プレゼント
中村彩香
1話完結
俺は誰かの為に、プレゼントを選ぶのが苦手だ。と言うか、誰かにプレゼントをあげて、喜ばれた事が全く無い。
母親の誕生日に、初めて小遣いを使って財布をプレゼントした。第一声が、あまり好きじゃないだった。母親はすぐにハッとして、ありがとうと言ったが、奪い取って外に投げ捨てたのを覚えている。父親の誕生日には、ネクタイピンを作ってみた。少し失敗したが、使えない代物ではなかった。しかし父親に、
『綺麗な細工じゃないな。どこで買ったんだ?』
と言われた。俺が作ったと言った時の、父親の表情は今でも忘れない。世界が終わりそうな顔をしていた。
他にも、友人や彼女にプレゼントをした事があるが、ダサいとか安物とか使いにくい等々。惨敗も良い所だ。だから俺は、誰かにプレゼントをあげたりする事をやめた。何かのイベントで、どうしても用意しなければならなくなったら、高めのお菓子なんかを選ぶ。とりあえず、失敗は無い。
そんなこんなで、プレゼント選びを逃げていた俺だったが、最近交際を始めた会社の先輩。物静かなのにハキハキしている彼女に惹かれ、アタックした所、OKしてくれた。そんな彼女の誕生日に、何かをプレゼントしたいと思った。でも、俺の破滅的なプレゼント選びにガッカリされるかもしれないと思いつつ、彼女の為に何かを選びたい気持ちが勝ってしまった。選んだプレゼントは、ラピスラズリのペンダント。。石の意味とかは良く分からないが、ラピスラズリの深い蒼が、彼女に似合うかもしれないと思って選んだ。
仕事が終わった午後5時。綺麗にラッピンクされたそれを机に置き、俺はまだ、何処かで渡す事を迷っている。今までが今までだから、怖いんだろうなと思った。このまま渡さないと言う、楽な選択もあるな。そうしちまおうかな。うん、そうしちまおう!
「ねぇ、どうしたの?」
何時の間にいたのか、先輩が後ろから声をかけてきた。驚いた俺は、危うく椅子から落ちる所だった。
「うおっ!せせ、先輩!?どうしたんですか!?」
「一緒に帰ろうかなって思って、待ってたのよ。そしたら何か考え事してたから」
大きな可愛い目が、俺を見つめてくる。あれ?これって、チャンスじゃないのか?よし!俺は勇気を出す!
「先輩!あの、誕生日おめでとうございます!これ良かったらどうぞ!」
「えっ!?あたしに?ありがとう、スゴく嬉しい♪開けて良い?」
いや、出来たら帰ってから開けてほし、あぁ!開けちゃってるし!何で開けてるんですか!?良いよって言ってないのに!
「わぁ!ラピスラズリのペンダントね!ありがとう、スゴく嬉しい♪」
「いやいやいやいやいや!そんな言ってくれなくて良いですよ!俺は昔から、プレゼント選びが壊滅的にセンス悪いから、親からもダチからも元カノからも、趣味が悪いとか使いにくいとか他にも色々!だだ、だからお世辞何て要らないですから、本当の事を言ってください!」
情けねぇ。自分からバラしちまったよ。あぁあ、終わったわ。せっかく勇気出して渡したのに。自分の馬鹿野郎!
「じゃあ、ラピスラズリのペンダントを選んでくれたの?他にも色々な天然石があったと思うけど」
「あ、あの………この深い蒼が先輩に似合うなって思って。でも、石の意味は分からずえらんだんですけど」
「 ラピスラズリは、愛と美の女神"アフロディーテとも関係が深くて、古代ローマ時代では、恋人たちの愛と夢を守る石と崇められた歴史もあるの。いまでも恋愛に絶大なパワーで、愛する人との幸せを優しく守ってくれるんですって。だから………もう、すっごく嬉しい!ありがとう♪大好き♪」
勢いよく抱き付いてきた先輩を受け止めきれずに、一緒に椅子から転げ落ちたが、二人ともスゴく幸せな気分だったから、その場で笑い飛ばしちまった。
その日からずっと、先輩はラピスラズリのペンダントを着けてくれている。俺はそれが、とても幸せだ。初めてプレゼントを喜んでもらえたこの嬉しさを、忘れる事は無いだろうから。
終わり
プレゼント 中村彩香 @karara9559
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