必勝の一手
(確か婆ちゃん、この辺に置いていた筈だな?)
元の時間軸に戻って早々、僕は祖母の発明品の確認を開始した。
まずは不快周波発生装置と小型電磁力発生装置を探し、その改良が成されているかを確かめねばならない。
(大丈夫、大丈夫な筈だ....。)
僕は自分にそう言い聞かせながら発明品を、手に取る。
今回の榊原さんの事故を回避するには、これらの発明品が改良されている事が必須条件だ。
故にそれなくしては、どう行動するかすら思案できない。
僕はクローゼットの中を十分程度探した末、漸くそれらの発明品を探し当てた。
しかし、肝心の改良がなされているかどうかまでは、流石に見ただけでは判断できない。
(婆ちゃんならきっと、見ただけで改良してあるかどうか判別できるんだろうな...。)
見た目で、前のモノとの違いが分かるのは、作った本人だけである。
(さて、どうやって確かめようか?
このままだと試しに使うしかないんだけど......?)
頭を抱えながら僕は、ため息をつく。
使用した結果、改良されていたなら問題はないが、もし改良されていなかったらーー?
(時間を無駄にしてしまうな...。
さて、どうしようか?)
僕は悩んだ末、答えを出せないまま落ち着く為に椅子へと座る。
そして、机の引き出しに何となく視線を向けた直後、ふと何かが頭の片隅を過った。
(あれ...?
そういえば引き出しには婆ちゃんのノートとか入っていたよな?)
不意に僕は、引き出し入っている祖母が残したノートやメモ書きの事を思い出す。
(待てよ...?
もし改良されているなら、もしかしてノートに記されているんじゃないのか?)
僕は引き出しに手を伸ばし、即座に中を確認する。
引き出しの中には分厚いノートが二冊。
ノートの中には、発明品や研究成果などについて書いていた。
そして、予想通り発明品の改良状態についての記載が付け加えられていたのである。
つまり、祖母は約束通り改良を間に合わせてくれていたという事だ。
(婆ちゃん、ありがとう!
婆ちゃんには本当に感謝だよ!)
僕は祖母に感謝しつつ、早々に祖母が僕の為に準備しておいてくれた説明書きに目を通す。
そして、使い方を確認し終えた僕は不快周波発生装置と小型電磁力発生装置を、リュックへと詰め込んだ。
後は榊原さんの過去へと再度、向かうだけ。
(榊原さん...必ず運命を変えるからね...。)
僕は、はやる気持ちが抑えられないまま、勢い良くタイムゲートの起動スイッチを押す。
そして、僕は再び二度目の事故が起こる過去へと向かった。
挑むべきは凶悪なる運命の壁。
しかし、今回の挑戦は今までのモノとは明らかに違った。
今までは訪れる不幸の運命を変える事が出来るか出来ないかーーそんな不安の中での挑戦だったが、今はある種の確信がある。
確実に不幸の運命を回避出来るという、明確なる確信だ。
僕は事故発生の三時間前の過去に到着するなり、周囲にある物を確認する。
不快周波発生装置と小型電磁力発生装置は精々、握り拳程度のサイズしかなく軽量型なので持ち運びには大した苦労はない。
ただ、設置するとなると街灯や電信柱もしくは比較的小ぶりの木々等、そういった固定できる何かしらが必要だった。
(で、何処に設置しようかな?)
この辺は電信柱や街灯はかなり少なく、設置するには少々心許ない。
しかし、設置場所を探す為、立ち並ぶ木々を見ていていた僕は、それらの多くが比較的真っ直ぐで、設置には申し分ないという事に気付く。
ただ全体的に少々大きめなので、やや小ぶり木を探す必要はあるだろうが。
(よし、取り敢えず試してみるか?)
僕はその木々の中でやや小ぶりのモノを探すと小型電磁力発生装置を即座に設置した。
そして小型電磁力発生装置を設置し、反対車線の方に拾ってきたトースターを置く。
(取り敢えず、これで試してみるか?)
コントローラの磁力数値を調整し、僕はものは試しにとスイッチを入れた。
それと同時に投手が投げた高速の硬球の如き速度で、トースターが小型電磁力発生装置の方へと飛んでいき.....その直後、トースターは勢いよく木に激突する。
そして、トースターは側面が変形した状態のまま、木に設置された小型電磁力発生装置の磁石盤に引っ付いたまま固定されていた。
(弱めに設定した筈なのに、何て磁力なんだ......!?)
唖然としながら、僕は磁石盤に引っ付いたトースターを見詰める。
それも当然の事だ。
何故なら、そのトースターはかなり頑丈な素材で作らたものであり、簡単に潰れるようなものではなかったからである。
(恐るべし、婆ちゃんの発明品....。
これは使い方を間違えると大惨事になりそうだな?)
