閑話1 マレット視点
ロートリンゲン家に新たな跡継ぎ様が誕生する!
私が初めて、お付でお世話をする事になる人。赤ちゃんを覗き込みながら考える。ロートリンゲン家の旦那様のように、凛々しい目鼻立ちをしながら奥様のように輝く金色の産毛が生えていて、赤ちゃん特有の可愛らしさがにじみ出ている。
私はこれから、彼の世話をする事になると考えると気分が非常に高揚した。
赤ん坊の名は、ルーク様。ロートリンゲン家の長男として生まれた子供だった。
乳母が一人、侍女が私と合わせて三人付いて計四人体制でルーク様のお世話をする事になったのだが、ルーク様は普通の赤ちゃんとは違っていた。夜泣きはしないし、朝起きて夜になるとちゃんと眠って、決まった時間に乳を欲しがるから生活リズムが既に大人と同じように整っているから、非常に手のかからないような赤ん坊だった。奇妙だと感じるほどに。
更に驚いたことに、半年を過ぎると拙いながらも言葉を話し出して、意思表示もしっかり出来て、自力で歩けるようにもなった。一歳になると本をねだるようになり、読み聞かせではなく自分で読み込んで理解している様だった。聡明で手がかからない子供だったので、乳母や私以外の侍女は配置換えされて、ルーク様のお世話は私一人だけで行う仕事になった。
三歳頃には旦那様の姿を見習い、真似事をするようにロードリンゲンに住む領民の事について考えるようになられて、施策を幾つか紙にまとめているのを見る機会があった。
私は、ルーク様の行いを旦那様に報告した。旦那様はルーク様の類まれなる才能を大変お喜びになられて、わずか三歳の子供に教育を付ける事にしたようだった。
それから、旦那様は家庭教師が付く元で些か早めの教育を受けることになったが、この時から少しずつおかしくなっていった。
どうやら、ルーク様は私達では考えつかないような奇抜で素晴らしい事を思いつく事には長けていたけれども、貴族としての知識を身に付ける事は苦手とされていたようだった。
私はなるべくルーク様が少しでも勉学に集中できるようにお世話をしてきたけれども、ルーク様はだんだんと教師の言うことに反発し始めるようになり、遂に勉強する事を放棄し始めた。
旦那様や奥様は初めての子育てで浮かれてしまって、教育係を付けるのは早まった判断だったかと後悔された。私も、ルーク様が変わってしまって罪悪感に苛まれた。私が最初に、旦那様に報告をしてしまったのが原因だと思ったから……。
それから私は、なるべくルーク様には快適に過ごしていただくように少しでも早く勉学に興味を持って復帰できるようにとお世話してきたつもりだったけれども、それでも駄目だった。
私が甘やかしすぎたせいなのだろうか、だんだんとワガママな言動が増えるようになってしまわれたルーク様。使用人達にキツく当たり始めるようになった。ルーク様は使用人達から嫌われ始めると、自室にこもることが多くなった。
たまに部屋の外に出る機会があれば、何人かの護衛を連れ周りを威嚇始めると傲慢な行動が目立つようになった。
ルーク様は昔の領民を想う素晴らしい人物ではなくなり、ただの平民を甚振る嫌な貴族に変わってしまった。
***
それは、ある日突然のことだった。ルーク様が王城でのパーティに参加予定の日。日も暗くなり始めた頃、ルーク様が屋敷へと運ばれてきた。ところどころ、服に付着した血のような赤い痕を見つけて、もしかして何かの事件に巻き込まれて大怪我を負ったのかもしれないと予想したが、そうではなかった。
いや、もしかしたら真実はそうだったのかもしれないが目撃者もなく、何が起こっていたのか誰も知らない。
城下町から少し外れた所にある森の中で、ルーク様は発見されたらしい。彼の護衛に付いていた者達は1人残らず皆、斬り殺されていてルーク様だけが何故か怪我もなく無事で、気絶していた所を発見されて助かった。
ルーク様が目を覚まされると、何もかもを忘れてしまっていた。私のことも、両親のことも、そして自分のことさえも。私は、神様にルーク様の記憶が早く戻るようにお願いしたが、その願いは叶うことはなかった。
結局、今回の不可解な事件によってルーク様はロートリンゲン家の跡継ぎから離されてしまい、地方へと追いやられてしまう事になった。
しかしルーク様は先の事件によって再び、人が変わったように心を入れ替わられたのだった。
ロートリンゲン家の屋敷に到着するやいなや、今までやってこなかった勉学に励むようになった。身体を動かすために剣を振ったり、乗馬したり、何故か鎧を着て屋敷を走り回ったりを繰り返して、太った身体から贅肉を落としていった。数々の行動についてルーク様に詳しく話を聞いてみると、どうやら修行をしているとの事だった。
私は当初、ルーク様の無茶苦茶な修行を止めるように言ってみたがルーク様は聞く耳を持たなかった。その為に、私はルーク様の無茶を止めることが出来なかった。
しかし、3ヶ月が過ぎた頃ぐらいになって私はルーク様を止められないで良かったと思うようになった。
ルーク様は、自分に課した厳しい修行を経て非常に成長なさったのだ。今では私が見上げるぐらいに身長が高くなり、ロートリンゲン領で一番の男前になった。更に、剣の腕もロートリンゲン領で護衛をしている剣士はおろか、ロートリンゲン領で一番と噂されていた剣士を呼び寄せて真剣勝負で試合した所、勝ってしまわれていた。
ルーク様は非常に素晴らしいご主人様だった。今まで色々なことが有ったけれど、今の私は非常に幸せだった。ルーク様に仕える事ができて、非常に良かったと思えるようになった。
私は自分の命が尽きるまで、ルーク様のお世話を全うすることを誓った。
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