4話3節
金属質なもの同士がぶつかる音が響く。
肉の抉れるような音は聞こえない。
「マケッ!?」
「なっ……!」
俺はその身を貫かんとしていた槍を両手で掴んで受けとめていた。
高速回転も止まり、回そうとしても動かない。
「ん、んぎぎぎぎぎぎ……!」
「る、ルースロット!?」
「……何やってんだ、俺は」
「マ、マケッ! マケッッ!」
バッドドッグは俺を貫こうとなおも槍を押し込もうとするが、微動だにしない。
当然だ……今の俺は、不思議なくらい力が漲っているのだから。
こんな小物の槍一本程度、爪楊枝みたいなもんだ。
「くっ、何やってるバッドドッグ! そんなやつさっさと始末してしまえ!」
「マ、マケェ……」
ディフィスタンの命令に、バッドドッグは困り顔を浮かべている。
「目玉に穴が開くほど見てきただろうが……とんでもなく諦めの悪い奴らを」
槍を掴む腕に力を込めると、メキメキと音を立てて、指が槍に食い込んでいく。
指を起点にして槍にヒビが入り、広がっていく。
「何故だ! さっきまで立つこともままならなかった奴のどこにこんな力が!?」
「ルースロット……?」
明音は、目の前の状況が信じられないといった感じの表情をしている。
そんな豆鉄砲くらったような顔をするなよ。
今、俺の中に漲る力の根源を……使い方を教えてくれたのは誰だ?
他でもない、お前たちエンジェルスなんだぞ。
「そいつらはどんな苦境でも膝を折ったりしなかった!
どれだけ強い力にも抗ってきた!
世界が滅ぶ寸前でも勝利を諦めたりしなかった!」
そんな奴らを見てきた俺が、自分はダメだったなんて膝を折ってたまるか!
それは戦い続けてきた俺を嗤われるだけでは済まされない。
エンジェルス達の戦いへの思いをコケにされるという事だ。
誰かが……たとえ神様が許したとしても俺が許さん!
「なにより――」
「マ、マケケケッ!?」
俺は、バッドドッグを槍諸共持ち上げる。
宙ぶらりんになったそいつは足をバタバタしてもがいていた。
「惚れた女が泣いてるのを、黙って見ていられるかーーーーーーーっ!」
あらんかぎりの心で叫ぶ。
ありったけの力を込めて、俺はバッドドッグを掬い上げるようにぶん投げた。
「マケーーーっ!?」
敵は豪快に縦回転しながら吹っ飛んでいく。
「わあーっ! 待て、こっちに来るなってぶへぇ!」
狙ったわけではないが、ちょうどディフィスタンのいる方に投げたらしい。
奴はバッドドッグの巨体の下敷きになってしまった。
尤も、その程度で死ぬタマではないだろう。
……死んでいてももう一回ぶっ飛ばすつもりだが。
俺は、まだ倒れたままだった明音の手を引き、助け起こした。
「……これから俺が言いたい事はわかっているよな?」
「……へっ!? あ、うん! 何となく、たぶん?」
明音がどことなく上の空に見えたが、気のせいだろうか?
とはいえ、彼女はすぐさま自分から両手で頬を軽く叩いて気合を入れなおす。
そして、すぐさま変身を行い、ミカエルへと姿を変える。
「せっかくの真剣勝負に水を差した空気の読めないバカを――」
「――叩きのめして続きをやる! ……だよね!」
お互いに敵と定めた相手を見やる。
「マケェ~~~……」
「おい、目を回してる暇があったら起きろバッドドッグ! 重いんだよぉ!」
「「コントやってる場合かーーーーっ!」」
「ぶべらぁっ!」
「マケェーーーーッ!」
ミカエルが蹴りでバッドドッグを、俺が拳で銀髪野郎を思い切り打ちあげる。
そこからは、もはや一方的な蹂躙であった。
「はあああっ!」
「マケッ、マケェッ!」
ミカエルがバッドドッグに無数の打撃を叩き込み。
「オラオラオラァッ!」
「くそぅ! なんでお前が殴るんだ! 殴られるなら美少女が良いーーっ!」
俺がディフィスタンの妄言を聞きながらボコボコにする。
「そんなに受けたきゃ……ミカエル、パスだ!」
「なら、こっちをお願い!」
ボールをパスするようなノリで、俺たちはお互いのサンドバッグを交換する。
当然、交換方法は物理攻撃だ。
「ぬほおおおっ! ありがとうございます! ありがとうございます!」
「……やっぱ気持ち悪い! パス!」
「ああっ、出来ればもっと堪能したあひぃっ!」
まるで、お互いのやりたい事がわかっているような、流麗な連携だ。
戦いの中で、確かに俺と彼女は通じ合っていた。
始めは敵として……だが今は違う。
共に戦う仲間として、ここにいるんだ。
「あべばっ!?」「マケェッ!?」
粗方ボコボコにされ、同じ場所に顔面着陸したディフィスタンとバッドドッグ。
俺とミカエルは並び立ち、お互いに必殺の構えをとる。
ミカエルは両手に力を集め、少しずつ練り上げるように手を動かしていた。
対して俺は、ただひたすらに右手にエネルギーを集め続ける。
「これで終わりよ、ディフィスタン!」
「あばよ、変態野郎!」
「ふざけるな! 私は女戦士に「くっ、殺せ!」ってに言わせた後にアヘアへ言わせて屈服させるシチュを経験してないんだ! それまで死ねるかーーっ!」
「マケーーッ!」
ディフィスタンはバッドドッグと共にこちらへ突撃を仕掛ける。
頭の悪いセリフを吐き捨てる辺り、正常な判断力は残っていないらしい。
俺は、ミカエルに目線を向けた。
それに気づいた彼女は、黙って頷く。
相手が正面から来るなら、真正面から叩き潰す。
それも、自身のありったけを全て使って。
「ミカエル・サンライザーーーーーーーーーー!」
「バロン・ダイトーーーーーーーーーーーーー!」
桃色と漆黒の閃光が同時に放たれる。
二つの力が重なり、溶け合い、炎の如き一本の奔流となって敵に襲い掛かった。
バッドドッグと共に、ディフィスタンが光線に押され、空高くへと浮き上がる。
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
「はあああああああああああああっ!」
気合一閃、ミカエルとの咆哮に合わせ、合体光線はさらに勢いを増す。
耐え切れなくなったディフィスタンたちは、ついに飲み込まれていった。
「うわあああああああああああああああああああああああ……!」
「マイリマシター!」
天高く打ち上げられた閃光は、花火のように弾け飛び闇を祓う。
同時に、破壊されていた様々な物体が修復されていく。
女神の力による環境再生能力が発揮されたのだろう。
闇が晴れた空には雲一つない夕焼けが広がっていた。
空の闇諸共に吹き飛ばしてしまったのだろうか?
「はあっ……はあっ……終わったな」
「うん……そうだね……」
そんな空を見て、一気に気が抜けたのか、急激に疲労感が襲ってくる。
だが、これで終わりではない。
邪魔者を排除したあとにやる事は、もう決まっている。
たとえ、互いに拳を握る力すら残っていないとしても、だ。
「俺の――」
「私の――」
勝ちだ。
言い切る前に意識が途絶える。
一瞬、倒れる音が重なって聞こえた気がした。
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