望まぬ決断。
(何とかするしかないんだ....。
もう、後戻りは出来ないんだから......。)
物理的に対処不可能な事象――。
それは言われるまでもなく、分かっていた事実だった。
僕は今回の自然災害まで巻き込んだ事象が、単純に死という変えがたい運命故に、巻き起こったものだと考えていたが、祖母はそこに更なる可能性を付け加える。
それは、複数名の死の運命が絡み合った結果、融合し生じた強大な死の運命という可能性だった。
つまり、三人個々の死の運命が別の時間軸にズレ込んだ事により、一つの運命として融合し巨大な運命存在として完成してしまったという事――。
それが祖母の結論だった。
そして、祖母によれば、この強大な運命力は更なる死の運命を引き寄せ融合し、もっと強力になる可能があるという。
その結果が、次に父達に訪れる震災による津波であり――。
凍死という死の運命――。
(何かある筈だ....。
まだ何かが――。)
僕は事象発生現場に到着するなり、再び周囲を確認した。
しかし、その直後、前回と同じタイミングで地震が発生する。
そして、道路を走っていた車の数々が突然、動きを止めた。
緊急地震速報が流れていたようだが、それでもあまりに急なタイミングだった事もあり、複数台は後方より追突され、玉突き事故状態になる。
(くっ......あまりにも時間がない!)
何時もなら事象発生前に来て、準備をする所なのだが今回に限り、それは無理だと言わざる得なかった。
何故なら今回はどの時間帯も車や人通りが多く、対応する隙が見当たらなかったからである――。
だが例え、そんな時間があったとしても高々数時間程度で、災害に備えるのは事実上不可能だった。
それ故に僕はほぼ、ぶっつけ本番の状態で挑む事となったのだが――。
(こんなのどうすればいいんだよ!?)
僕が父達の車に向けて走り出すと同時、父達が乗る車が後方から追突される。
そして、父達の車に追突した男性は即座に車から降りると、海とは逆方向へと逃げ出した。
だが、それは当然の行動。
遥か遠方の海より迫り来る大津波の姿――。
そんなものを目にすれば、恐怖が先立つのも必然であろう。
そして、追突したのは考えるまでもなく、例のドライバーだった。
しかし、今はそのドライバーの事を気にかけている場合ではない。
津波はまだ遥か遠方の方に見えるが、それでも父達の車がある地点に到着するまで、恐らく二分とかかるまい。
(急がないと!)
能力向上機を起動し、僕は一気に父達が乗る車への距離を詰める。
しかし、父達の乗る車は追突された影響により、ドアが変形し開かない。
そして、母達が座る助手席側も高い石壁があり近すぎて、ドアを開けれない状態にあった。
自力での脱出は完全に不可能。
僕は必死、今できる事を考える。
津波に干渉し、接近速度を低下させたり一時的に足止めする事は、物理的に不可能だろう。
ならば、方向性は一つしかない。
車から父達を助け出し、津波から逃げるという方法のみである。
だが、その方針すら決して容易いものではなかった。
磁力を利用して車を引き寄せる方法か、それとも身体能力を強化して車のドアを引き剥がす方法か――?
何を試すのであれ、作業を終えるには時間が必要だった。
(だ......駄目だ。
迷っている暇なんてない!)
僕は迷うのを止め、力付くでドアを引き剥がす事を選択肢する。
しかし、変形したドアを何とか引き剥がした直後、津波が車から数十メートルの距離まで迫っていた。
次の瞬間、僕はこれから訪れる状況を悟る。
もはや、どう足掻こうと津波から逃れる事は不可能だと――。
そして、僕達が津波に呑み込まれた直後、僕の周囲の空間に緑色の亀裂が走る。
それと同時、自分以外の時間がゆっくりと流れ始めた。
(何だ....回りの速度が妙に遅い......。
一体何が――??)
それと同時、僕の周囲の空間に生じた亀裂が急激に増殖する。
そして、その瞬間、僕は理解した。
これから自分の身に訪れる状況を――。
だが、自分の迂闊さを後悔しようとも後の祭だった。
強制的に僕の体は、亀裂より生じた強力な引力に引き寄せられる。
僕は必死にその引力に対し抵抗を試みるが、それは所詮、無駄な足掻きだった。
抵抗虚しく亀裂の中に引き摺りこまれ、僕は研究室で倒れたまま目を覚ます。
だが、体は怠く....極度の疲労故か視界が歪む。
もはや僕には一切の気力や体力は残されていなかった。
こうして僕は、貴重な一日を失ってしまったのである。
次の日――。
漸く動けるようになった僕は、再び過去に向かい磁力による車の引き寄せを試みる。
しかし、車を引き寄せるには強力な磁力が必要だった。
僕は磁力を最大にして車の引き寄せに挑戦するが、その結果、複数台の車を巻き込み引き寄せてしまう。
そして、その後、僕は幾度もそんな失敗を繰り返した――。
こうして、浪費した時間は約一週間。
残された期間は僅か一週間のみ――。
その結果、僕は二つの選択を迫られる事となった。
その選択とは、このまま父達を救う為に運命改変を続けるか、それとも家族を救う事を諦め春香を救いに行くか――その二つである。
(くそ......どうすればいい....。
どうすればいいんだ僕は――!?)
選ぶ事が至難な選択肢....。
それはまさに究極の選択だった。
家族も春香も見捨てられる筈もない。
しかし、それでも選ばねばならなかった。
どちらを救うかを――。
(くそッ――!!
何でだよ、何でこんな事になるんだよ!!?)
僕は理不尽な現実を目の当たりにし、足下の畳を勢い良く殴りつけた。
それと同時、僕は殴りつけた右手に痛みにより少し冷静さを取り戻す。
そして、僕は悩みに悩んだ挙げ句、祖母に相談する事にしたのである。
しかし――。
「婆ちゃん、僕はどうしたらいいんだろう?」
「ごめんなさい透ちゃん....。
人生には、納得出来なくても受け入れなければならない時もあるの。」
「・・・・・そうだよね....。
結局、選ぶしかないんだよね....。」
「えぇ......残念な事だけどね....。
ただ――。」
祖母は悲しみを噛み殺しながら一瞬、声を詰まらせながら僕に告げる。
「だからこそ、受け入れる為に少しでも、その状況を納得できる形にしなければならないの。」
「納得できる形?
でもどうしたら?」
「正直....私にも分からないわ。
ただ......これだけは言えるわねぇ。
春香ちゃんの運命を変えるより、お父さん達の運命を変える方が難しいわ。」
「そうか......つまり、諦めるしかないんだね父さん達を救う事を――。」
「残念だけど、それが賢明なんでしょうね。
だから......お父さん達の死を納得する為に、父さん達に別れを言いに行くなんてどうかしら?」
「そうか......そうだね。
そういえば僕は――。」
(僕はあの日、父さん達に別れを告げていない。)
だからこそ......あの時から、僕の時間は動いていなかった。
それは決して、受け入れ難い現実だったからである。
しかしもう僕は、その残酷にして悲しい事実を受け入れなければならない。
そうしなければ前に進めないからだ。
春香を救う為には、絶対の覚悟がいる。
他の事に気を取られている暇はないのだ――。
僕は迷いを振り切り、決意を固める。
(そうだよな......何時までも逃げているわけにはいかないよな?
父さん達に別れを告げに行こうか......。)
本音を言えば、家族の死を直視するのが怖かった。
認めてしまえば、家族との本当の別れが訪れてしまうからである。
だが......それでも僕は――。
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