改変後の世界
(一回目は何とかなったけど......次はどうなるんだ?)
僕は榊原さんの一回目の事故を防ぎ、二回目の状況を確認する為、本来事故が起こる日の一日先に向かう。
今回ここに来たのは、榊原さんが無事に一回目を回避できたかどうかの最終確認と、可能なら次の事故がどういう形で引き起こされるのかを確認する為である。
明確な状況が分からない事もあり、僕は取り敢えず榊原さんが通る何時のルートを張り込む。
(そろそろ榊原さんが来る時間だな?)
腕輪で時間を確認すると既に午後五時を回り、車や人通りは少なくなっていた。
(良く考えてみれば、また同じ道程で事故に遭遇するとは限らないんだよな?
一度、現在の時間軸で状況を確認してからの方が良かったかな?)
僕は取り急ぎで、この時間軸を訪れた事を軽率だったと感じつつも、榊原さんが来るのを待ち続ける。
そして五時半を回った頃、何時も通り走ってくる榊原さんの姿が見え始めた。
(あ....榊原さんが走っているって事は、まだ事故には遭遇していないって事で間違いなさそうだな?)
僕は榊原さんが走ってくる姿を確認し、一回目の運命改変が、成功している事を確信する。
ならば次は榊原さんが何処で、次の事故に遭うかだ。
(まだ、事故に遭っていないって事はこの後、何処かで事故が起こる筈だな?)
僕は祖母の言った事を今一度思い出しながら、榊原さんの姿を目で追い続ける。
祖母は一度のみの事だったから確信には至っていないが、恐らく三度運命を改変しない本来起こる不幸の運命は変えられないと言っていた。
だが、確信に至っていない以上、逆に榊原さんが事故に遭う不幸なる運命は既に変わっている可能性も否定は出来ない。
もっとも何の確証も無い事ではあるが...。
僕は祈るような思いで、そうある事を願った。
しかし、現実とは無慈悲にして無情である事を僕は改めて思い知らされる。
榊原さんが僕の横を通り過ぎてより数十秒後、僕の横を赤い一台の車が通り過ぎた。
その車はまるで運転手が、飲酒運転でもしているかのように、ユラユラとした動きを繰り返す。
そして、その車は榊原さんが右足を前に突き出すタイミングを見計らっていたかのように、一瞬だけ榊原さんの方に一気に接近し右足先だけを踏み潰した。
その直後、榊原さんは痛みに悶え苦しみながら、その場へと倒れ込む。
運転手は榊原さんの足を轢いた場所から、数十メートル先で車を止め、面倒くさそうに榊原さんの方へと歩いてくる。
「おいおい、あんな所をトロトロと走ってんじゃねぇよ?
危ないだろうが、ボンクラ兄ちゃんよ?」
その男は、榊原さんの眼前で立ち止まると傷みで何も言えずにいる榊原さんに向けて、吐き捨てるように言った。
(あれ?
あの男、何処かで??)
僕は男の顔を確認する為に、ゆっくりと近づき男の顔を確認する。
そして、僕はその男が誰なのかハッキリと理解した。
その男の正体は、最初に榊原さんの足を轢いたバイクの運転手だったのである。
(つまり、被害者と加害者の因果関係は継続しているという事か?)
予想もしていなかった状況に、少し驚きはしたもののそれと同時に僕は、被害者と加害者の引力の強さを改めて知る事となった。
そして、その後、加害者の男はまるで録画した映画を巻き戻して再生したかのように、今までと同じような行動を繰り返す。
同じ行動とは動けない榊原さんの胸ポケットに、名刺を入れるという行動である。
「慰謝料はここに頼むわ。
俺はあんたと違って、暇なんてないからな?後は、勝手にやってくれ。」
男は榊原さんの胸ポケットに名刺を入れ終えるなり、下らない事だとばかりに溜め息をつきながら、その場を後にした。
そして、その男が立ち去ってから約五、六分後、榊原さんは漸く到着した救急車により、病院へと搬送される。
僕は榊原さんの事故の確認を終えた後、周囲にある使えそうなものを探す。
(しかし、今回は車か....。
どうやって回避する?)
バイクと車では馬力も面積め違い過ぎる。
つまり、生半可なものでは事故を防げない可能性があるのだ。
(また、あの木材みたいなものでもあれば、時間稼ぎくらいはできるかも知れないんだけどな......。)
そんな事を思いながら辺りを見回すが、そんな都合の良いものが、ポンポンと落ちている筈もない。
(まぁ、そう都合良く有効な代物がある筈もないか。
しかし、本当にどうしよう?)
僕は本気で悩みながら、諦めきれずに再び周囲を見渡す。
だが、幾ら見渡しても妨害に有効なものは最初と変わらず、石ころと道路工事の看板。
そして不法投棄されたオーブントースターくらいのものだ。
しかし、恐らく、そんなモノでは車の妨害は出来ないだろう。
つまり、一回目の時のように場所を変更しての改変は、かなり無理がある。
(くそっ......参ったな。
本当に何も思いつかない!)
最初みたいに道路に石をばら蒔く事も考えてみたが、石ころも看板も車相手に大した妨害にはならない。
それに下手をすれば、妨害するどころか看板ごと榊原さんの足が轢かれてしまう可能性も有り得る。
オーブントースターについては考えるまでもなく、役に立たないのは明白だった。
(困ったぞ......本当に手段が無いな?)
それはまさしく、手詰まりとしか言いようのない状況だった。
僕は悩みに悩んだが一向に答えが出ない。
(駄目だ......やりようがない。)
まさに行き詰まりだった。
だが、僕は一人ではない事に不意に気付く。
(そうだ......婆ちゃんに相談してみよう。)
無論それは苦肉の策でしかないのかも知れない。
ただ、それでも僕は祖母に頼れるという事に、微かな希望を感じていた。
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