助言【前編】
まだ祖母が生きている年代に行き祖母に会う事ーー。
それは普通に考えたら不可能な所業だった。
だが、今の僕にはタイムゲートがある。
そう......それ故に本来、不可能な筈の行いが可能な状況にあるのだ。
僕は悩みに悩んだ末、向かうべき時間軸を今より二週間前の時間へと設定する。
その時間軸を選択したのには当然、それなりの理由があった。
その時間軸を選択した理由、それはタイムゲートが存在しない時間軸では、祖母がタイムゲートを使用した経験が無い為、明確なアドバイスが得られないからである。
そして理由はもう一つ。
この時間軸は、祖母がまだ体調を崩す以前の時間軸だったからである。
祖母が生きていた時の状況から考えて、祖母はこの時点ではまだ、祖父が生きていた時間軸には行っていない筈。
その考えが正しければ、この時間軸こそ祖母に会う絶好のタイミングだと言えた。
僕は移動する地点を研究室入り口に設定し、タイムゲートを起動させる。
そして、タイムゲートを潜ると、そこには見慣れた研究室の扉が存在していた。
(この先に婆ちゃんが居る......。)
僕は緊張しながら、ゆっくりとその扉を開けた。
(アドバイスを聞く為に、タイムゲートで過去に来てみたものの、話しをどう切り出したらいいんだ?)
一瞬、躊躇いつつも僕は、踏ん切りをつけ研究室への扉を開ける。
幾らタイムゲートが完成しているとはいえ、未来から来た事を説明をするのは中々の難題だった。
もし自分が説明を受ける立場ならば良くて半信半疑、悪くすれば信じないだろう。
だが、他に手段が無い以上やるしかない。
(失敗したら、どう話すかを改めて考えないといけないな......?)
扉を開けると、そこには作業に集中する祖母が居た。
僕は勇気を振り絞って、祖母に向けて声をかける。
「婆ちゃん、あの....少し話し聞いてもらっても良いかな?」
「えっ、あれ!
透ちゃん、何でここに...?
確か学校に行ってた筈じゃ.....。」
祖母は驚きの表情を浮かべながら、僕の方を見詰めた。
(あー、やっぱり。
普通そういう反応になるよな?)
祖母は恐らく、僕が学校を早退したのだと思ったのだろう。
それ以外に、この時間軸で僕がここに居る理由は無いから、そう思うのも当然の事だ。
(うーん、しかしどう話したものかな??)
僕は悩みながらも何とか現状を伝える為に、取り敢えず口を開く。
「あの....実は....。」
しかし、僕がそう口を開いた直後、祖母が僕の言葉を遮るように言う。
「貴方、もしかして未来から来た透ちゃんかしら?」
「えっ......!?
あ、うん。」
予想外の祖母の言葉に驚きながらも僕は、祖母の言葉に静かに頷いた。
「あぁ、やっぱりそうなのね?
未来の透ちゃんが今ここに居るって事は、未来の私は衰弱して......いや、違うわね。
多分もう死んでいるって事で良いかしらね?」
「うん......。
だから僕は婆ちゃんに会いに来たんだ。」
僕は祖母にそう答えを返す。
「そう......悲しい想いをさせてしまったわね......。」
祖母は僕にすまなそうな表情で告げる。
そして、そんな祖母の一言を聞いた瞬間、僕の蓄積していた想いが一気に吹き出す。
「あ......会いたかったよ、婆ちゃんーー。」
僕は溢れ出る涙と、込み上げてくる思いを止められぬまま祖母をギュッと抱き締める。
「ごめんなさい......透ちゃんには、寂しい思いをさせてしまたったわね......。」
祖母はそう言いながら、僕の頭を優しく撫でた。
何分くらい、そんな時間が続いただろうか?
漸く心を落ち着かせた僕は、祖母に向けて口を開く。
「所で婆ちゃん、何で僕が未来から来たって分かったの?」
「あぁ...それはね、透ちゃんが身に付けている腕輪を見たからよ?
