第14話 店長を守れ!④
俺は駅前の交番を後にして家に向かう。
「それにしてもキャラの濃い女警さんだった……。くりさんも少し変わっているし」
俺はほんわか女警さんとくりさんを思い浮かべる。
あそこの交番大丈夫か?
まあ。俺が心配してもしょうがないか……と俺は苦笑いを浮かべ歩みを進める。
交番から十分程で俺は家に到着し、玄関から中に入るとすぐさま母ちゃんが出迎えてくれた。
「咲ちゃんお帰り! うふふ、朝帰りとはやるねぇ~」
えいっえいっと、母ちゃんは俺の脇腹に肘をつついてくる。
「ただいま。言っておくけど疚しい事はないからね!」
「もう大人なんだし疚しい事の一つや二つないと逆にやばいよ? ママはいつでもばぁばになる準備はできてるからね!」
ばぁばって……。
「本当そんなんじゃないから!」
「うふふ。朝ごはんまだでしょ? 早く手洗いうがいしてらっしゃい。私達はもう先に食べてるから」
うん?
「私達?」
「いいから。早くいく!」
「う、うん」
俺が頭の中に“?”マークを浮かべてると、母ちゃんは俺の背中を押して洗面所へと向かわせる。
頭に疑問を残したまま俺は顔を洗い歯磨きをする。
せっかくのご飯が冷めてしまっていけないので、風呂は後で入る事にした。
さて、家は俺と母ちゃん二人家族だ。
なので、母ちゃんが言っていた私達、という言葉は非常に違和感がある。
恐る恐るリビングのドアを開けると「おかわり!」と元気な声で母ちゃんに茶碗を突き出しているくりさんが……アンタだったのか!
「くりさん!?」
「あっ! 服部咲太君。先に頂いているよ!」
なぜか昨晩俺の事をストーカー扱いしていた女警のくりさんが、制服姿のままで我が家の食卓の一席を占領していた。
くりさんは母ちゃんからご飯がもりもりに入っている茶碗を受け取り、幸せそうな顔ですかさずそれを頬張っていた。
「うーん、夜勤明けに食べるお米ってサイコー! これから帰って寝るだけなのにお腹いっぱい食べるこの背徳感が堪らないよね~」
「太りますよ?」
「モグモグ……沢山動いたから……モグモグ……いいの」
「まったく、飲み込んでから喋って下さい」
「咲ちゃん、女の子に太るなんて、くりちゃんに失礼よ。ほら早く座ってご飯食べなさい」
母ちゃんもくりちゃんって呼んでるし……。
俺はそれ以上突っ込まず素直に席につき味噌汁を啜り一息ついてからくりさんに視線を向ける。
「それで? どうして
くりさんは口にあるものを飲み込み水を一気に飲み干す。
「ふ~。君の保険証預かりっぱなしだったから届けに来たんだよ。そしたら、ママさんがまだ帰ってきてないって言うから」
話をまとめると保険証を返しに来たんだけど俺が不在で保険証を置いて帰ろうとしたら、朝御飯の匂いにお腹がなったらしく母ちゃんがご飯を食べて行くように薦めたらしい。
「わざわざすみません」
「それと君の事をストーカー扱いした事を謝りたくて……」
「それは俺が怪しい行動をしていたのがいけないんですから気にしないで下さい。そういう怪しい奴等を取り締まるのがくりさんの仕事でしょ?」
自分が考えてもあんな時間に女性を尾行するなんて怪しいにも程があるし、くりさんは何も悪くはないだろう。逆にくりさんだったから、店長をストーカーから守れたと思う。
「そう言ってくれると助かるよ」
俺に文句の一つでも言われると思ったのか、くりさんはホッとした表情をしている。
「それで? 昨日あの後どうなったんですか?」
「結局自転車では通れない細い道に逃げられて追いかけられなかったよ……くやしぃっ!」
俺とくりさんの会話だが、母ちゃんには何の事かさっぱり分からない。だからなのか、やや険しい表情で母ちゃんが聞いてくる。
「ねぇ。咲ちゃんストーカーとか何の話?」
母ちゃんにも説明をしておくか……。
「実は――」
俺は今の状況を母ちゃんに説明した。
「そう……店長ちゃんがね……」
「だから当分は店長の身の回りの警護にあたるので」
「いやいやいや、一般人の君がやることじゃないでしょ? そういう事はボク達の仕事だよ!」
俺と母ちゃんの会話を聞いたくりさんが鼻息を荒くして間に入ってくる。
「くりさんの気持ちは十分分かるんですが、身の回りの人が困っているならそれを他人に任せるつもりはありません」
俺の答えに対して、くりさんは、額に指を立て少し悩んだのち俺を見上げる。
「うーん。そこまで言うなら分かったよ……。その代わり一人で解決しようとしないで! ボーナスとかそんな事うんぬん、こういう案件は元々はボク達の仕事だから。国民の皆さんの血税を給料として貰ってる以上ちゃんとボク達を巻き込んで欲しい!」
くりさんから放たれる真剣な眼差し……。
あぁ……この人は凄く真っ直ぐな人だ。
世の中、警察の不祥事とか色々騒がれているけど、こんな強い想いを持ってる人が警察官にいる事に俺は少し誇らしく思った。
「くりさんってカッコいいですね」
本気でそう思った。
「な、何を言っているのかな! こんなのフツーだよ!」
俺が褒めたせいかくりさんは顔を真っ赤にしている。
「いや、まじでかっこいいっす!」
「もぅ、やめてってば!」
「あはははは」
俺はくりさんの可愛い反応に笑いがこぼれた。
「咲ちゃん」
くりさんとそんなやり取りをしていると母ちゃんが何か思いついた様に口を開く。
「何?」
「問題が解決するまで、店長ちゃん、家に来てもらえば?」
「はい?」
「どうせ部屋余ってるし、毎日店長ちゃんのお家にお泊まりって言うわけにもいかないでしょ? 恋人同士ならまだしも……それに家にいた方が守りやすいと思うし」
確かに家は部屋が四つあるため、部屋の余裕はある。
「いいの?」
「もちろん! 咲ちゃんがお世話になってるんだから」
「ありがとう! うん?」
くりさんが静かだな~と思っていたら、案の定くりさんはソファーにもたれスヤスヤと眠りについてた。
「夜勤明けで疲れてたのね。このままここに寝かせてあげましょう」
「この人は……無防備過ぎるにも程がある……」
「ふふふ。いいじゃない。気兼ねなくて」
「まぁ、いいや。取り敢えず店長に連絡します」
そう言って俺は店長に電話を掛けるためスマホを手にした。
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