改変の底。

「一度目は何とかなったよ婆ちゃん。」


何とか一度目の改変。


しかし、運命の改変を為し遂げたにもかかわらず僕には、それを成し遂げたという喜びはなかった。


いや、むしろその後に想像を絶する大きな壁を目の当たりにし、僕は運命改変の限界すら感じていたのである。


そして、その状況に対して更に追い討ちをかけるかのように、僕の元には予想外の厄介事が舞い込んでいたのだった。


「一度目の改変が成功したのに浮かない顔ね、透ちゃん。

何があったの?」


「うん.......色々あってね......。」


僕は沈んだ気持ちを何とか押し退けながら、祖母に現状の説明を始めた。


まず説明したのは、一つ目は改変を終えてからの事である。


訪れる第二の死の運命――それを確認するべく、僕はタイムゲートで、事故が起こる日時を探した。


そして、遂に今は亡き家族達が遭遇する次なる死の運命に遭遇したのである。


しかし、次なる死の運命は僕の想像を逸脱していた。


僕の前に立ちはだかったのは、地震という震災後の津波――。


個人的な事故ではなく、災害である。


それにより幾人ものドライバー達は巻き込まれ、父達も津波に呑み込まれ死亡した。


死の原因は津波に巻き込まれた事もあるが、やはり冬期間に長く水に漬かった事による急激な体温低下が最大の原因と言えるだろう。


つまり、死因は凍死である。


だが、この事象における最大の問題点はそこではない。


この事象の厄介な所は、震災と家族の死の運命が連動し繋がっているということである。

 

そして、二つ目の問題は――。


僕の親戚の存在であった。


次の事象を確認し僕が家に戻ってきて早々、佐川という弁護士が家を訪れる。


その弁護士親戚である叔父夫妻の代理人であり、保護者として僕を引きとる準備をしてる旨を僕に告げてきた。


僕が未成年だからと、叔父夫妻は僕を引き取る為の手続きをしているとの事だったが――。


それが建前である事を僕は即座に察した。


何故なら叔父夫妻は損得勘定でしか動かないからである。


つまり、今回の行動には間違いなく叔父夫妻に利益となる何かがあるという事――。


そして、それが何かなどは一目瞭然だった。


僕の引き取り手になりたがる理由など一つしかない。


彼らが望むものは祖母の遺産だ。


そして、叔父夫妻がこのような回りくどい方法を使ったのは、自分達に遺産を相続する資格が無いからである。


叔父夫妻はお金に凄まじい執着をしており、それが原因で過去に幾度も問題を起こし、祖父や祖母、父達から縁を切られていた。


それ故に、このような手段に出たのだろう。


正直、どうやってこの状況に持ち込んだかまでは分からないが、何であれ夏休みが終了後に僕は、この強欲夫妻に引き取られる事なるだろう。


何故、そう思うのかと言えば叔父夫妻は勝てない勝負はしないのが信条だからだ。


つまり、本当の意味で僕に残された時間は、僅か二週間程度しかないという事である――。


僕はそれらの事を祖母に告げた。


苦しさのあまりタメ息をつきながら。


「そう....次の運命は災害なの。

それと康助【やすすけ】と吉美【よしみ】が透ちゃんが法的な手段で透ちゃんの引き取り手に――。」


祖母はそう言い終わるなり、暫し黙り込んだ。


それより祖母は数分黙り込み、漸く口を開く。


「実はね......私の死後は咲子【さきこ】さんに透ちゃんの面倒を見て貰えるように、弁護士に伝えてあるの。

遺言にも、その旨は記載されている筈なんだけど、どうして康助達に付け入る隙があったのかしら?」


「えっ......どういう事?」


「その弁護士には相続権に関する遺言書を預けてあってね、相続権は透ちゃんに、親権は咲子【さきこ】さんに引き継がれる手筈になっている筈なの。

康助【やすすけ】と吉美【よしみ】は一体何をしたのかしらね?」


祖母は深いため息をつく。


だが祖母のその反応は当然の事だった。


普通ならば有り得ない状況だったからである。


叔父夫妻は一般的な善悪の概念が欠落していた事に憤りを感じたのだろう。


あの叔父夫妻は金に貪欲であり、金を手にする為なら手段を選ばない。


例えばそれが違法な手段であろうともだ。


以前にも母方の祖母が死んだ際、母に遺産を放棄の承諾も得ぬまま、違法な方法で遺産を独占したという過去の事例もある。


それに叔父夫妻は母が自分の実母にかけていた生命保険の名義を勝手に書き替え、生命保険をも掠め取ったのだ。


つまり、彼らには人としての良心が欠けている。


故にそんな叔父夫妻に引き取られる事は、僕にとって最悪の結末だった。


(残された時間内に改変を終えれなければ、本当の意味で全てが終わる....。)


僕は運命改変を成功させれなかった後の未来を思わず想像した。


もし、夏休み中に何も変えられなかったら、僕は叔父夫妻に引き取られ、財産全てを奪われる。


祖父や祖母の発明品に関しては売り出され金に変わり、僕は病気を理由に病院か施設に閉じ込められるだろう。


そして、タイムゲートが叔父夫妻の手に渡ったら間違いなく悪用される。


だが、僕がタイムゲートの説明書きを処分したならば、きっと叔父夫妻は価値の無いものと見なし処分するだろう。


ならば、タイムゲートを使用可能なタイムリミットは間違いなく、夏休みが終わるまでだ。


ただ、祖母ならばあるいは何かしらの手を考えつくかもしれないが――。


「ねぇ....婆ちゃん、例えばの話なんだけどタイムゲートって研究室から持ち運びとか可能なのかな?」


「残念だけど、それは無理よ透ちゃん。

タイムゲートはまだ試作品だから研究室の専用の設備でしか動かせないの。

それにもし分解しようものなら、設計者である私にしか組み立てられないわ。」


「そう....なんだ。

じゃあ、もし夏休みまでに運命改変を終えられなかったとしたら――。」


「終了ね......残念だけど。」


祖母は悔しさと悲しさを含む表情で僕に告げた。


(どうにかならないのか......?)


絶望的な現実だけが重くのし掛かる。


どう考えても運命の改変は、ほぼ不可能だった。


だが......。


(でも......裏を返せば、もし父さん達の運命を変える事ができたなら、叔父夫妻が介入してくる運命も変えられるという事だ。)


そうなればきっと、そうなれば祖母も無理してタイムゲートの開発を急いだりしなかったかもしれない。


だから僕には、もう進む以外の選択肢はなかった......。


ただ、ひたすらに――。

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