攻略への第一歩。
(取り敢えず戻ってきてみたものの本当に、この不自然な強制力に規則性のようなものがあるんだろうか?)
僕は祖母のアドバイスに従い榊原さんの事故に働く、不自然な強制力の規則性を検証してみる事にした。
今回は三度目の事故の事象であり、この事故を回避すれば、事故があったという事実は無かった事になる。
そして、ここを切り抜ければ榊原さんに訪れる不幸の運命は変わるのだ。
だが、その為には見つけなければならない。
この現象の中に存在する攻略の糸口をーー。
だが、それは決して雲を掴むような話ではない。
何故なら僕は、祖母の成功の軌跡を辿っているに過ぎないのだからだ....。
つまり、必ず運命は変えられる筈なのである。
僕は自分にそう言い聞かせつつ、事故の訪れを待った。
そして、その瞬間は訪れるーー。
(来たな....。)
周囲の人々の動きが突然止まり、榊原さんだけが動く。
だが、その人混みの中に車が二台程、通れるスペースが不意に生まれる。
しかし、そのスペースはある程度の運転技術が無ければ、スピードを出すのを躊躇うであろう視界の悪さだ。
だが、例の車は何の迷いもなく加速し、一直線に榊原さんの方を目指し加速を始める。
(こんな視界の悪い場所で車を加速させるなんて、とても正気とは思えないな?)
そして、僕が加害者の正気を疑った直後、榊原さんの足を一気に踏み抜く。
それと同時、榊原さんが痛みに満ちた絶叫を上げた。
榊原さんの悲痛感に満ちた叫び声が響き渡り、車が停車する。
覚悟は出来ていた筈だったが僕は、榊原さんの苦しむ声を聞くのに耐えられず、慌てて耳を塞いだ。
榊原さんの悲痛に満ちた叫びが...苦しみが、僕の心に深く突き刺さる。
榊原さんの苦しみは決して、他人事ではなかった。
(胸が痛い......。
榊原さん、ご免なさい!
きっと......きっと運命を変えてみせるから!)
僕はその痛みと苦しみを引き摺りながら、その場を立ち去る。
そして僕は再び、祖母の元へと向かった。
「婆ちゃん、ただいま。」
「お帰りなさい。
とは言っても私にとっては、さっき別れたばかりなのだけどね?
それはそうと浮かない顔ね、透ちゃん?
榊原さんの事で何かあったのかい?」
研究室に戻ると、まるで時間軸のズレなど無いかのように、祖母は僕を出迎えてくれた。
「いや......別に何かあったって訳じゃないよ。
ただ榊原さんが痛みや苦しみが、他人事には感じられなくて...。」
「えぇ、そうね....確かに人の運命を背負ってるんだもの...苦しいのは当然よね。」
祖母はそう言って僕の事をぎゅっと優しく抱き締めてくれた。
その温もりは、とでも温かく僕の心に染み渡る。
「ありがとう、婆ちゃん....。」
温かい......。
今は亡き祖母は、この時間軸では間違いなく存在していた。
祖母の体温が僕に伝わってくる。
「大丈夫よ、私がついているわ。
だから透ちゃんと私で、榊原さんの運命を必ず変えてあげようね?」
「うんーー。」
それが今の僕にとって、精一杯の答えだった。
それから何分経過しただろうか......?
心を落ち着けた僕は、漸く祖母に現状を告げるべく口を開く。
「ごめんね婆ちゃん、取り乱しちゃって。」
「いいのよ。
所で状況の方はどうだったの?」
僕は祖母に人々がどのような形で停止していたのかを、可能な限り詳しく説明した。
中心である十字路を中央を主体に、車二台程度通れる幅が生じた事や、その周囲の人々が微動だにしない状況が続いた事。
そして、榊原さんが事故に遭うまでの間、周囲に動きが無かった事を事細かに祖母へと伝える。
「そうなの......成る程ねぇ。
だとすると、重力発生装置と能力向上機を上手く使えば何とかなるかも知れないわねぇ?」
「重力発生装置と能力向上機?
そんなのあったっけ?」
「ありますよ、ここにーー。」
祖母は僕の言葉に苦笑しつつ、発明品を収納している棚を開く。
そして、細かいチップが挿入された吸盤らしき物がついた装置と、小型のリモコンのような機器を取り出した。
「あー、そういえばあったね~、そんな感じの?
でも、どうやって使う気なの?」
「今説明するから待ってね透ちゃん?」
祖母はそう言うと、僕が状況を説明するのに使ったノートに手をかける。
そして、祖母はノートに僕が為すべき事を伝える為にペンを手にしたーー。
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