第2話  紅い世界

「なに書いてくれてんだよ!」

ショウは絵馬を姉から引ったくった。


マジックで書いたのでもう消せない。

「もーう…」ブツブツ言いつつ、絵馬を専用のスペースに飾る。


「あ、飾るんだ?」

「だって捨てるわけにいかんでしょう。神様の絵馬だし。」

平凡な日本人は意外と信心深いのであった。


"異世界転生して(女の子になってメイクをして)みたい"



こんな突拍子もないお願いなんて叶うわけがないし。


「あーもう暗くなってきたねー!サッサと帰ろっか!」

つかさが機材をまとめ始めた。


まだ17時になる前だが、冬の夕暮れは早くて寒い。


ショウは身震いしながら夕日に赤く照らされている茜神社を見た。

「あーなんか、夕日見たの久しぶりかも。」


「ウチからはあんまり夕日、見えないからねー。ビル多いし、向きが違うし。

この神社は、夕日が綺麗に見えるから茜神社って呼ばれるように…なったとかならなかったとか。」


いや、知らんのかーい!とショウは心の中でツッコミを入れた。


でも、そうでもおかしくないほど綺麗な夕日だ。


神社には大きな木が祀られていて、夕日に照らされたたくさんの葉っぱがキラキラ綺麗に光っている。


ふとショウが地面に映る木の影のてっぺんを見ると、何か小さなものが落ちていた。


「ん?」


拾ってみる。

それは女子がよく持っているポーチ、というものに見えた。


まさに夕日色の紅い生地で、フワフワした触り心地。


乗せた時に両手のひらより少し大きいくらいで、金色のファスナーが付いている。


「ねーちゃん、これ落し物かなぁ?」

ショウはつかさにブンブン振りながら見せた。


「あーそうね、多分化粧ポーチね。

ここ、女子が訪れる多いから誰か落としたんでしょう…どれ。」


つかさはショウからポーチを受け取って、ファスナーを開けようとした。


「やだ固い〜!壊れてんのかな?えいっ」

なおも力任せに金具を引っ張っている。


「やめなよ壊れるじゃん…てか、人様の落し物のポーチを開けようとするかね」


ショウは姉からポーチをぶんどった。


「だって中に身元がわかるような物が入ってるかもしれないし」


とブツブツ言っているつかさを無視して、ショウもファスナーを動かしてみる。


ジーー


スッと開いた。


「なんだカンタンに開くじゃん。ほらねーちゃん…」


ショウが姉の方に顔を上げる。

その時、カアカア、とカラスの鳴き声が聞こえたかと思うと、

神社の御神木がバサバサと倒れてきた、ように見えた。

「うわぁっ!!」


御神木はショウの目の前で、時計の針のようにグルグルと回る。


グルグル…


赤い夕日…


グルグル…



ショウはいつのまにか意識を失っていた。





目が醒めると。


やっぱり周りは赤い夕日に照らされていた。


しかし…


「え?ココドコ?」

ショウは首をひねる。


辺りの風景が、さっきまでいた茜神社ではなかった。


野原で、小川があって、大きな木の横に水車小屋が立っている。


「えー?」


何度も見回す…やっぱり高原にありそうな野っ原だ。


茜神社は緑が多いとは言え、都内に近い場所にあるのでここまで大草原ではない。


「えーと…ねーちゃーん?」

返事がないのは分かっている。見渡す限りの紅い原っぱには姉の姿はないのだから。

でもとりあえず数回弱々しく呼んでみた。


シーン


カラカラ…


水車が水を弱々しく流す音しか聞こえてこない。


狐に化かされたような気持ちでうーんと悩みつつ、ショウは水車小屋の中に入ってみた。


小屋の中は薄暗くて、水車と連動している石臼が


ゴリッ、ゴリッと何かを轢いている。


「小麦かな?」

ショウは轢かれて出てきた白い粉を手に取った。

思ったよりキラキラ光っている。


手触りが気持ちよくて、サラサラと粉を触っていると、

粉が鼻に入ったらしく盛大なクシャミをした。


ハーーックショーーン!!


ブワッ


粉が舞い散る。


ショウは頭から白い粉を被ってしまった。


「うわ…口の中にも入った…」

しかし不思議とザラザラ感はない。


白い粉はスッーっと溶けるように、ショウの体の中にみるみる消えていった。それどころか、いままで鉢の中にたくさんあった粉も一粒残らず消えている。「あれ?」


「泥棒!!」

イキナリ背後から威勢のいい女の声がした。


振り向くと、弓を構えた水色の長い髪の髪のおねーちゃんが、こちらを睨みながら入口の所に立っている。


「違います、ボクは泥棒じゃありません!」


「貴様、どうやってこの中に入った!ここは何人も立ち入れぬ神聖な場所だぞ!」


「えええ?」


水色の紙のねーちゃんが、鉢の中をヒョイと覗く。

「あああ!神粉がないーーー!」


「しんぷん?何それちんぷんかんぷん・・・」とかショウがふざけて言う

空気感ではなかった。


水色の髪のねーちゃんは顔色まで水色(青?)にして、ワナワナと震えている。


「・・・・・・・しかたない、とにかくお前を連れて行くしかないな・・・!


水色のねーちゃんはシュウの手首を掴んで言った。



「行くぞ!女!」










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