コスメで異世界を生き残る!ラブリーに戦え!

丸めがね

第1話 薄い顔の高校生

城ヶ崎 正(じょうがさき しょう)16歳は、ごくごくごく平凡な高校生男子だった。

友達からはそのまんま、ショウ、と呼ばれている。


ショウは中肉中背、顔も薄い系のフツメン、成績も中の中、友達は少ないがゼロではない、という平凡ぶり。


だいたい会う人毎に「クラスに1人はいる」とか「親戚にいそう」とか言われるタイプである。

彼の顔に関しての今まで一番の褒め言葉は、「千葉雄大をうすーくした感じ?」だった。


両親も紹介するほどもないぐらい丸っと平凡だが、

唯一ショウの姉、つかさだけは少し平凡から外れていた。


つかさは動画投稿サイトで登録ファン数が10万人いる、そこそこ有名な動画職人なのだ。



「おはろっきゅー!人生はコスメで変わる!

美容系動画職人つかさネェさんでーす!」


自分の部屋全部を撮影スペースにして、つかさはビデオを回している。

カメラの後ろのまん丸の大きなライト、左右のレフ板が、つかさを140パーセント盛って画面に映し出す。


ショウがいきなりドアを開けたので、つかさは目を釣り上げて振り向いてた。

「あーもう、撮影中は部屋に入るなって言ってんでしょ!

まーた撮り直しじゃん!」

カメラを止める。


「ゴメンゴメン…てか、学校から帰ったら部屋に来いっつったのはねーちゃんだよね?」


つかさはああそうだ、という顔をした。


「そうそう、そーなのよ、ちょっと頼みたいことがあったの!」

つかさはコロっと笑顔になった。


化粧をバッチリ決めているつかさはかなり美人に見えるが、実はショウ同様とても薄い顔をしている。

その薄い顔を別人のようにメイクで変身した動画がバズって、一躍ミニ有名人になったのだ。


「今日動画のネタで縁結びで有名な神社に行くんだけど、荷物持ちがいなくてね。

アンタ一緒に行ってくれない?」


「え?彼氏は?」

つかさは彼氏と動画を作っていたはず。


つかさのオーラが一瞬で暗くなった。

「彼氏?なにそれ美味しいの?」


みなまで言うな聞いてはいけない、ショウは弟歴16年の経験からそう悟った。

何らかの理由で別れたのだろう。


「で、バイト代は?」


「アンタ新作のゲームソフト欲しがってたじゃん。あれ一本でどや?」


「やる!」断る理由などなかった。



もう夕方になるのに神社に行くのかと母親に呆れられながらも、

薄い顔の姉弟は縁結びで有名な


茜神社


に行った。市電で5駅、そこから歩いて10分だからそんなに遠くはない。


鳥居をくぐった入り口には、どーんと大きくハートが飛び交った派手な看板があって


〝縁結びで有名な茜神社!

あなたに良縁をもたらします!〝


とポップな文字で書いてある。


格式もヘッタクレもない感じだ。


売店のお守りもやたら種類があって、女子ウケを狙ったような可愛いデザインばかりだった。


チラリと覗いた絵馬には、女子の(性別が女であれば全て女子と呼ぶとする)怨念のような願いがツラツラと書き込まれていた。


彼氏が欲しい、はまだ良い方で、

〇〇男が私だけを愛しますように、とか、

〇〇子が彼氏から永遠に離れますように、とか、ゾーっとするものも多かった。


つかさは手慣れた手つきで、ショウに担がせているデッカいリュックからカメラを取り出して電源を入れる。


「じゃ、ちゃんと私がフレームに収まるように映してよ!はい!」


ショウは渡された適当にカメラを構えた。

まあ、後の編集でどうにかしてくれよとか思いながら。


「おはろっきゅー!人生はコスメで変わる!

美容系動画職人つかさネェさんでーす!


今日はぁ、縁結びの神様で有名な茜神社に来ておりまーす!」

つかさは一瞬で動画職人の顔になる。まあ、これはこれで大したもんだとショウは思う。


「本当にいい人が現れるのか⁈

開運メイクと共につかさネェさんが検証したいと思いまーす!

では、本日の開運メイクをどぞっ!」


2秒ぐらい固まった笑顔の後、つかさは「はーいカットぉー」と言った。


「よしよし、この後はメイク動画を繋げて…今から絵馬でも書くかな!」


この後つかさは〝萌え絵馬〝を2枚買ってきた。

ビデオを回しつつ、素敵な彼氏が出来ますように(*´ω`*)、というシンプルだが本気の願い事を絵文字混じりで書いていった。


(いやもう呪いじゃん)とショウは思う。

(だいたい、女子が言う素敵な彼氏って存在しないんだよな、この世に。

イケメンで優しくて頭良くて性格良くて金もあって、でも彼女一筋で何でも言うこと聞いてくれるってヤツでしょ⁈んなのいるかっつーの!)

それはそのまま男にもブーメランであることをショウはまだ知らない…



「これ、あげる」

つかさはもう1枚の絵馬をショウに寄越した。

「失敗した時用に2枚買ったけど、1枚で足りたし。アンタも好きな事書きなさいよ」


「えー、いいよー

別に…か、彼女とかいらんし。」

本心ではない。


「ねーちゃんがもう1つ書けばいーじゃん」

「1度に2つも書いたら、神様が呆れてどっちも叶えてくれなくなくない?」

よく分からない理屈だがそれもそうかもと思う。


仕方なくショウは絵馬を手に取った。


アニメっぽい巫女の服を着た女の子のイラストから吹き出しが出ていて、その中に書くのだ。


「うーむ…」何せお年頃なので、ダイレクトに彼女が欲しいとは書けない。


しばし悩んだあと、ショウは見かけによらず上手な字で書いた。


「異世界転生してみたい」


後ろからそれを見たつかさはショウの頭を叩く

「オマエは中二か!!」


「だってさ、もうすぐ期末テストだから逃げられるもんならにげたいし…」


つかさはショウからマジックをぶんどってキュッキュッと文字を付け足した。


「異世界転生して(女の子になってメイクをして)みたい」


と。






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