閑話2 逃げた男 元ルークの人格・序盤
転生した!
気がついたら、ちっちゃい手になっていて、目も薄ぼんやりと霞んだように遠くの景色が見えない。そして思うように動かない身体。頭はハッキリしているのに、身体は動かない。しばらく観察をしてみたら、何故か俺は赤ん坊の身体になっている事がわかった。
少しの間、俺は混乱していた。すぐに自分の身に突然起こった、今の状況について出来る範囲で調べようとしたのだが、この身体では歩くことも出来なかった。首を左右に動かして見えるだけの範囲しか調べることが出来なかったので、直ぐに考えることに没頭していった。
そうして考え事をしながら時間が過ぎるのを待っていると、部屋の中に大人たちが入ってきた。日本人じゃない、海外の人のような見た目をした金髪の女性たち。彼女たちの会話を盗み聞きしていると様々な情報が手に入って、どうなっているのか段々と理解してきた。
俺の居る場所は、ヨーロッパ風のすごく金持ちの住んでいそうな屋敷だった。多分貴族の家なのだろう。転生という超常的な現象を目の当たりにした俺は、もしかしたらこれは、物語に有るような異世界、剣と魔法のファンタジーが現実としてある世界に来てしまったのだろうかと考えた。
部屋を訪れる人間を観察してみたり、考え事に没入して空想しているうちに、すぐ月日は流れていった。
前の世界では、お目にかかったこともないような金髪美人。そんな女性が俺の母親だという。しかも、いつも俺のすぐ側にはこれまた美人なメイドさんがついて回り、俺の世話をしてくれていた。彼女たちを見て、ますますファンタジー世界へ転生したという考えが確信に変わっていった。俺は、この物語の主人公なのだろう。
赤ちゃんになって1年が過ぎると、ようやく自分の足で歩き出せるようになった。次は言葉を喋れるようになっていった。都合のいい事に、何故か大人達が話している内容に耳を傾けると日本語のように聞こえたので、言葉は理解できていた。
英語は苦手だったし、母国語以外の言葉を覚える事なんて出来なかった俺にとっては、とても助かった。
この世界の言葉を喋り始めてみたが、どう頑張っても舌っ足らずになってしまい、口が思うように動かない。だが、たどたどしく話してみたら、母親と思われる女性といつも俺の世話をしてくれるメイドさんが大喜びしていた。彼女たちを喜ばせようと、言葉を話す毎日が続いた。
それから、徐々に貴族という立場を利用して活動を始めた。自分の足で歩けるようになり、言葉も話せて動けるようになったから、なるべく早く行動に移したほうが良いだろうと判断したから。
俺は前世の知識を活用して、税金を安くして平民が過ごしやすい領の経営方法について考えてみたり、平民に教育を受けられるようにして知識人や労働者を増やす計画を立ててみたり、うろ覚えだった米を作るための苗木を探してもらうために準備を進められないか考えたりして、知識チートを使って色々と活動してみようと動いた。
最初は父親たちに絶賛されていたのだが、結局どれも中途半端に終ってしまった。
理由は様々。父親に提案してみると、アイデアが良いと褒められたのに実行に移すには現実性がないと却下され、平民に知識を授けるのは現実的ではないと言われたり、米の苗木をいくら探しても見つからなかったり。
思いついた色々な事が、実現できなかった。せっかくの知識チートを活用できずにイライラが募るだけの結果が残った。せっかく考えがあるのに、多分、子供だからと侮られているのだろう。父親たちは本気じゃなく、俺の意見を聞き流しているだけ。
俺は、まだまだ温めていたアイデアを一旦保留にして、大人に成長してから自分で領を運営できるような年齢になるまでは、この世界を知るために勉強しようと方針を変えた。
その頃に、ちょうど家庭教師を付けて勉強させてもらう事になって、方針を変えるタイミングとしても良かった。
だが付けてもらった教師は最悪だった。傲慢を絵に描いたような感じで、プライドも高く、人の言うことを聞きやしない。それなのに、知識も曖昧で、本の内容をそのまま教えるだけ。しかも四則演算の暗算も出来ないなんて、と授業を受けている最中ずっと内心でヤツのことを馬鹿にしていた。
だけど最悪な教師のお陰で俺は、教育がとても重要だという事を再認識した。俺の考えている平民のための学校では、奴のような無能人間は舌端に教師として雇わないようにと決心した。
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