草生い茂る森の中。


「あ゛ぁ゛…」


「全然体力ないですね。」


「だまらっしゃい!マロは公家ぞ!

 わきまえておるのか、え!?」


「すみません、すみません。

 記憶が正しければここらに…」


「む!」


草むらの向こうに黒いモノ。

かき分けて出てきたのは、

あまりに大きい、

虎の形をした化け物。

体中から黒い煙を吹き出していた。


「グルル…」


「いました。間違いなくアイツです。」


まだ十分距離があったが、

その速さ、力強さを知っている吉兵衛は

さっと木の陰に隠れる。


「ふむ、よき。よき働きじゃ。

 マロの予想通り言霊ことだまが出たぞ。」


「ん?コトダマ?あなたの術も、

 あの化け物もまた、

 コトダマと呼ぶのですか?」


「うむ、書物にある巨大な力は、

 ちゃんと放出されておらんと

 あのように化け物として

 現れるものなのじゃ。

 おのれ、一度もかの本を

 読まなかったじゃろう?」


「残念なことに、

 今の農民は生活が苦しくって、

 読み書きも出来んもので、ねぇ。」


吉兵衛は皮肉っぽく言い放ったが、


「よいのじゃ。おかげで書に出会えた。」


定家には届いていないようだった。


「どれ、それでは退治といくかのぉ。」


定家は袖に[柏木かしわぎ]をしまうと、

これまた袖から別の本をとりだした。


「こういうヤンチャものには、

 [御幸みゆき]がよく効くのじゃ。」


定家が本を開き、祈りの構えをとる。


「<しるしあれ>!!」


今度は定家の口から火の玉が飛び出し、

化け物めがけて一直線にとんでゆく!

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