その後、僕はノートを開き小型電磁力発生装置の数値の設定目安を確認した。
(あっ....やっぱり書いてくれてたんだ?
流石は婆ちゃん、頼りになるなー。)
車を引き寄せるのに適した数値は三らしい。
しかし、トースターの時は一のメモリで、試しみてあの威力だった事を考えると正直、不安は無いとは言い切れなかった。
(うーん、一応、試しに威力を確認しておくか?)
僕は追突事故などが起こらない状況かつ、車が一台しか通らないタイミングを見計らい、試しに小型電磁力発生装置を使用する。
そして電磁力を発生させた瞬間、走行中の普通乗用車が僅かに反対車線へと引き込まれた。
だがその直後、普通自動車は慌ててスピードを緩め、その車は減速しながら体勢を立て直す。
それより数秒後、小型電磁力発生装置の磁力圏外へと出た普通自動車は、何とか元の車線に戻ると、そのまま加速しつつ走り去った。
(運転手してた人、不思議そうにキョロキョロしてたな?
まあ、それもそうか......突然、車が別方向に引き込まれたら驚くのも無理はないよな?)
僕は小型電磁力発生装置の調整に一役買ってもらう事となった運転手に、心の中で詫びながら次の準備に取り掛かる事にした。
(さて、次はこいつの威力を確認するか....。)
僕はリュックから手袋型の不快周波発生装置を取り出し、左手に装着する。
不快周波発生装置は小型電磁力発生装置よりも簡単な設定だった。
使う時はスイッチを入れ、指先を対象に向ければいいだけ。
それだけで対象に、不快周波を発生させられるのだ。
因みに不快周波数の強さを調整する方法は、指先を何本対象者に向けるかによって決まるらしい。
(取り敢えず、誰かで試してみないといけないな?)
僕は不快周波発生装置のスイッチを入れた。
しかし、試すとはいっても先程のように、運転中の相手に使うのはリスクが高い。
(さて、どうしようか?)
僕は試すべき対象を探すべく、周囲を見渡した。
しかし、人通りが少ない場所故に中々、都合良く対象となるモノは見つからなかった。
(うーん、参ったな....後二時間しかない。
どうしたらいいかな......?)
僕はぶっつけ本番で試すしかないかと、性能テストを一瞬、諦めかけたのだが、その直後ーー。
(おっ......あの人で試せるかな?)
不意に犬を散歩する五十代くらいの男性の姿を目にする。
(取り敢えず性能テストをしてみるか。)
そう決断するなり僕は、その男性に人差し指を向けた。
敢えて犬に向けなかったのは、犬がパニックを起こし、不慮事故を引き起こさないようにとの配慮である。
もっとも運命的な視点で考えたら、無駄な気遣いだったのかも知れないが。
何であれ、僕は犬の散歩をしている男性に指を向けた。
そして、その瞬間、男性は慌てた様子で見えない何かから逃げるように、木々のある方へと身を寄せる。
(おぉ、大した威力だな不快周波発生装置!?)
二つの武器である発明品の性能テストを無事に終えた僕は、来るべき瞬間に備えた。
後は実行あるのみ。
小型電磁力発生装置の威力設定は、祖母が推奨する数値に設定し、不快周波発生装置は、人差し指と中指の二本指で対応する事にした。
それより待つこと約二時間、遂に来たるべき時が訪れる。
僕は榊原さんが一定距離まで来るのを確認すると、榊原さんの後方へと即座に回り込む。
その直後、以前と同様の形で加害者の車が榊原さんの遥か後方より現れる。
(来たか....。)
固唾を呑みながら僕は、接近する車の様子を窺う。
成功させる自信はあったが、だからといって緊張しない訳ではない。
車を引き付けるように、僕は車が榊原さんに接近する瞬間を待った。
(よしっ、今だ!!)
それはまさに好機だったーー。
車が榊原さんの真後ろに数メートルまで接近した瞬間、僕は榊原さんに指先を向けて、不快周波を発生させながら小型電磁力発生装置のスイッチを押す。
そして、次の瞬間......加害者の車が突然、反対車線へ引き寄せられる。
それとほぼ同時、榊原さんは「うひゃぁぁぁぁーー!」と声を上げながら茂みの方へと逃げ出した。
(やった、成功だ!!)
榊原さんと車の状況を確認し、僕はこの試みが無事に成功した事を確信する。
(よし、後一つだ....。)
今回は成功するべくして成功したと言うべきものだった。
しかし、まだ本当の意味で運命は変えられてはいない。
僕はその結果に満足しつつも、自分を戒めながらその場を後にした。
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