リトライ【後編】
(事故発生を確定させるメカニズムは何となく分かった。
後は穴となる部分を探して榊原さんの一日目をどう変えるかだな?)
僕は再び榊原さんが事故に遭う三時間前へと向かった。
とにかく事故を防ぐ為には、穴を探さなければならない。
しかし、使えるものは大小様々な石と道路工事の看板のみ。
相変わらず使えるものは限られていた。
しかし、不幸の事象発生のタイミングと発生メカニズムの穴を見つけて、それを利用するしかないのだが問題は出来る事は限られるという点である。
(恐らく事故が発生条件が成立している状況下で、隙を突かなければならないんだろうけど、一番有効な手段って一体なんだろう?)
しかし、まず為すべき事は有り合わせの物品をどう使うかより、この事象の穴は何処なのかだ。
それが分からなければ、手を考える事すら儘ならない。
(何か方向性はないのか?)
僕は取り敢えず状況の整理を始めた。
そして、ふとある性質について考えた直後、僕の思考はある一点に集中する。
(待てよ...?
道が塞がる事で、不幸が発生する場所を変わるなら、それを逆に利用したらどうだ?)
そんな思いから僕は、事故発生場所を他に移動させ、使えるモノを増やしてみる事を思いく。
そうした所で事故の発生自体には何の影響もない。
しかし、それが周囲の環境や使えるモノは変わるかも知れないーーならば試す価値くらいはある。
僕はそう思い立つなり、即座に行動へと移った。
そして、石を道路へと、ばら蒔き続ける。
そうする事でこの場所で榊原さんが事故に遭う要素は断ち切れる筈......。
(ふう......これで良しと...。
取り敢えず、榊原さんが事故に遭う場所に確認しに行こう..。)
作業を終え一息つくと、僕は歩きながら現地への移動を開始した。
歩いて現地確認をしたのは、少し疲れていたからという事もあるが、じっくりと周囲を見渡して、使えそうな物を探しておきたかったからである。
そして、次なる事故発生ポイントの付近にある曲がりくねった木々の前を通り過ぎようとした直後、僕はあるモノが気になり足を止めた。
(おや......?
木々の側にこんな大きめの木材が放置されてるけど何でだ?)
木材と言っても店などで売られているような、均等に切り揃えられているものではない。
恐らくは、川に散らばっている木材の類いだろう。
多分、子供達が遊び半分で持ってきて、放置したのだろうが......。
だが、理由は何であれ僕にとっては好都合だった。
この木材の方が、看板や石よりは使い勝手が良いからである。
(取り敢えず使えそうだから、事故が発生するポイント付近に立て掛けておくか。)
僕は二つの木材を曲がりくねった木々の近くに立て掛け、改めて周辺を確認した。
そして周囲には新たに、不法投棄品であろう少し錆び付いた金属バットを発見する。
(誰だよ、不法投棄したのは?
でもこれも使えるかな?)
草むらに落ちていた金属バットを拾い僕は、更に何か落ちていないかを確認した。
しかし、そうそう使えそうな物が落ちている訳もない。
(まぁ、さっきよりはマシだな...。)
今回、使えるのは金属バットと二つの木材。
(でも、これらをどう使う?)
正直な所、僕は病気の関係もあってあまり勉強が出来る方ではない。
故に学校の成績は精々、中の下といった感じあり、決して頭脳労働が得意な方ではなかった。
祖父や祖母なら、もう少し状況を整理して色々な方法を考えられるのだろうけど......。
(僕の取り柄といえば精々、想像力と少しばかり豊かって事と、好奇心があるといった程度...。
それで何が出来る?)
周囲を確認しながら僕は、何度も何度も有効な手段を模索する。
そして、少し狭い間隔で立ち並ぶ木々を目にした僕は一旦、思案する事を止めた。
(ここは確か榊原さんが蹲っていた場所の少し先だよな。
つまり、榊原さんが事故に遭うのはこの場所を通り過ぎた後なのか?)
木々の隙間は幾つかあり、その隙間は人が一人漸く通れるような小さな空間がある。
(待てよ......?
