第25話 新たな居場所

「何だったんだ……」


 思考が追い付かない。

 何であの渦が?

 何で渦から手が?


「……ク!」


 何でマルクスを渦に引き込んだんだ?


「サク!」


 俺を呼ぶ声が聞こえる。

 紗奈が俺の肩を揺さぶりながら俺の名前を必死に呼んでいた。


「紗奈……」

「サク! 何度も呼んでいたのですよ?」

「あぁ。すまん。少し考え事をしていた……」

「もう……無事ですか? 怪我は?」


 先程までの慌ただしさはないが、それでも不安そうな顔をしている紗奈。


「問題ないよ。紗奈が声を出して教えてくれなかったら気付かなかった。平和ボケしているせいか、最近感が鈍ってしょうがないな」 


 あの程度、以前の俺だったらすぐに気が付いていただろう。


「サクがあの程度の攻撃に遅れを取るとは思いませんが……ふふふ。そう言ってもらえるなら素直に嬉しいです」


 俺が無事だと知ってか、彼女の表情から不安が消え、浮かべたその愛らしい笑顔に一瞬見蕩れてしまう。


「ゴッホン! 無事そうで良かった。ただ、あんまり私の紗奈たんに近づかないでほしいんだがな」


 私のって……あ、紗奈がプルプル震えてる……。


「いつ、アタシが、美也子さんのモノになったんですか! アタシはサクのモノです! サクのお嫁さんになるんです!」


「紗奈たん……」


 死刑宣告を受けたかの様な絶望まみれの表情で課長さんはその場に崩れ落ちる。


「まったく、相変わらずだな課長は」

「ふふふ、そうですね。あっ、それより先程は助けていただきありがとうございました!」


 マルクスの攻撃から助けた女の子が頭を下げてくる。

 その後ろには、女の子と非常に良く似た男が……。


「俺の名前は川島真紀、こっちは双子の妹の早紀だ。妹を助けてくれてサンキューな! それにしてもすげーなお前! あのバケモンをあんなにあっさり!」


 そう言って真紀さんが右手を差し出す。

 双子なのか、道理で似ているわけだ……。

 ただ真紀さんの方はやたらと目がギラギラしている反面、妹の早紀さんは控えめというか……そんな印象を受ける。


「俺は服部咲太です。間に合って良かったです」


 俺は真紀さんの手を握り返す。


「敬語はやめようぜ? 年もそんなに変わらないだろうしさ!」


 言い方はややぶっきらぼうだが、この一言で彼の性格が分かるような気がした。


「では、お言葉にあまえて。よろしく頼むよ!」

「ほら玄さんも!」


 俺の右手を解放した真紀は、巨漢の男を俺の前に引き連れてくる。


「服部咲太です。よろしくお願いします」

「玄だ。助かった」


 玄さんは短く答え真紀と同様右手を差しのべ、俺はそれを握り返す。


「野郎共! 挨拶はそれくらいにしてちゃっちゃと帰るよ!」


 いつの間にか復活した美也子さんの一声で俺達は廃ビルをあとにし、来た道をそのまま引き返す形で拠点に戻った。


「ふぅ~鈴たん! お茶いれてくれ!」

「かしこまりました……」


 美也子さんは拠点に戻るや否やソファーにドカッと座り込みお茶を要求する。


「お前らもこっちに座れ! あ、早紀たんはいつもすまないが……」

「あ、報告書ですね? すぐに取り掛かります」

「助かるよ」


 早紀はペコッと頭を下げて自分の席に腰を下ろしガチャガチャとパソコンのキーボードを弾き始める。


 そのすぐ後に鈴さんからお茶が配られ、各々がそれを口に含む。


「さて、服部咲太! いや、もう咲太でいいな!」

「お好きにどうぞ」


 美也子さんは軽く頷く。


「話を続けよう。今回は本当に助かった。

 正直お前が居なかったら私の大事な早紀たんが無事では無かっただろう」

「いえ、感謝の言葉は本人から頂きましたので」

「ふっ。君は気に入らないが中々気持ちのいい男だ。気に入らないが……」 


 だから何で二回言うの!?


「一ついいですか?」

「なんだ?」

「さっきの男が初めてじゃないですよね? 『憑依者』。よくあんなのと渡り合えましたね」

「初めてだ」

「はい?」

「今まで対峙してきた『憑依者』は、あんな化物じみた奴らでは無かったんだ」


 美也子さんの話では、今までの『憑依者』は確かに人ならざる力を持っていたが、マルクスみたいに変身をしたりもせず強さも今いるメンバーで対処できない程では無かった。

 だから、今回も最悪あの三人で対処出来ると思って向かわせたらしい。


「今回は私の判断ミスだ。その判断ミスで部下がヤバかったんだ。お前に感謝をのべるのは当たり前だろ?」


 口も悪いし、なんだろう……ガサツ? 女の子好き? 俺の周りにはいないタイプでよく分からないけど、不思議と嫌な感じはしないんだよなぁこの人。


「咲太、お前の実力は十二分に分かった。是非ともこの組織に加わってほしい! 正直あのレベルの『憑依者』が現れたら今の私達だけでは対処出来ない」


 そう言い放つ美也子さんは、まっすぐ俺を見る。

 その真摯な力強い双眸に俺は覚悟を決める。


「分かりました。俺、やります! 本当はこの世界に戻って来てから世の為人の為なにかしたくて……それが、あの世界で一人生き延びた俺が心半ばで死んでいった仲間達に顔向け出来る事だと思って……。だけど何も見つからなくて……」

「サク……。そんなに……」

「だから! 俺がいる事で少しでも人の為に何か出来るなら……俺をこの組織で使って下さい!」


 と勢いそのまま頭を下げる。

 そんな俺の姿をみて、課長さんを含めその場にいる全員の顔が綻ぶ様な気がした。


「野郎共! 新しい仲間の誕生だ! 今日は宴会だぁぁぁ!」

「「「おおお!」」」


 こうして俺は新しい居場所を手にいれた。

 だけど、バイトあるんで加わるのは一ヶ月後ですよ? とはその場では言えなかった。

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