検証

(修正力か....考えても仕方がない。

やれる事は全てやってみよう!)


一晩休み心を落ち着かせた僕は、修正力について検証してみる事にした。


そう思い直せた切っ掛けは、祖母の口癖を思い出した事である。


「科学者には確かめた事だけが真実なの。

思い込みや先入観に囚われていたら、実現可能な事も不可能になっちゃうものね?」


祖母は良く、そう言っていた。


そして、祖母にはもう一つ口癖がある。


「期待は己を殺す毒となる。」ーーそんな口癖だ。


祖母によると、研究に取り組んでいる時に上手く行くのでは?との期待感を持って行うと、その研究が上手くいかなかった時に心に大きな失望感が生じる。


それを幾度となく繰り返し続けると、それはやがて失敗する事の恐怖心へと変わり、そしてそんな現状を積み重ねる内に、それはやがて心を埋め尽くす絶望へと変わるのだという。


それは科学者として、そういった絶望感に蝕まれ、志を捨てた者達を数多く見てきたからこその祖母なりの真理だった。


絶望に蝕まれた者はやがて、生きる意味を見失い心が死ぬのである。


そして、身を持って僕は、そうなった時の怖さを知っていた。


生きるという中に、孤独と苦しみしかなく、生きる理由が一つも見当たらない。


死ねば今よりも楽になれるのだろうか?


そこには希望はなく、ただ生きる事への諦めと生きる意味への失望感。


生き続けている間、果てしなく続く絶望だけが人生となる。


救われる事を願いつつも、救いが訪れない事は心の何処かで理解している......だから心は絶望しかない。


だが、それを知るからこそ......。


僅かな希望の光を見出だせたならば、諦める訳にはいかないのだ。


故にそれは祖母の単なる口癖ではなく、人生においても軽視できない事柄なのだろう。


簡単には諦めない。


しかし、そうは言っても難問だらけで正直、手詰まりなのも事実だ。


(それにしてもどうしようかな。

この何ともし難い状況を?)


僕は入れたばかりの紅茶を口に含みながら、頭を悩ませる。


使用に関しては厄介な制約があり、タイムゲートの使用は、フィクション上のタイムマシンのように簡単にはいかない。


家族の運命を変えようと過去に戻るにしても、体の疲労度から考えたら良くて一日二回が限度だろう。


ならば闇雲に過去に戻って何かを試す事は出来ない。


ならどうするーー?


そんな悩みが、頭の中でグルグルと駆け巡る。


(気晴らしに取り敢えず、気晴らしにテレビでも見るか....。)


この何ともし難い状況に耐えられなくなり、僕は気晴らしにテレビを見る事にした。


しかしテレビをつけて早々、目にしたのは科学関係の放送。


しかも医療の新薬に関する実験に関する内容だった。


(あー・・・・科学から一旦、離れたかったのに最初に見たテレビ番組がこれとか何かの嫌がらせか、これは......?)


僕はうんざりしつつ、別の番組に変えようとリモコンのスイッチに手を伸ばす。


だが、その直後、モルモットが新薬の投与実験を行っている映像が目に止まり、僕は何となくチャンネルを変えるのを止めた。


(モルモットって気の毒だよな....。

こういった実験の犠牲になる為に、生きてるなんてな......?)


僕はモルモットに同情した。


ただ実験台になる為に生きているーー。


それは不幸そのものだ。


しかし、そんな時、不意にあるアイディアが僕の脳裏に飛来する。


(あれ、待てよ?

別に検証だけなら、最初から実戦と併用しなくても良いんじゃないのか?)


僕は両親が死んだ過去ばかりを考え、視野が狭くなっていた事に不意に気付く。


そして、それに気付かせてくれたのは、皮肉にもモルモットの投薬実験の映像だった。


そう、検証する方法は新薬実験と同様で別の対象でも行える。


新薬の新薬実験と同じだ。


いきなり人に投与して、その結果を確認するよりもモルモットに投与した方がリスクが無い。


つまりそれは、因果律の検証でも同じことが出来るという事だ。


しかし、問題はーー。


(対象はどうする?)


何せ状況が状況だ。


何でも良いという訳にはいかない。


(一体、誰を対象にしたら良いんだ?)


僕は次なる課題に再び頭を悩ませた。


そして、頭を悩ませた末、祖母が生きていた先週まで餌を貰いにきていた野良猫を思い出す。


野良猫の名前はクロ。


その黒い毛並みの色からつけられた愛称だ。


そして、僕がクロで検証していこうと思ったのには、それなりの訳がある。


一つは過去一週間以内という体にあまり負担がかからない状況である事。


それとクロは家に良く餌を貰いにきていた。


つまり、体に負担が少ない上に、クロは探さなくても来てくれる。


検証に必要な条件が漸く揃った。


しかし、この時の僕は知るよしもなかった。


この始まりこそが、これより続く苦難と挫折に繋がる過酷なる道程。


その最初の一歩になる事を....。


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