それはタイムゲートを使用する為の腕輪だから、もしかしてと思ったの。
そもそも、こんな素敵なデザインの腕輪なんてこの世に一つしかないしね?」
「うん、そうだね....。」
僕は冬を象徴する雪と、春を象徴する桜のデザインが施された腕輪を見ながら、思わず微笑む。
冬が終わり春が訪れるーー。
僕が微笑んだのは、腕輪のデザインが祖母らしくて、何かホッとしたからだ。
僕が微笑むのを見て、祖母もまた微笑む。
そして、微笑みながら祖母は僕へと問い掛ける。
「所で透ちゃん、ここに来たのは私に会いにくる為に来たんじゃないんでしょ?」
「うん、実はーー。」
僕は祖母に今までの経緯を順を追って説明した。
タイムゲートで最初に祖母が最後に行った過去に行った事。
両親や弟達の運命を変えようとして、失敗した事。
運命改変に行き詰まり、検証を始めた事。
その検証でクロが寿命を迎えた事。
榊原さんで検証を始めた事。
そして検証を始めたものの今、僕が自分の心の壁にぶつかっている事ーー。
それら全てを祖母に打ち明けた途端、僕は悩みを打ち明けられた安堵感故なのか、気が付けば涙を流していた。
「あれっ....?
何で僕......泣いてるんだろう......?」
泣くつもりなど毛頭ない......だが、幾ら右手の袖口で涙を拭き取っても、涙は際限なく流れ落ちる。
僕はこの状況に驚きながら、何とか涙を止めようと右袖口で涙を拭い続けた。
「透ちゃん、一人で良く頑張ったわね...。
泣きたい時は泣いた方が良いんだよ。」
祖母は涙を拭い続ける僕に向けて、優しい口調でそう告げる。
それより......数分が経過しただろうか?
僕の心は漸く、落ち着きを取り戻し涙が自然に止まる。
「落ち着いたかい、透ちゃん?」
「うん....何時もありがとう、婆ちゃん。」
「気にする事ないよ、透ちゃんは私の大切な家族なんだから。」
祖母は少し照れくさそうに微笑みながら、僕に向けて言った。
「うん、ありがとう。
僕、お婆ちゃんには何時も支えてもらってばかりで、ごめんね......。
でも本当にどうしたら良いのか分からないんだ....。
どうやって、この恐怖心を乗り越えたらいいんだろう?」
僕はそう祖母に告げると同時に、再び沈み込む。
しかし、そんな僕に祖母は微笑みながら言った。
「透ちゃん、気負いすぎよ。
その人に訪れる不幸は、透ちゃんの責任じゃないんだし。」
「うん、それは、分かってるんだけど....。」
僕は言葉を詰まらせた。
しかし、祖母はそんな僕に見て、再び僕に向けて告げる。
「上手くいかないのが当たり前なのよ。
でもね、そう割り切って色々と試していくと分かってくる事も多いのよ?」
「分かってくる事?」
「ええ、分かってくる事よ...。
透ちゃん、遠山さんの息子さんは知ってるわよね?」
「えっ?
うん....知っているけれど、それが?」
祖母が、想定外の話題を振ってきたので僕は少し戸惑いながら、そう答える。
遠山さんとは同じ町内に住む、お爺さんの事で息子さんと二人暮らしであった。
遠山さんの息子さんは元々、土木関係の仕事をしていたのだが、その時の事故で左手に障害を負ってしまったのである。
しかし、僕にはその息子さんと祖母の話しがどう繋がるのか正直、理解出来なかった。
僕が首を傾げるのを見て、微笑みながら祖母は核心部分について話し始める。
「もし、遠山さんの息子の左手が本当は切断されてしまうような重症を負う筈だったって言ったら、透ちゃん信じるかしら?」
「えっ....?
それってどういう事....?」
僕は混乱する頭で、祖母の言葉の意味を考えた。
そして、考えた結果、出てきた答えは祖母がタイムゲートで、遠山さんの息子さんの運命を変えたという可能性ーー。
「あの...もしかして、婆ちゃんが遠山さんの息子さんの運命を変えたって事....!?」
「ええ、そうよ。
遠山さんの息子さんに左手が残っている事を考えれば、少しは運命を変えれたって事なんでしょうね?」
祖母は少し悲しさを含む表情で、僕にそう告げた。
「でも、どうやって?
この事は婆ちゃんの残してくれた手紙にも書いてなかったよ?」
「そうなの....。
なら、私はこの検証を確信ある形で終わらす事が出来なかったって事かも知れないわね?」
祖母は一人納得しつつ僕に向けて、再び言葉を続ける。
「何にしても、遠山さんの息子さんの運命改変の事を、これから教えるわね。」
そして......祖母は、そう改まった口調で僕に、遠山さんの息子さんの事を話し始めたーー。
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