冬は必ず春となる。

キャラ&シイ

【序章】寒暖差のある世界。

(暑くなってきたな....今日も。)


額から零れ落ちる汗を拭いながら、僕は静かに溜め息をついた。


瞬く間に過ぎ行く一年....。


気が付けば、大切なる思いの残る日々も遥か過去のモノへと変わる。


そして、ただ同じような時間を繰り返す....。


変化らしい変化など無い。


あるとすれば、不幸事の類いか悲報の類いのみ。


それが日常の中で、唯一の変化と言えた。


そう....変化など、その程度に他ならない。


僕は静かに空を見上げる。


暗く気だるい気持ちを引きずりながら。


昨日、祖母が死んだ。


唯一の心の支えになってくれた祖母が突然、倒れ息を引き取ったのである。


僕は未だ祖母が死んだという事実を受け入れれぬまま葬儀から、既に一週間が経過していた。


僕の記憶に残されていたのは、眠るように布団に寝かされている祖母の姿。


もしかしたら、本当に寝ているだけなのではなかろうか?


思わず、そんな風に思ってしまう程に不思議と祖母の表情は穏やかだった。


父と母、弟も祖母より先に事故で命を落とし、僕この世にただ一人残される。


だから祖母だけが僕にとって、唯一肉親と呼べる人だった。


今はその祖母も、もう居ない。


しかし不思議と祖母が死んだという実感は、未だに無かった。


だが......その直後、暑い日差しが突然、耐え難い寒気へと変わる。


(寒い....何で、こんなに寒いんだろう?)


夏真っ盛りの太陽によって、生じた熱気の中で、僕はただ一人...体を震わせた。


物音一つしない薄暗き、部屋の片隅で....。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る