リトライ【中編】

(本当にこんなんで、どうしたらいいんだよ、この状況?)


僕は取り敢えず、バイクの妨害に使えそうな看板を見ながら頭を悩ませる。


榊原さんとバイクが来るまで後、一時間と数十分程度。


失敗しても一応やり直しは可能だが、それでも何の糸口も掴めずに失敗を続けられる程、時間は有限ではない。


何より失敗し時間浪費すればするほど、過去に戻る時の身体的疲労は増加していくのだから、可能な限り無駄な行動はできなかった。


僕は取り敢えず看板を事故のポイントまで、運ぶ事にし、看板を手に取る。


(意外と重いな?)


僕は看板の想定外の重さに少し驚きながらも、看板を移動させた。


そして休み休み運んだ結果、二十分程で看板を事故ポイント付近へと運び終える。


(看板くらい大きければバイクの進行妨害に使える筈...。

問題はどう使うかだけど...。)


看板の使い道はそれとなく思い浮かぶ。


しかし、石に果たして使い道はあるのだろうか?


(問題はそこだよな?)


僕は悩むあまり、思わず溜め息をつく。


行動を実行に移すにも対応策は、穴だらけだった。


もし、時間をかけて石で道を塞いだとしても両親の時と同様、事故が別の場所で発生する状況に変わる可能性が高い。


そうなれば、その行為は徒労に終わるのは明白。


ただ無駄に時間を費やし、無駄に疲労を蓄積させるだけだ。


(それだけは何とか回避しないとな。)


しかし道を塞ぐのは無意味だと考えた直後、

ふとある事を思い出す。


何度か改変の為にバイクの邪魔したが、榊原さんとバイクが接触する場所は固定されていた。


だが、それは何故なんだろうか?


突然そんな疑問が脳裏を過り、僕はその奇妙な点について考える。


冷静に考えてみれば奇妙な事だった。


これだけ邪魔に入っているのだから、場所が変わる等の作用が働いてもおかしくはない筈なのに、そうはなっていないのだから。


しかし何故ーー?


そんな疑問と共に僕は、祖母の言葉を思い出した。


ーー「私が思うに不幸の事象はその人と引き合う磁力みたいな関係なんじゃないかしら?」ーー


祖母は運命の働きは、磁力のようなモノではないかと言っていた...。


(つまり...婆ちゃんの考えた通りなら、全ての縁は磁力のように引きあっているって事か?)


僕はふと、今までの状況について改めて考える。


被害者と加害者。


それが僕が、今まで考えていた【事故による不幸の訪れ】のメカニズムである。


僕は今まで、この二つが引き合う事で状況が確定すると考えていた。


しかし、もし被害者と加害者を結び付ける磁石のような引力要素が、他にもあるとしたらどうだろうか?


(......例えば、事故が発生する場所に加害者と被害者が引き合う引力的な何かがあるとか?)


そう考えた瞬間、今まで合点いかなかった何かが符号する。


それはまるで、欠けていたパズルのピースが嵌め込まれるようなーーそんな感覚だった。


そしてその直後、今までの状況の中に潜んでいた色々な状況が、少しずつ見え始める。


両親達の時は事故が起こる道路という場所から凍結という状況を除外したから、その場所から両親と加害者を引き付ける引力は失われーー。


しかしその後、場所が持ち合わせている引力が別の場所に移り、新たに引力を有するポイント生じる結果となった。


そして、それから導き出された答えは事故原因の消失イコール、両親達と加害者の事故ポイントと事故原因の移動である。


(そう考えれば、全て辻褄が合うな?)


もしこの推測が正しいとするなら事故発生ポイントで、事故が発生しないような変化をもたらすと、被害者と加害者の事故発生ポイントが何処かに移行するという事。


つまり、それらを繋げる一番の重要ポイントはその地点で被害者と加害者を繋げる事故が発生するという強烈な接点だ。


だが、その推測が正しいかどうかは、確かめてみなければ断定は出来ない。


(先ずは確かめてみるしかなさそうだな?)


僕は一旦、思案する事を止め茂みの方から石を集めると道路に向けて石をばら蒔いた。


(このぐらいで大丈夫かな?)


榊原さんが走ってくる方の車線に、くるぶし程度の高さで石をばら蒔き終えた僕は、榊原さんとバイクの到着をじっと待ち続けた。


僕の推測が正しければ、変化するのは事故が起こる時間ではなく、事故に遭うポイントそのもの。


ならば恐らく、榊原さんがここに来る前に事故に遭う筈なのだ。


(本来なら後、五分程にこの地点に榊原さんが来る筈だけど、バイクは榊原さんの到着を見計らうようにここに強制力が働く筈。

でもらもし本来バイクが通るべき道が塞がっていたら、どうなる?)


僕は固唾を呑みながら、榊原さんの到着を待った。


僕の予想が正しければ榊原さんは、規定の時間にここには来ない。


何故なら、ここに来る前に榊原さんは事故に遭いバイクだけがここを通る筈だからだ。


刻々と経過する時間....。


たかだか五分程度の時間が、妙に長く感じられる。


(まだか....まだなのか?)


僕は腕輪に表示された時間を、何度も確認した。


そして漸く、そんな何時間にも匹敵する五分が漸く過ぎ去る。


僕が周囲を確認すると予想通り、榊原さんの姿は何処にも見当たらなかった。


(やっぱり予想通りだったってことなのか?)


僕は榊原さんが来ない事を確認し終え、状況を把握するべく榊原さんが走ってくる方向の改めて確認する。


そして、その直後...バイクが僕の横を通り過ぎた。

 

しかしーー。


(えっ......!?

このバイクで間違いないよな?)


僕は事故の時との運転状況のギャップに驚き、呆然とバイクが過ぎ去るのを呆然と見詰める。


あまりにも意外だった。


バイクは榊原さんの足を轢いた時とは真逆で、制限速度に近い速度で僕の横を通り過ぎて行ったからだ。


それはまるで、この通りに障害物があるのを見越したかのような運転ーー。


(これだとまるで、榊原さんを怪我をさせる為だけに、無謀運転をしていたかのような感じだな?)


状況に関する真偽は定かではないが、何であれ後一つ確認するべき事柄がある。


それは榊原さんが何処で、事故に遭っているかーーその確認だった。


(予想通りバイクは来たけど、榊原さんは何処で事故に遭ったんだ?)


僕は榊原さんが走ってくるであろう道を逆走し、事の真偽を確認に向かう。


しかし結構、歩いてみたものの榊原さんの姿は未だに見えてこない。


(榊原さん、一体何処に?)


バイクとスレ違った地点より既に、五百メートルくらい離れた場所まで歩いてきたが、榊原さんの姿は未だに見当たらない。


(まさか、事故が起こる時間軸自体が変わったって訳じゃないよな?)


一瞬、そんな不安が僕の心の内に過る。


しかし、そんな事など本当に有り得るのだろうか?

 

僕はそんな不安を抱えたまま最初の地点より一キロ程の距離を歩き続けた。


そして、その直後......足を抱え込んだまま座り込む人影を発見する。


(あれは....榊原さんか?)


僕は榊原さんかどうかを確認する為、その場所に向けて走り出す。


そしてーー。


そこに座り込む榊原さんの姿を確認し、僕は確信に至ったのである。


自分の考えは間違っていなかったという確定にーー。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る