第10話 それから

 国境付近に現れた謎の軍団は、隣国の兵士だった。


 混乱する王都。この国の王様は体調不良で表に出て指揮を執る事が出来ず、王様の後継者である王子は乱心していた。そして多数の貴族たちが離反した。王国にとって最悪の事態が重なり、他国にとっては攻め入る絶好のチャンスだった。


 数多くの貴族たちが王都から逃げ出していく状況の中で、隣国の兵士に立ち向かう為の準備を始めた貴族たちも居た。ロートリンゲン家もその内の一つであり、ロートリンゲン家の次期当主である俺も王国を守るために準備していた。逃げ出すにはまだ早い、もう少し敵の様子を確認してから判断するべきだと思ったから。


 王都を守る準備が着々と進んでいる途中、更に最悪な事が起こった。なんと、乱心していた第二王子が一目散に王都から逃げ出したのである。姿を消しただけで、本当の事情は分からないけれど状況的に見て逃げ出したと俺たちは判断した。


 第二王子は、ある貴族の手引きによりアデーレ嬢も一緒に王都から姿を消して、居なくなっていた。けれど今は、居なくなってくれたほうがスムーズに進行しそうなので捜索隊も出されることはなかった。そんな事に人員を割くぐらいならば、王都防衛に人が必要だったから。


 他国からの侵略を受けている最中、全ての貴族たちからの忠誠を失った王様と後継者であった第二王子は、貴族たちによって廃位させることに決定した。この時点で、王族のための王国は失われることになった。


 しかし、まだ王都に住む国民たちが居る。王族の代わりに彼らを守るために残った貴族たちが戦いに出る。


 王都を防衛して国民を逃がす者達と、近づいてくる他国の軍団に打って出て足止めをする者達の二手に別れることに。ロートリンゲン家の兵士達は王都へと差し迫ってくる軍隊に打って出ることになって、俺は私設軍団を率いて王都を出発した。


 全体の指揮は現当主である我が父が行って、俺は精鋭部隊を任される事になった。そして、その精鋭部隊を率いて敵兵の兵站部隊を撃破するという重要な任務を受けることになった。


 今まで鍛えてきた力を思う存分発揮しながら敵軍を撃破していく。すると思いの外に敵は弱く、兵站部隊の強襲は大成功した。敵の食料を尽く燃やして、とんでもない手柄を立てる事に成功した。


 どうやら敵は余程の自信があり驕り高ぶっていたのか、兵站部隊を撃破しただけで動揺して、慌てふためいていた。敵兵の中には敵前逃亡を行う者も居たために、最初に攻めてきた頃に比べて敵の兵数を大分減らすことに成功した。少しずつ状況は有利に変わっていった。


 兵站部隊撃破の作戦を成功させた俺たち精鋭部隊は、士気が十分に高まったままの状態で敵兵に野戦を仕掛けていった。王都へ向かう敵の足止めを主な目的としていたその戦いは、攻めてきた敵を撃退する戦いへと移行していった。


 王都近くの平原に敵兵の死体が積み重なるように増えていき、とうとう敵が誰一人として王都へと向かわなくなり、王都とは反対方向へ逃げ出していくのを見て俺達は予想をしていなかった大勝利を収めることになった。


 我が父は少しの怪我を負ったが命に別状はなく、私設軍団の兵たちの多くは無事に生き残って王都へと帰ることが出来た。随伴した貴族の多くも生きて帰ることが出来て、まさに大勝利。


 俺達が王都へと凱旋すると、国民の多くに賞賛される声が響いた。どうやら、戦に参加した兵士たちが俺の戦いぶりを吹聴して回っているらしい。


 そして俺は後に、救国の英雄と呼ばれる存在となっていた。


 王都を防衛する戦いが終わった後、他国の脅威が去ってゆっくりと落ち着けるようになると、国内のゴタゴタを片付けるための話し合いが行われた。王族を退けた後の王国の代表は誰が務めるかという議論。1週間もの時間を掛けて、何度も話し合いが行われた結果、何故か俺がこの国の代表を務めることになった。


 選ばれた理由は、救国の英雄となり偶像化された俺が相応しいから、とのこと。


 一度断ったけれど、他に誰も務められるような人間が居ないからと熱心に説得されてしまって、最後には引き受けないと事態が収まらないような状況になり、受け入れざるを得なかった。俺が国王を請け負った次の日、隣国から停戦交渉の使者がやって来て停戦を受け入れることになった。隣国から来た停戦の受け入れが俺の最初の仕事となった。


 王都の治安を維持したり、漁夫の利を狙ってくるような他国の侵略に備える準備をしながら、地方へ散った貴族たちを王都へ戻ってくるように命令。


 戻ってきた貴族達の中に、逃げ出した第二王子も居たのですぐに身柄を拘束した。何故あっさりと戻ってきたのか分からないが、既に王族としての権力は剥奪されて、彼には何の力もなくなっていた。王都から逃げ出した第二王子と、王都に残って体調を崩していた元王様と一緒にして無用な混乱を避けるために、保護という名目で彼らは一生、塔の中に幽閉されるという人生を送ることになった。


 王子と一緒に戻ってきたアデーレ嬢は、以前にカロル嬢を糾弾していた時に語っていた不思議な情報の全てを聞き出された後に、秘密裏に処分されることになった。


 こうして、王都で起こった王子の乱心から始まった、貴族の離反、他国からの突然の侵略、そして戦、幾つもの問題が一気に発生した王国だったが、残った人間で問題を何とか解決して、今は一旦の平穏が訪れていた。




 ある日の事、突然貴族となった俺だったが、いつの間にか一国を背負うような王様になってしまっていた。国を背負わされた当初は苦労しつつも、今では何とかやっていけている。


 今でも、なんでこんな事になっているのか? と疑問に思う事もあるが、なってしまったものはしょうがない。せいぜい、次の何か不慮の出来事に巻き込まれるまでは王様という役割を果たそうと思う。

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