創作のこと⑤《潜る》

修正が構造や設定に及ぶ改稿のことを外科手術的改稿と呼んでいるんですが、ここ数回、本当に手術室に入る感覚になっています。


その手術室は、普通に暮らしているとたどり着けないところにあります。

シミュレーションをして手術の計画を立てながら、三日くらいかけて一歩ずつ近づいていくとドアが見えて、部屋の中に入ることができます。

半畳くらいの狭い場所で、暗くて、青と緑の小さなランプが手元にあって、薄暗い色付きの明かりを頼りに、私はそこで物語にメスを入れます。

物語はパスッとよく裂けます。物語の内部は、ネジや歯車がぎっしり詰まった時計の内側みたいに、骨や臓器やよくわからない機械や、それらを繋ぐ血管みたいな細い線が詰まっています。

内側が見えるようになると、骨や臓器にあたる部分を別の骨や臓器に入れ替えたり、時にはデジタルな人工物に取り替えたりして、それも済むと、血管にあたる配線を繋ぎ直します。そうしないと、物語が元通りに動けるようにならないのです。

その手術室に入っているのは大変苦しくて、せいぜい二週間くらいしか息がもちません。一度出てしまうと二度と同じ場所には戻れないので、苦しいのを我慢して最後まで外科手術をおこなうのですが、三週間もいるといろいろ吸い取られてしまってゾンビみたいになり、最後の三日くらいは本当に苦しいです。

物語を元通りに閉じると、麻酔が切れたように手術室から追い出されます。

入るのにも三日くらいかかりますが、出るのにも三日くらいかかります。

一度出てしまうと、物語の内側を覗いていたことが夢みたいに感じます。

あれ、なんだったんだろう、みたいな。

…という気分を、ここ二年ほどのあいだに何度か味わっています。


はい、書き出すとヤバい人なシリーズです。

ホラー気味な創作の話です。夏ですしね。

記録してみてすぐに「ヤバいな」と自覚したので、タイトルに「創作のこと」と足しました。

このエッセイを読んでくださっている奇特な方なら、あぁ、あのヤバいシリーズね、とわかっていただけるかと思います。


そういえば、創作のこと③で書いた推敲の獣ですが、正体がわかりました。

新しいお話を考えはじめた時に、ふっと野犬が見えたことがありました。

狼みたいな獣で、三頭くらいが唸りながらぐるぐると柵の内側を回っていました。

たぶんあの獣が、物語の初めの部分だったんじゃないのかな。

あの中から一頭が選ばれて、もしくはいつのまにかくっついて一頭になって、それがだんだん育っていくと、真っ白くて大きな狼みたいなモンスターになるんじゃないのかなぁ、と。

やっぱり、お話を作るっていうのはモンスターを育てていく感覚に近いんですよ。私にとっては。


ええと、なに言ってんだ?と、お思いですよね。

いいじゃないですか、独り言のエッセイです。

自覚もしているので、そのうちそっと消して、限定近況ノートに移すかもしれません。

あそこなら誰も読まない…もしくは、私のヤバさを許してくれる方しか見ないでしょう。


そういえば、文庫版の雲神様2巻の時ですが、物語の最終的な形が、頭が2つ付いているワニ型の生き物のように見えていました。

外科手術的な改稿をした時に背骨をひとつ追加したのですが、そのせいで、あの物語には途中から背骨が2つありました。しかも手足がそれぞれついていたので、手も脚も4本ずつあって、奇妙な動き方をするモンスターになって見えました。

今思えば、セイレンと雄日子の話が同時進行だったから、私にはそう感じたのだと思います。

自分にしかわからない暗号的な感覚ですが、ヤバいはヤバイなりに意味があるのだと思います。


これからまた手術室に向かいます。

やっぱり待機期間が三日は要るみたいで、数日かけてようやく扉の在り処を見つけました。

なにが手術室だよ、外科だよ――と、書き出すと自分でも「こいつヤベえな…」と思います。ただの改稿だもんね。

でも、こうなる時は創作をものすごく愉しんでいる時です。

面白いかどうかは読む方が決めることですが、私にとってはものすごく好みの面白い物語が出来上がりそうでワクワクしています。

ずっと書きたくてたまらなかった話で、これを書き終えたらもう何も書けなくてもいいとも思っているし。

書きたいお話はたくさんあるけど、たぶんこの次に書くお話は雰囲気がガラッと変わるだろうな。

しばらくやってきたことの卒業制作のつもりで準備していた話でした。


楽しい楽しい創作の時間の再開です。

ただただ、楽しいです。行ってきます。

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