第6話 学園
学園への入学は、予定通りに完了した。
俺以外の新入生を観察してみると、想像していたのと違って年齢が高そうな人間が複数居る事が分かった。
どうやらうちと同じように、かなり多くの貴族の家で長男が失脚、そして後継者の入れ替えが行われたみたいだった。
その結果、長男の予備とされていた次男や三男であった彼らは、もちろん学園には通っていなかった為に今更になって学園に入学させるという事らしい。新入生の人数は例年の3倍以上の人間が入学することになってしまったという。また在学中の学生の中にも、後継者から引きずり降ろされた長男たちが多数居たために自主退学の人間も山ほど出たとか。
授業についてだが、全て選択式で受ける授業は自分で決めて計画を立てることができる。俺は最低でも1日1時間だけ授業を受けさえすれば、3年在籍して卒業できる。授業を受けて自分を高めたい人間は積極的に授業を受けることだそうだ。なので、俺は予定していたとおり必須の授業のみ受けるようにして後は学園にて訓練に没頭することにした。
学園に入学する目的は、学園に在籍して卒業することで貴族としての格を上げる為に。
もう一つが貴族間の交流を図ること。俺も貴族との交流を持とうと思っていたのだが、想像していた以上に俺に対しての悪評が酷くて、何人かの侯爵家の人間に対して面会を持ちかけてみたけれどロートリンゲン家の長男であると名乗ると、それを聞いて直ぐに面会を拒否されることに。
ここで食い下がったり、お伺いを立てたりするのは公爵家の人間として価値を下げると考えた俺は、一旦引き下がって向こうから接触してくるのを待つことにした。
これで事態が好転しなければ、他の手を考えないとなぁと思いながら。
多くの貴族たちはロートリンゲン家の長男という人間には近づこうとしなかったのだが、中には変わった貴族も居たりして俺に会いに来てくれた人たちも居た。その変わった三人の貴族達とは仲良くすることが出来た。
一人は、俺が訓練所に入り浸り修業を続けて剣の腕を磨いていることを知って勝負を挑んできたノリッチ侯爵。
そしてもう一人は、最近ハマっているというチェス盤を持ってきて勝負を仕掛けてきたバーウェア侯爵。
最後の一人が、俺のもとに話に来たはいいが眠たそうに自己紹介を済ませると、次の瞬間には目の前で眠り始めたティリマス子爵。
彼ら全員が長男失脚のために引っ張りあげられた男たちで、進歩的というか自由なために、普通の貴族とは違って爵位の関係も取っ払った付き合いやすい、気を使わないで良い関係を築きやすい男たちだった。そんな一風変わった彼らを、俺は気に入り交流するように。
俺達4人は普段、学園の外れた場所にある訓練施設場に集まっていた。本来、この訓練施設場は学園が用意した、学生に向けた遊び感覚で身体を動かすためにある施設なのだろう。
だだっ広いが地面と壁があるだけで他には特に何もなかったその場所。その場所に教師から使用許可を取ってきて俺達4人で快適空間に仕上げた。
俺とノリッチ侯爵は、訓練する場所として道具や武器を揃えた。バーウェア侯爵は本を読んだり、チェスで遊んだりするために簡易な屋根と椅子と本棚を設置させた。ティリマス子爵は、ベッドを設置していつでも快適に眠れるようにしていた。
***
学園での生活が半年ほど過ぎた頃、学園の中では大きく分けて3つの勢力が出来上がっていた。1つは今まで在学していた二年と三年が中心の保守派グループ。彼らの多くが、問題行動や新しい事を非常に嫌い、何をするにも昔からの伝統やしきたりを大事にする人たち。
もう1つは、長男失脚のために今年多く入学した革新派グループ。彼らは、今までなら爵位を継承できない予備扱いの人間で、その予備としての役目に突然就くことになってしまった為に戸惑いながら、なんとか権力を上手く制御しようと頑張って上を目指す人達。
保守派グループが新入生に対しても、伝統を強制してくるために革新派が拒絶したために対立が起こった。
最後の派閥は生徒会に在籍する王子グループ。第二王子が実権を握っている生徒会とその所属員たち。生徒会に所属する貴族たちのグループで、普通ならば王族という絶対権力にお近づきになりたいと考えるかも知れないが、先のクーデター事件により王族もゴタゴタしているということで、今は時期が悪いから保守派も革新派も近寄らずに接触を避けて様子を観察していた。
そんな3つの勢力にはそれぞれ代表的な人間が居る。保守派グループには、三年生かつ公爵家である1人が。生徒会グループではもちろん王子を勢力代表としている。
各グループで代表的な人物が選ばれている中、何故か革新派グループには俺が代表として祭り上げられていた。本当にいつの間にか、そうなっていた。否定しても聞く誰も耳を持たない。
3つの勢力に別れた貴族たちだったが学園内で派閥争いが盛んで、保守派グループと革新派グループの争いは日々絶えない。
そのような状況の中でもう一つ学園で盛んな争いがある。それは男女の恋愛だ。
先のクーデター事件により、多くの家の長男が失脚してしまった。それにより多くの令嬢が婚約者を失うという事になり、彼女たちは新しい婚約者が必要となった。
普通なら親が必死に婚約相手を探すことになるのだが、貴族社会が混乱している今は、婚約相手を探すよりも大変な問題が複数あり手を付けられない状態である。貴族令嬢は自分で自分の未来を掴み取るために、自ら動かなければならない状況。
男性側は恋愛を楽しんで、女性側は高い権力を持つ貴族様を捕まえられれば後には経済的支援を受ける事ができるかもしれないと互いに目的や利益があるお付き合いなので、今も学園内では男女達が虎視眈々と獲物を狙う恋愛事情が渦巻いていてカオスな状況が続いていた。
公爵家の人間である俺もアプローチを度々掛けられるようになってきた。あのギラついた得物を狙う目を見てしまうと、尻込みしてしまう為に誰とも恋愛関係にも婚約関係にも発展しては居ないが。いつかは俺もロートリンゲン家の跡継ぎが必要になるために、婚約相手が必要なのだろうけれど正直気が重い。
学園の授業、訓練、そして争いと様々な事が起こりながら、学園生活の日々が過ぎていった。
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