決断の先。
家族との写真撮影を終えた僕は、父達に礼を言い別れを告げた。
名残惜しくないと言えば嘘になるが、僕の意志は既に決まっている。
今更、後戻りする事など出来る筈もない。
だから僕は、この結末を受け入れるしかなかったのだ。
(後悔はしていない....。
これしかなかったんだから――。)
僕は諦める事を正当化するように、幾度も幾度も心の中で、その言葉を繰り返す。
受け入れるのも割り切るのも、決して簡単ではなかった。
だが、もう歩き出すと決めた以上、今更、後戻りは出来ない。
そう......だからこそ僕は――。
「婆ちゃん、ありがとう。
父さんや母さん....優に別れを告げてきたよ。」
「そう.......。
無事、思い出では残せたのね?」
「うん、婆ちゃんのお陰で皆との写真残せたよ。
正直、残念だけど、でも――。」
「でも...?」
「これで漸く、あの時から止まってた時間が、進み出したような気がするんだ......。
だから、きっと......これで良かったんだよ。」
そう言いながら僕は、祖母に向け微笑んだ。
微笑んだつもりだった....でも――。
その瞬間、僕の瞳から涙が零れ落ちる....。
どんなに決断しようとも、現状をそう簡単に受け入れれる筈もない――。
だから悲しみと悔しさを、そう簡単に拭いされる筈もないのだ。
しかし、そんな僕に祖母が、少し切なさを含む笑顔で静かに告げる。
「透ちゃん......お父さん達を助けれなかったけど、その想いや頑張りは決して無駄にはならないわ。
その悔しさや悲しさはきっと、春香ちゃんを救う為に必要な事だから――。」
「婆ちゃん....それって、どういう......。」
「透ちゃん......私は科学者だけど数式や計算で解明できるものには、限界がある事を良く知っているわ。
だから、数式では分析しきれない運命の法則の全てを現段階で、解き明かす事は出来ないの――。」
「そんな....!
それじゃあ、春香の運命も変えられないって事なの婆ちゃん!?」
「落ち着いて、透ちゃん。
あくまでも今の科学では解き明かせないってだけよ――。
でも、手段はきっとある。」
祖母は確信を込めた強い口調で僕に告げた。
そして、その祖母の表情から僕は、それが単なる気休めではないという事を、即座に理解する。
「どういう事なの婆ちゃん?
本当にそんな手段なんてあるの?」
「えぇ、確信はあるわ。
恐らく、死の運命を突き崩す鍵となるのは、運命に干渉する程の一念よ――。」
僕は祖母のその言葉を聞き、祖母が前に言っていた強い想いの意味を取り違えていたのだと理解した。
祖母が前に言っていた強い想いとは、成し遂げようという強い意志や前向きな想いの強さの事ではない。
恐らくそれは、固定された運命的な法則を歪ませる程の貫くべき信念であり想い。
つまり、それを絶対に成すのだという、信じて疑わない一念である。
科学の数式で解明できぬ、この純粋なる想いの結晶こそが、数式で解き明かせぬ絶対運命に唯一干渉し得る武器となるのだろう。
それは不確定要素の多い実証すら儘ならない事柄ではあったが、それでも僕が希望を見出だすには十分すぎモノだった。
だから僕に歩みを止めるわけにはいかない。
例え、か細い輝きであろうとも、希望という
光を手にしてしまったのだから――。
僕は春香の笑顔を思い出しながら、静かに目を閉じた....。
彼女に僕は幾度......救われただろうか――。
僕は幾度、彼女に助けられただろう――。
(だから今度は、僕が春香を助ける番なんだ――。)
そう......春香を救える可能性が僅かにでもあるならば、僕はそれを成さねばならない。
皆が僕に残してくれた想いを無駄にしない為に....。
そして、皆が僕にくれた想いを無駄にしない為に――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます