タイムゲート
(なるほどな....婆ちゃんが最近、急に体調を崩した理由はこれだったのか。)
僕は祖母が残してくれたタイムゲートの説明書を読み、最近の祖母の身に生じた異変の理由に思わず納得する。
奇妙な事だが、耳にするのが悲報ばかりの状況でありながら、僕の心は意外と平静を保っていた。
タイムゲートーー。
即ち、この部屋の奥に設置されている扉の事なのだが、この機器の機能を使用するには注意する点が幾つか存在していた。
一つはタイムゲート使用した後、過去に居られる滞在時間が存在するという事。
タイムゲートは遡る時間が過去であればある程、滞在可能な時間は少なくなる傾向にあるのだ。
そして、気をつけてなければならない点はもう一つ。
過去に遡る時間に応じて、タイムゲートの使用者の体への負担は、大きくなるという事。
つまり、タイムゲートの使用者は体力的な負担という代価を支払い、過去に滞在できるという事なのである。
滞在時間については明確に示されてはいないが、祖母の手紙よると三年程度遡った場合は、大体二十時間程度は滞在できるらしい。
(過去に行けるのはいいけど、やたらと制限が多いな?)
僕は使い方に難のあるタイムマシンの性質に、頭を悩ませつつどう使うかを考える。
自然の摂理に反する行為の代償....。
それが滞在時間と体力の消耗。
だが、一日すら滞在出来ぬ現状で一体、何が出来るというのだろうか?
それは使用者に立ちはだかる大きな課題だった。
一日未満の時間で出来る事はたかが知れている。
もし両親と弟の状況を変える為に時を遡ったとしたら一体どれ程の間、滞在できるのだろうか?
(取り敢えず、やれる事からやってみるしかないな....。)
結局は全てが手探り。
闇の中で手をついて、地面を確かめながら移動するような状況だった。
(先ずは試してみるしかないか....。)
僕は取り敢えずタイムゲートに、設定されている時間を確認した。
設定されていた逆行時間は今から約六年前の時間軸。
つまり祖父が亡くなる一年程前の時間軸である。
だが、その設定を確認し僕の脳裏に一つの疑問が生まれた。
その疑問とは、何の為に祖父が死ぬ一年前に行く必要性があったのかという事である。
祖父が死んだ原因は、実験に没頭し過ぎた故の過労死なのだが、もし祖父を救うつもりだったならば、亡くなる一年前に行く必要性は無い筈なのだ。
しかし事実、その時間軸への設定がなされている。
祖母は何故、六年も前の過去へと遡ったのだろうか?
理由は分からない......しかし。
(確かめよう。
婆ちゃんが六年前に向かった理由を...。)
少し悩んだものの、僕は確かめるべきだと思い直す。
そう......時間の浪費になるとしても、確かめない訳にはいかない。
何故なら、その過去は祖母が命懸けで向かった祖母の最後の想いが込められた過去だからだ。
だから確かめねばならなかったのである。
絶対にーー。
「説明書によると、これが起動スイッチみたいだな?」
僕は転移年数や時間を操作せず、青く菱形の起動スイッチを押した。
その直後、壁にしか見えなかった空洞のゲートに、青い光が宿る。
「これが、タイムスクリーンか....?
この青い光に触れれば、時間を遡る事ができるらしいけど・・・・。」
僕はタイムゲートの発する光を呆然と見詰めた。
本当に過去に行けるのだろうか?
ふと、そんな迷いが頭を過る。
(いや、迷う意味なんてない!
選択肢なんて最初からないんだ!)
僕は恐怖心を噛み殺し、意を決してタイムスクリーンへと勢い良く飛び込む。
そして、その刹那......世界は真っ白に塗り潰されていったーー。
まるで全ての光景が最初から白一色であったかのように......。
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