この状況はもしかして利用出来るんじゃないのか?)
そして次の瞬間ーー。
考える事に不向きな僕の脳裏にあるアイディアが閃く。
それは偶然の閃きか、それとも必死さが呼び込んだある種の奇跡だったのかーー。
何であれ僕はある一つの方法を思い付く。
だが、その手段を実行するには一つ確認しなければならない事柄があった。
榊原さんが、この場所を通り過ぎるというのは、あくまでも榊原さんが蹲っていた場所から想定したもの。
つまり、榊原さんがこの場所を通り過ぎたという確認が必要不可欠だったのである。
確認するという事はまた榊原さんが事故に遭うのを傍観するという事だ......。
だが......。
(不本意だが仕方がない......。)
榊原さんの運命を変える為にーー。
僕は一時の感情を噛み殺し、榊原さんが事故に遭う地点へと向かう。
そしてその後、榊原さんが座り込んでいた地点でバイクに轢かれるのを目にし、僕は確信した。
ここで榊原さんが事故に遭うとーー。
(よし、これでこの方法を試せるな?)
その後、僕は確証を手にし再びタイムゲートでこの時間軸を訪れる。
この時間軸は前回の時間軸の事故発生の三時間前。
時間に余裕を持った状態でこちらを訪れたのは、なるべく疲れを残さない為だ。
そして僕は最初の時と同様、本来の事故発生地点の道路を石で塞ぎ、次の事故発生地点へと移動する。
拾う物は前回と同様、やや太めの木材二つと不法投棄された錆び付いた金属バットだ。
僕はそれらを早々に回収すると、即座に木材を木々に立て掛け、金属バットを手にする。
チャンスは恐らく一瞬ーー。
失敗したならば、また繰り返す事になるだろう。
だが、労働力や体力的なものを考えるならば恐らくは、一日に十度と繰り返せまい。
(頼むから一回で上手くいってくれよ......。)
祈るような思いで、僕は榊原さんが来るのを待った。
そして待つこと五十分程が経過した頃、ついに実行の瞬間が訪れる。
やや荒い呼吸音が響き、その呼吸音とともに榊原さんの姿が見え始めた。
だが、その一分後......榊原さんを追うかのように例のバイクが姿を現す。
(チャンスは一瞬。
しくじればまたやり直しか....。)
僕は榊原さんが木々の立ち並ぶ場所に近づくのを見計らい、彼の後方へと回り込んだ。
その直後......バイクが榊原さんを目掛けて急加速を始める。
(来たか!)
僕は走りながら、一気に榊原さんとの距離を詰めると、その側面へと回り込む。
「えっ....透くん?」
榊原さんは走ってきた僕を見て驚いたのか、走るペースを落とす。
(今だーー!!)
僕はその好機を逃すまいと、勢い良く榊原さんへと体当たりした。
そしてその直後、榊原さんの体はバランスを崩し、木々の隙間へと入り込む。
(よし、上手くいったぞ!)
これならば木々が邪魔をして、バイクが入り込むスペースはない。
だが僕は今までの経験上、これでは不十分だと感じていた。
もしかしたらバイクだけが隙間を通り抜け、榊原さんに起こる事故を、成し遂げてしまう可能性がある。
だから僕は次なる一手を実行に移す。
体当たりの勢いでその隙間に入り込んだ瞬間、僕は金属バットを木々の手前に引っ掛け、隙間の奥に転がり込むのを防ぐ。
それと同時、僕は木々の根元に立て掛けていた木材を道路側に向けて蹴り飛ばした。
次の瞬間、二つの木材が道路に転がり込みバイクの進行を妨げる。
しかし、その直後、バイクはまるで同じ磁力の反発により弾かれるように、此方とは反対方向へと急速に進路を変え、木材の襲撃を回避した。
そして、バイクは此方を特に気にも止めず
、そのまま走り去る。
(これで終わったのか....?)
僕は状況判断のつかぬまま、ただ呆然と走り去るバイクを見詰めていた。
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