心傷
「ねぇ、婆ちゃん....僕はどうしたらいいのかな?」
僕は亡くなった祖母の写真に向けての問い掛けた。
当然、答えなど返ってくる筈もなく......僕は、問い掛けた後の寂しさと静けさに耐えきれず、沈み込む。
僕はその寂しさと静けさの中で、祖母がもう居ない事を改めて実感する....。
(まさか、こんな形で足止めを食らうなんて考えてもみなかったな....。)
それは想定外にして、予想外の壁だった。
幸せや成功のイメージを想像出来ない事がまさか障害となるとは、考えもしなかった現実。
だが、それは一長一短でどうにかできるものではない。
何故ならそれは......僕の人生の中に幾度も訪れた不幸によって構築されたものだからである。
つまり、理屈や知識でしか幸せや成功というものをぼんやりとした形でしか理解出来なかったのだ。
(分からない......。
一体、どうやって乗り越えたら良いんだ?)
行き詰まった僕は、取り敢えず居間に向かう。
そして、気持ちを紛らわす為にテレビをつけた。
テレビではSFものの映画が配信されており、僕は咲子叔母さんの作ってくれていた食事を食べながら映画を見る。
映画は街を情報ネットワークを支配し乗っ取ろうとしていた悪党を、主人公が倒しヒロインを助け出すというSFアクションもの。
最後はハッピーエンドで終わりを迎えるものの僕には、その結末を見ても幸せや成功といったものを想像する事が出来なかった。
(くそっ、こんなのどうしたらいいんだよ!?)
そして次の瞬間、苦しさと悔しさが怒りへと変わる。
僕は感情を制御できなくなり、拳をテーブルに叩き付けた。
しかしその直後、激しい痛みが右拳を駆け抜け思わず悲鳴を上げる。
テーブルに八つ当たりをした所で問題解決に繋がる事もなければ、心の靄が晴れる訳でもない。
分かっていた......分かっていたが、抑えられない感情が僕の中を渦巻く。
(もう、テーブルを叩くのは止めよう....。)
テーブルを叩いた所で、ただ拳を痛めるだけ......。
僕は何とか心を落ち着けようと努めつつ、何とかトラウマを乗り越える方法を模索する。
そして、取り敢えず思い付いた方法はイメージトレーニングだった。
僕がこの方法を思い出し、試してみようと考えたのには、それなりの理由がある。
その理由とは昔、図書館で何となく読んだ本......。
【成功の哲学】とやらに書いていたある一文である。
ーー成功する者は失敗を恐れない。
何故なら成功する者の大半が常に失敗ではなく、成功するイメージを持って行動しているからであるーー
本には、そんな事が書かれていたのだが、内容を端的に言うと常に良いイメージを持って生きているから失敗しても、挫ける事ない。
そして、前向きで愚直に挑めるからこそ、最後は成功に至るといった話である....。
更に簡単に言葉にするなら、それはプラス思考で諦めない限り、最後は上手く行くって事だろうが......。
あと何かの本で読んだ事があるのだが、イメージトレーニングによって、マイナス思考は払拭できるらしい。
(そうだ......駄目元でも、やってみるしかないか。)
僕は何とか気持ちを切り替え、その方法を試してみる事にした。
それは一種の自己催眠。
何事も上手くいく、成功すると言葉にしながら、良い想像力を構築していくトレーニング法である。
「成功する、上手く。
絶対に大丈夫だ!」
僕は何かの呪文のように、前向きな言葉を呟きながら、上手くいくイメージを構築するトレーニングを開始した。
正直な話し成功や失敗は、個々の運命として構築されているものなので、プラス思考マイナスは関係ない。
だが、トラウマを克服し前に進む為には、このトレーニングは必要不可欠だった。
何故なら僕の心は少し気を抜けば、容易く死を求めてしまうような状態にある。
今、目的とタイムゲートにより運命を変えれるかも知れない。
そんな僅かな希望があるからこそ、何とか死の衝動を抑え込めていた。
それを外的な傷として表すなら、重体といった状態に他なるまい。
だからこそ、強固なるプラス思考を得ることは必要不可欠だったのだ。
(まずは、榊原さんを救うイメージから始めよう。)
僕は榊原さんを救う事に成功するイメージトレーニングから開始した。
バイクで榊原さんを轢いた加害者の身元を調べ探す事をイメージする。
だが、加害者を探そうとしても途中で何故か、加害者の所在が分からなくなり頓挫する。
そんなイメージが何度も何度も頭の中を駆け巡る。
(くそっ....上手くいかない!
何でだよ、たかがイメージなのに何で上手くいかないんだよ!?)
「上手くいく、大丈夫だ。
次は絶対に上手くいく!」
僕は諦めずにイメージトレーニングを続けた。
しかし何度試しても、結果は同じ。
ただただ失敗するイメージだけが、頭の中を駆け巡る。
(駄目だ......。
もう、これ以上は耐えられない。
もう限界だ......。)
僕は苦しさと悔しさのあまり、泣きながら床にうずくまった。
一人で考え、一人で苦しみ......一人で運命改変に挑む。
もう限界だった....。
だが、こんな事を相談できる相手など居る訳もなく......僕は、ただ苦痛に喘ぐのみ。
希望など、見える筈もなかった。
(せめて、婆ちゃんが生きていたら......。)
祖母はよく僕にアドバイスをしてくれた。
苦しい時に僕を支えてくれた祖母ーー。
そこの状況にあっても祖母が生きていてくれたならば、きっと僕が進むべき道を示してくれただろう。
(僕はどうしたら良いんだろうね、婆ちゃん?)
僕は頭を抱え込みながら、必死に悩み続けた。
逃げれるものなら逃げ出したいとの思いと、自分が何とかしなければいけないとの思いが、僕の中でぶつかり合う。
(もう、無理だ......。
所詮、僕には何も出来ないんだ....。)
一瞬、心の中の葛藤に耐えきれなくなり僕は全てを投げ出しそうになるが、何とかそれを抑え込み踏み留まる。
しかし、その直後......ふとある閃きが舞い降りた。
(あれ....待てよ??
今、婆ちゃんが居ないのなら居る時間軸に会いに行けば良いだけなんじゃないのか?)
タイムゲートがあるからこその大胆な閃き。
しかしそれは僕にとって、絶望という闇の中に射し込む、希望という名の僅かな光となった。
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