改変への一歩

ーー榊原さんの運命を必ず変えてみせる!ーー


そんな強い想いを胸に僕はタイムゲートへと赴く。


大滝さんから聞いた話だけでは明確な時間や状況、場所などまで特定する事は出来なかった。


しかし、それでもある程度の状況は把握できた事には間違いない。


どちらにせよ一旦過去に行き、状況の確認する必要性がある。


僕は取り敢えず二ヶ月と十五日前の午後五時に設定し、タイムゲートを起動させた。


(榊原さん、まだ来てないみたいだな?)


タイムゲートをくぐり公園近くの川沿いに移動した僕は、周囲を見渡し榊原さんがまだ来てない事を確認する。


榊原さんは何時も午後五時十分くらいから、午後五時半くらいに、この辺を走っていた。


ただ稀に仕事の残業とかで、午後六時半を過ぎる場合もある。


もし、何時も通りなら榊原さんはもう直ぐ、この辺を走ってくる筈なのだが....。


僕は榊原さんが何時も走ってくる方向を、見据えながら榊原さんが来るのを待ち続けた。


しかし、午後五時三十分を過ぎても、榊原さんの姿は一向に確認できない。


(今日もしかして、残業かな?

それとも、いや....まさかなーー。)


僕は心の内に生じた不安をどうにか振り払い、榊原さんが来る事を信じひたすらに待ち続けた。


当然、榊原さん事故に遭った明確な日が分からない以上、榊原さんが来る保証はない。

 

しかしーー。


(どうする....このまま待ち続けるか、それともーー。)


時間が経過する度に、増大していく不安。


僕はその重さに堪えかね、心に中で幾度も幾度も自問自答を繰り返す。


もしかしたら、ここは榊原さんがもう事故に遭った後の時間軸かも知れないーー。


そんな迷いが僕の頭の片隅を、幾度となく過る。


だが、そんな迷いに心を揺り動かされながら僕は、何とか一時間という時間を耐えきった頃、漸く榊原さんの姿が見え始めた。


(良かった....。

まだ、事故に遭う前の時間軸だ。)


僕は胸を撫で下ろしつつ、現在の時間軸へと帰還する。


(やっぱりクロの時の時間軸よりは、少し疲れるな?)


僕は百メートルを全力疾走したような疲労感を引き摺りながら、転送先を一日先へと設定し直す。


(何回繰り返せば事故の運命に辿り着くんだろう?)


可能なら早めに事故の運命に辿り着きたい。


そうすれば早急に運命を変える対策を考える時間的余裕が出来るからだ。


そうなれば、今の全てに絶望した榊原さんではなく、僕のよく知る明るくて何時も前向きに頑張っている榊原さんに戻せる。


(考えても仕方がない。

とにかく探すしかないんだ!)


決意を固め僕は、再びタイムゲートをくぐった。


現在は午後五時丁度。


前回同様、僕は再び榊原さんが来るのを待つ。


そして、待つこと約二十分後、漸く榊原さんの姿が見え始める。


周囲には特に人気が無く、僕と榊原さんの姿だけが在るのみ。


(今回も空振りかな?)


僕はそんな事を思いつつ、榊原さんが近づいて来るのを待った。


事故に遭遇した現場が何処なのかは分からないが、ここまで来ればアパートに帰宅するだけの筈である。


(この日も事故に遭遇した日で無いのかな?)


榊原さんのアパートまで、一キロ未満の距離しかない事を考えると、何かが起こる可能性は低いかも知れないーー。


僕の脳裏にそんな事が思いが過る。


しかしーー。


(あれ、何か変だな?)


それは僕の居る地点まで後、百メートルも無い地点に榊原さんが来た直後だった。


轟音が鳴り響き、榊原さんの後方よりバイクが一台現れる。


そして、バイクが急加速を始めた。


しかし、それは明らかなる暴走運転。


何時、事故を起こしてもおかしくないような無謀運転だ。


黒ヘルメットのライダーは、ジグザグ走行繰り返しながら榊原さんとの距離を一気に詰め始める。


そして約一分後、そのライダーは無謀運転を継続しながら、榊原さんの右横スレスレを通り抜けようとした。


だが、ライダーが榊原さんの右横を通り抜けようとした刹那、バイクの前輪が榊原さんの右足先を避けきれず一気に踏み抜く。


それと同時だった。


榊原さんはバランスを崩して転倒。


バイクの方は一瞬バランスを崩しかけたものの何とか持ち直し、榊原さんより少し前方に危なげなくブレーキをかける。


「あー、糞面倒くせぇなぁ....。

あんなの避けろよな、トロくせぇ。」


バイクを降りて早々、加害者のライダーは足を押さえ、痛みでうずくまる榊原さんを見下ろしながら吐き捨てるように呟く。


そして、痛みで身動きの取れない榊原さんの衣服の胸ポケットに、名刺を入れながら加害者の男は言った。


「慰謝料の請求は、そこにしてくれよな?

あー、後あんたトロすぎ。

もう少し運動神経を磨いた方がいいよ?

じゃーなぁー。」


男は救急車を呼ぶでもなく、ただ名刺一枚を榊原さんに渡し、バイクでその場を走り去る。


(ふざけんなよアイツ!

何様のつもりだよ!?)


僕は即座に近くの公衆電話から、救急車を呼び榊原さんの元へと駆け寄った。


時間軸の影響で僕のスマホは使えない。


榊原さんの携帯もは経済的な関係で所持していない為、公衆電話以外に連絡手段がなかったのである。


そして、僕が救急車を呼んだ理由は、この状況が見るに堪えないものだったからだ。


しかし、理由はもう一つある。


もし治療するのが少しでも早ければ榊原さんが、走れなくなる事は無いのではないだろうかーー?


そんな可能性を考えてしまったからだ。


もしそれで運命を変えられるなら、それが最善である。


しかし、もし同じ結果ならば......全く意味がない行為と言えるだろう。


何にしても見極める必要性があるのだ。


(これが上手くいけば一番良いんだけど......。)


その数分後、救急車が現場に到着する。


僕は榊原さんが運ばれていくのを少し離れた場所からその様子を確認し終えると、元の時間軸へと帰還した。



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