残り火。

ストレス性体温低下症ーー。


それは重度のストレスが体にもたらす病の一種である。


強い孤独感を感じた時に発症し、急激に体温を奪う病....。


別名を孤独症と言った。


未だに対処法らしい対処法もなく、孤独に基づくストレスを、感じないようにする....それ以外に方法はない。


それは発症例の少ない病であり、現代における奇病の一種である。


その奇病を発症してより、既に七年。


発症原因は両親の死である。


十二歳の誕生日の日、両親と弟は事故で死んだ。


両親と弟の死亡原因は運転中に、スリップした対向車に追突され、海に転落した事が原因である。


だが、両親と弟の死は明確にいうなら交通事故死ではない。


直接的な死の原因は、温度の低い海水による凍死。


それこそが両親と弟を死に至らしめたものだった。


その後、一人取り残された僕は祖母の元へと引き取られる事となったのだが....。


その日常は孤独と絶望に満ちていた。


学校に行けば、不意に訪れる孤独感から体温低下の症状を発症。


そんなことが頻繁に続き、気が付けば僕はクラスメイトや学校側より敬遠される存在となっていたのである。


そして僕が孤立し、不登校になるまで三ヶ月と掛からなかった。


その後、家に引きこもるようになった僕の孤独感は、益々深まる事となったのは当然の事だったのかも知れない。


しかし、そんな孤独な僕の心をある人が、埋め合わせてくれた。


その人とは祖母の近所に住んでいた少女、高崎春香【たかさき・はるか】である。


彼女は僕と同年代で、とても明るい少女だった。 


本人曰く、春香は父親と弟を幼いに時に亡くした事もあり、僕の事が他人事に思えなかったらしい。


それ故か孤独と体温低下症を発症に苦しむ僕に対して親身になって看病してくれ、挫けそうになった時は親身になって励ましてくれた。


失った者同士であるからこそ、お互いの痛みが分かるから......。


だからこそ、そんな僕達が打ち解けるまでに、そう時間は掛からなかった。


そして気が付いた時、春香は大切な人になっていったのである。


それは春香にしても同じだった。


幼馴染みと言うよりは親友....或いは家族、そう言うべきなのだろうか?


何にせよ、僕は春香のお蔭で学校に通えるまでに回復した。


当然、状況が状況なだけにクラスメイトと打ち解けるとまではいかなかったが、それでも除け者になるよりはマシだったのだと思う。


しかしーー。


そんな僕にとって平穏に近いであろう日常は、長くは続かなかった。


その発端となったのは春香の突然の死である。


春香は下校途中に突然、突っ込んできた車に跳ねられ....僕の目の前で息を引き取った。


救急車の到着も間に合わず、僕はただただ春香が息を引き取るまで手を握り締める。


そんな僕に、春香は息絶え絶えになりながらか弱々しい声で「ごめん..ね。」と涙ながらに謝り続けていた。


ーーどうして謝るの?ーー


僕は言葉に出来ぬ、そんな思いを抱きつつも、ひたすらに春香の手を握り締める。


そんな中で春香は再び口を開く。


「い...........。」


しかし、最早それは言葉にすらならなかった。


それから間も無くして春香の手から力が失われ、眠るように息を引き取る。


手の温もりと、感触を僕の手の内に残して....。


春香の温かさを残した手から体温が失われる何とも言えぬ、あの感覚だけが未だ僕の手の内側に残されていた....。


今も尚.....。


あの時、彼女は僕に何を告げたかったのだろうか.....?


一体、何をーー・・・・・。

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