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無事逆のホームから帰路に着いたあたしは、渋谷に向かった時と同じように30分で自宅最寄駅に着いたけれど、その体感時間はあっという間だった。
そしてその後半。
あたしはどっと体を襲ってきた疲れに辟易していた。
もう帰って夕飯を作る気力がない。
まさか遠藤くんと二人でおよそ5時間くらいを過ごしただけで、こんなに疲れるなんて思っていなかった。でも今日のスケジュールとしては疲れるほど過密なものでは決してなかったし、むしろだいぶダラダラしたつもりだったのに。気疲れって怖い、って思いながら、近くのお弁当屋さんで買って帰ろうと思う。
気に入った服がなかったからか、思ったより出費が少なかったので、ちょっとだけ割高な有機野菜を使った
野菜炒めのお弁当を買った。サービスでオリジナルのお味噌汁をつけてもらえた。カップになってるやつ。本当に今日はラッキーしか起こらないのか。幸運の女神にキスをさっれるような奉仕も信仰もしていないというのに。運の一定量法の考え方を適用するなら、この次は、同じだけ圧倒的な不幸が降ってくるはずだ。もう今からヒヤヒヤしている。いきなり身に覚えのない1000万円の借金とか被ることになるとか、今轢かれて死ぬとか?なら遠藤くんに轢かれたい。だめだあたしもう。
お弁当屋さんに寄っていた分の遠回りを計算してみると、20分程度の時間を要して、家に着いた。
もう、まずは食べようと思って、バッグを下ろしてライダースを脱いだら、電子レンジにお弁当を入れて、電子ケトルでお湯を沸かす。お味噌汁も楽しみ。
お湯が沸くまでソファに座って待とうと思って座り込んだら、一瞬で気づいた。もう立てない。いやそんなわけないんだけど、それくらいなんか疲れた。
と思って、反射的に今日をあったことを反芻する。
すると、もう周囲の目を機にすることもなくなったせいで明らかに顔が真っ赤になっているのがわかる。
ああもうなんであたしは何もできなかったんだ。でも告白なんてできるわけないし。それもしてないのに何かできるわけがない。今日はだって、遠藤くんも茗ちゃんに都合ができて暇になったから付きあわせてもらっただけなんだ。勘違いするなよ自分。なんてお利口にも思ってみるけれど、まだ被り続けている帽子に触れた途端、どうでもよくなる。ゆっくりと脱いで、膝下に持ってくる。かわいい帽子。こんなにかわいいの持ったことない。遠藤くんはめちゃくちゃ似合うって言ってくれたけど、こうなるとやっぱり彼のセンスを疑ってしまうのかと思ったけど、正直、似合っていなくはないと思う。って、ここでも控えめか。自分でもショップで見てる時に、あ、これはいいって思ったでしょう乃々希?一人なんだから正直になりなさい。って思うと、遠藤くんは人に対してはセンスがないってわけではないと思う。合うだけなのかなぁ。ってセンス合うとか。自惚れるんじゃないよ。
その時、横に放ったバッグの中でスマホが短く震える音が聞こえた。もうそろそろお湯が沸きそうだと思ったら電子レンジが温めの終了を告げる。
お湯が沸いてから一気にやるのでいいや、と思い、まずはスマホを確認する。
0分前
遠藤玲
"遅くにごめん!今日はありがとう!おかげでいい服が買えました。僕もすごく気に入った。ちなみに妹も合格点でした。明日の件、急に頼んで申し訳ないです。ぜひよろしくです。”
…こんなに長いメッセージもらったことなかったあたしはもう。
ご飯のことなんて、すっかり忘れて転げ回った。
その後、なんとかかんとか自我を取り戻し控えめな返信を何度も書き直して遅れた頃には折角温めたお湯もお弁当も温めなおしたくなる温度になってしまっていた。再度加熱するため電気ケトルの加熱スイッチを入れ、レンジは1分でスタートさせた。リビングのテーブルに揃えて、まだまだお祭り状態の脳みそで食事を済ませ、シャワーを浴びる。そこでふと思った。もし明日、本当に遠藤くんのレポートを見ることになるのなら、自分のは今夜中に少し進めておけば、明日は自分のことより彼のことに時間を避けるはずだ。
こういう時の、女の子の背中を押されるパワーを見くびるから、男の子は時々痛い目を見る。よしやってやろう、と気合を入れて、シャワーを手早く済ませ、コーヒーを入れて机に向かった。
時間はまだ22時前。全然できる。
一旦完全に気持ちを切り替えパソコンを立ち上げて必要なソフトをすべて起動させ、画面に集中する。それができただけでもラッキーだった。そこからレポートに集中力を叩きつけたあたしが、次に手を止めた時は既に0時を回っていた。
明日に備えてそろそろ休もうと思ってスマホのアラームをセットしようと思い手に取ったら、またしても遠藤くんからのメッセージがだいぶ前に届いていた。レポートを始めた頃だ。
今日あたし、眠れるかな?
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