回想。

両親が健在だった頃、僕の家にはコロンという犬が居た。


コロンは比較的大人しい性格だったが、寂しがりやで甘えん坊だった。


家族が帰ってくるとコロンは、尻尾を振りながら抱きついてくる。


コロンは僕にとって....いや、間違いなく両親や弟にとっても、掛け替えの無い家族だった。


一緒に散歩に行ったり、お風呂に入ったり....。


家族皆で遠くに出かけて、僕と弟の優はコロンと良く遊んだものである。


それにコロンは冬になると寒がって良く、布団の中に潜り込んできた。


きっと何時までも、こんな時間が続くーー。


僕はそう思っていた。


別れが訪れる事など考える事もなく、コロンと共に居る時間を当たり前のように過ごしてきたのである。


でも、そんな日常は決して永遠のものではない。


当然、コロンとの別れの日は訪れた......ある日、突然にーー。


別れの日は七年前、僕が小学校から帰宅した時に突然に訪れた。


「コロン....どうしたの?」


コロンは玄関先で横になったまま、帰ってきた僕に向けて尻尾を振る。


僕は訳が分からぬまま、ただコロンを抱きしめた。


「くぅーん....。」


コロンは弱々しい鳴き声を上げ......眠るように動かなくなる。


何度も何度もコロンの名前を呼び続けたが、コロンはもう二度と動かなかった。


「コロンは寿命だったんだ。

仕方がなかったんだよ。」


もう......あの愛らしいコロンの声を聞く事も出来ない。


コロンと遊ぶ事も、もう二度と出来ないのだ...。


僕は父にそう告げられられ、漸くコロンが死んだ事を理解する。


そんな悲しい思い出で。


そんなコロンの最後とコロンの最後が、ダブって見えた。


悲しい別れの記憶....。


本来、猫は人に死に様を見せないものである。


だが、クロはその死に様を見せる事など厭わずに祖母の元へと訪れた。


きっと、クロにとって祖母は、そんな特別な存在だったのだろう。


(クロは、婆ちゃんのところに行けたのかな?)


僕はクロの遺体を埋葬しながら、ふとそんな事を考える。


いや、そう願わずにはいられなかった。


大切な人と共に居られないのは、とても悲しい事だからーー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る