダンジョンの難易度の優しい、難しいという難度によっても受けられる祝福の内容が変わってくる。
昨日の戦闘で僕がドラゴンに対して使った時間操作で時間を止める魔法も過去にあるダンジョンを1人で攻略して祝福を受けて取得した魔法をベースにして改良したものだったりする。
「確か、中に入って台座の前で祈れば良いんだっけか?」
フレデリカさんが神殿の雰囲気に圧倒されながら緊張しつつ、しかし興味津々の視線で周りを見回りながら僕の後について神殿の中へ入ってくる。
「……」
シモーネさんは食い入るように建物を見回している。興味深そうという知的好奇心のような視線ではなく、熱のこもった趣味的な視線で見ているがこんな雰囲気の建物が好きなのだろうか。
台座の前で祈りを捧げることになって、祝福を受けたことのある経験者として2人にお手本を見せるために順番は僕からになった。祈りを捧げると言っても、手を合わせて目をつぶるだけで祝福を受けられる。たまに、祈るときに心の中である言葉を唱えると、より効果の高い祝福が受けられるという噂が流れたりするが眉唾ものである。
「お」「まぁ」
2人が声を上げたのは、僕が祝福を受けた証。光が一瞬輝いたのだろう。いつも神の祝福を受ける時は1人だったので、知識でしか知らなかったが2人の反応から本当に輝いているんだな。
頭の中に声が響いて、受けた神の祝福の内容がわかる。今回の祝福は魔力倍増。僕的には新しい特技を身につけたかったが、魔法使いにとって魔力倍増はありがたいので一応お礼を心の中でつぶやいてから台座を離れる。ダンジョンの難度が高くてもステータスが非常に高い場合は、受けられる神の祝福も効果が薄いときがある。と言っても、ただでさえバカみたいに多い僕の魔力を倍増してくれたことを考えると、このダンジョンは相当難易度が高かったのだろうと思う。もしかしたら、姉妹2人を引き連れて最下層へ来たのが評価されたのかも。
「これで神の祝福を受ける儀式は完了です。どちらから先に受けますか?」
神の祝福を受けるための一通りの動作をもう一度説明して、2人を促す。
先にフレデリカさんが神の祝福を受けて、その後にシモーネさんが神の祝福を受けた。2人は姉妹ということもあるのだろうか、どちらも神の祝福は全ステータスが3倍という内容だった。だけど、ドラゴン戦から最下層へ向かうまでにモンスターと何度も戦闘して倒して来てアップした能力が更に3倍になって、恐ろしい速度で成長を遂げた。
神の祝福を受け終えて、神殿の周りや神殿のあるフロアや、上へと戻る階段周辺を探ってみたが残念ながら外へ出る手段は見当たらなかった。
仕方がないので、結局上の階層へ戻ることに。
モンスターと戦闘を繰り返し特訓して、神の祝福も受けて成長した2人だったが、僕の見立てではまだ少々心もとない。といっても、最初の頃に比べれば何発か耐えられるだろうと言うぐらいの能力になっているので、一緒に戦闘に加わってもらうことでドラゴンとの再戦を承諾してもらった。
僕達3人は、それぞれが能力を高めることが出来てドラゴンとの再戦に向けて非常に成長した自分の能力を確認しつつ、上階層へと戻って行った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます