形見
(婆ちゃんは、地下で一体何の研究をしてたんだろう....。
確か爺ちゃんと一緒に行っていた研究だった筈だけど?)
僕は祖父と祖母が研究室である地下へと足を踏み入れた。
ここを訪れなくなったのは何時からだっただろうか....?
爺ちゃんが死んだ後からだったか、それとも両親や弟の優が死んでからだったろうか?
何であれ、ここ数年は研究室に足を踏み入れていない事だけは確かだろう。
正直、今も研究室に足を踏み入れるのには抵抗がある。
何故なら、ここには懐かしい思い出と悲しみが詰まっていたからだ。
研究室は祖父や祖母が僕に対して、楽しそうに自分達の研究の事を語ってくれた場所であり、そして......祖父が亡くなった場所。
だから僕は敬遠していた。
ここには思い出の分だけ、悲しみが残されていたからである。
しかし、僕は祖母の遺言書に残された祖母の言葉に導かれ、僕は再び研究室へと再び足を踏み入れる事となった。
その言葉とはーー透ちゃんの為に地下研究室に私達の形見を残しました。
貴方に幸有らんことを切に願います。
加奈枝ーーとの言葉である。
その祖母の言葉が、僕の背中を押した。
僕は祖母の言葉の意味を確かめたいとの思いに駆られながら、地下研究室への階段を一気に駆け降りる。
そして僕は、懐かしき研究室の光景を目の当たりにした。
「あの時と変わらないな、ここは....。」
研究室は祖父が生きていた頃と殆ど変わってはいない。
強いて以前と異なるものがあるとすれば、ドアの無い扉のようなゲートが壁際に設置してあるくらいのものだろう。
しっかりと手入れが行き届いており、まるで祖父が生きていた時と変わらな光景。
祖母がどれだけ、この研究室を大切にしてきたのかが、その整備状況や掃除の行き届いた室内を見てハッキリと分かった。
(爺ちゃん、婆ちゃん....。)
二人が生きていた時の懐かしい思い出が過り、気がつけば僕の頬を伝い涙が溢れ落ちる。
懐かしさ、そして祖父と祖母が居なくなった悲しさ。
二人と過ごした温かい思い出。
この空間には祖父と祖母の名残が残されていた。
しかしーー。
(そう....だったな。
ここには婆ちゃんの遺品を取りにきたんだった。)
僕は今為すべき事を思い出し、悲しみを振り払いながら周囲を確認した。
どれが祖母の残した遺品なのかは分からないが、何であれ祖母が自分に残してくれた形見を探さなければならない。
そんな思いに駆られながら僕は、必死に発明品を漁り続けた。
しかし幾ら探しても、それらしいものは見付からない。
だが、それから五分程してふと、ある事柄を思い出す。
その事柄とは大事なモノを、ディスク中央の引き出しに収納するという祖母の癖である。
(もしかして、机の引き出しの中にしまってたりとかしてないかな?)
僕はそう思い付くなり、引き出しの鍵を本棚から取り出し、ディスクの引き出しを開けた。
「えーと、これは金属の腕輪と手紙....?」
僕は取り敢えず、手紙を手に取り目を通す。
そこには祖母と祖父が取り組んでいた研究について書かれていた。
時を遡る研究....そして、その原理とそれを実現する為の手段についてである。
「これって......もしかしてタイムマシン!?」
僕は驚きのあまり、手紙を凝視していた。
だが、それは当然であろう。
タイムマシンなど普通に考えて実現不可能な、空想の産物だからである。
それは自然の流れに反するものであり、摂理を無視しているが故に、実現できる筈も無いのものだからだ。
故にそれは小説や映画、漫画といったフィクションでしか存在出来ぬモノ。
しかし、祖母の手紙の内容を見る限りそれは間違いなくタイムマシン。
そしてそのタイムマシンは、既に完成している....。
「いや、そんな事ある訳が....。」
正直、すんなりと受け入れれる内容ではない。
現実が如何に苦しく、救いの無いものであろうとも変えられないから諦められる。
理不尽であろうと、納得出来ぬものであろうと......変えられないからこそ割り切って考える努力をし前に進もうと足掻く。
例え、それが苦痛と悲しみと孤独と理不尽に満ちていたとしてもだ。
過去は絶対に取り戻せない。
幾ら後悔しようと、悔いがあろうと納得出来なかろうと、諦める以外に道は無いのだ。
だからこそ大切な者を失い続け、立て続けに起こる不幸を日常茶飯事のものであろうとも人は、それを受け入れようと努める。
未来に一分の希望も持てぬ現実があろうと、堪えねばならないのだ。
それが生きる理由すら見付からない絶望だけしかない生き地獄そのものだったとしても....。
早く楽になりたいと思い死を願い続けねばならない人生だったとしても....だ。
起きてしまった事を変えられない。
ただ受け入れる以外に道はないの人生。
しかし......もし、変えられる過去があったなら、そして変えられるかも知れない未来があったとしたら......?
(変えられるというのか....?
大切な人を失わずに済む未来があるのか......僕に?)
僕は祖母の手紙を強く握り締める。
そして、僕の口から悲壮なる想いと共に、嗚咽が漏れ出す。
嗚咽は止めようとしても止める事は出来なかった。
薄暗い苦痛だけの未来に、僅かな希望を感じたが故にーー。
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