捜索【後編】
(あれ、東田デパートって、こんなに高い建物だったっけか?)
僕は久し振りに来た東田デパートを見上げながら、思わず息を呑む。
東田デパートは四階建てくらいだと記憶していたが実際には、どう見ても六階以上の高さはある。
確かに両親が死んでから東田デパートに来る事は無くなっていたが、それにしても数年程度で記憶にそんな誤差が生じるものだろうかーー?
僕が行かなくなってから改装でもしていれば話は別なのだが....。
(うん....?
あ、いや、やっぱり僕の記憶の方がおかしいのか?
良く考えてみたら、四階の玩具売り場にしか興味がなかったから、四階建てだと記憶してたのかも知れないな?)
その直後、ふと、それらしい理由を思い付き僕は取り敢えず、その理由で納得する事にし、今為すべき事へと意識を傾ける。
そして、僕は雑念を振り払い再度、榊原さんを捜索するべく意識を集中させた。
現在は、午後の三時ーー。
コンビニの店員さんの証言に間違いがなければ、榊原さんは間も無く買い物を終える筈。
しかし、榊原さんを探すにしても、一つ問題があった。
その問題とは榊原さんがこの後、どの出入口を使い東田デパートを出るかという事である。
東田デパートは一階に出入り口が三ヶ所もあるので正直、榊原さんが何処から出るかの見当がつかないのだ。
もっとも榊原さんが、車やバイクは持ち合わせていれば、車などで来ている可能性が高いため駐車場を見張れば済む話なのだが...。
(榊原さんは、自転車しか持っていない筈だよな確か......?)
そう、確か榊原さんは経済的な理由もあり、自転車しか所有していなかった。
また、この周辺に自転車でくるとしたら、駐輪場は東田デパートのものに限られる為、駐輪場が直ぐに埋まり駐輪できないのは間違いない。
つまり、買い物に来るとしたら公共交通機関を使わなければならない。
そして、使うとしたら間違いなく電車だろう。
その理由は至って単純、街に行く為のバスは約二時間に一本しか走っていないが、電車は一時間に一本走っているからである。
それに電車の方がバスより安上がりであり、バスに比べて使いやすい事を考えれば、電車を優先的に使うのは当然の話だ。
僕は考えを纏めると、一階の出入り口に当たりをつけると、早々に榊原さんを探す為に行動を開始する。
榊原さんが家に帰える途中に事故に遭ったのだとしたら、駅に向かうのに一番行きやすいのは南側出口だ。
僕は榊原さんが家に帰る途中だったと考え、南側の出入り口に張り込みを始める。
しかし、それより一時間ほど経過したが、一向に榊原さんの姿を確認する事はできなかった。
(あれ?
もしかして、家に帰る途中の事故だったのか?
まぁ、確かに考えてみれば、買い物が一ヶ所で終わるとは限らないよな?)
確かに良く考えれば、東田デパートで買い物をしたから帰るって発想は、安直過ぎたかもしれない。
僕は気を取り直し、他にどんな可能性があるのかを考えた。
そして考え続けた結果、僕は幾つかの可能性を思いつく。
先ずは第一の可能性。
榊原さんがこの出入り口を使用したが、単純に僕がそれを見逃しているという可能性である。
確かに人の出入りが激しいので、百パーセント確実に確認できていたとは言えないだろう。
しかし、それでも一時間という短い時間の中で、見逃したとは到底思えない。
そうなると思いつくのは、第二の可能性ーー。
根本的な場所が間違っていたという可能性である。
しかし、その場合だとコンビニの店員が嘘をついていたか、勘違いしていたという事になるのだが、その可能性は限りなく低いだろう。
何故なら店員は状況をかなり細かく知っており、また嘘をつく理由もない。
ならば残るはただ一つ......第三の可能性を考えるしかなかった。
因みに三つ目は言うまでもなく、榊原さんが他の出入り口を利用したから榊原さんを確認できなかったという、当然といえば当然の可能性である。
(まぁ、普通に考えたら三つ目の可能性だよな?)
そして結果、僕が最優先するべきものと判断したのは、第三の可能性であった。
ただし、それは必ずしも絶対のモノではなく、あくまでも可能性が高いといった程度のものでしかない。
しかし、タイムゲートが使用者の体力に消費するという制限を考慮すると、何でもかんでも試す訳にはいかなかった。
何故なら使用者の体力に余力が無くなった時点で、その日のタイムトラベルは終了となるからである。
それ故に僕は、取り敢えず優先度の高いモノから確認していく事にしたのだ。
(先ずは三つ目の可能性を潰していくか。
効率的に検証していかないと、ただ時間と体力を無駄に浪費するだけだからな?)
それは言うまでもなく消去法にすぎない。
だが、それでも何も考えず無闇に行動するよりは遥かにマシだろう。
僕は微かに過る不安を振り払い、再びこの時間軸を訪れる。
訪れたのは、この時間軸の午後三時。
僕が向かったのは西側の出入り口。
西口に向かった理由は、現在地から一番近い位置にあったからである。
そんな理由とも言えぬ理由から僕は、西口での張り込みを開始したのだが......。
(何てことだ....。
取り敢えず来てみた西口だったが、まさか早々に榊原さんに遭遇するとは....?)
僕は迷ってたり、悩んでたりしてたのが馬鹿みたいだなと苦笑しつつ、取り敢えず榊原さんの後を追う。
榊原さんは私服姿であり度々人混みに紛れ込むが、それでも短めの髪型が特徴的な為、榊原さんの姿を見失う事はなかった。
そして、それより三十分後ーー。
榊原さんが、人混みの多い交差点へと足を踏み入れる。
(ここでは流石に、事故は起きないよな?)
僕はそう高を括り、榊原さんの動きを見守った。
直後、車側の信号が青から赤に変わり、周囲の人々が一斉に動き出す。
だが......何故か、人々を歩みが不意に止まる。
そして、そんな中で何故か榊原さんだだ一人だけが、突然一歩を踏み出す。
奇妙な光景だった。
まるで周囲の人々がそこで何かが起こる事を、事前に理解していたかのように、ただ静かに立ち尽くす。
それはまるで停止した世界のようであった。
だが...その異質の空間で、榊原さんただ一人だけが、ゆっくりと歩道に足を踏み入れる。
しかし次の瞬間、幾度となく目にしてきた悲劇が、榊原さんを襲いかかった。
まるで狙い澄ましていたかのように、信号を無視し、赤色の車が榊原さんの眼前を突っ切る。
それはあまりにも異質な光景ーー。
(一体......何なんだよ...これは?)
普通ならば、こんな不自然な事などあり得ない。
あり得る筈など無いのだから......。
僕は理解の及ばない現実に圧倒されながら、ただ呆然と立ち尽していた。
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