神とヒト(1話完結)

しゃるれら

第1話 失踪

デカい角、デカい体、間違いなくあいつだ……。


──宇宙暦252年、惑星アルナル、バルタ地方、通称"砂漠林"──


俺は、三日前に消息を絶った、ラグナという隊員の調査にあてられた。ラグナは優秀だったらしく、今回の砂漠林探査の指令も、単独で行っていた。


俺達の所属する第6調査機関は、3年前の『大浄化』

を引き起こした原因とされる"生物の急速進化"(ハイエボリュート)を探る為に発足された。ハイエボリュートは、発症した個体の身体能力向上、神経細胞の増殖、皮膚の硬化など、文字通りの進化を目に見える速度で促進する感染症だ。皆冗談交じりに"神化"と呼んでいる。それによって引き起こされた、食物連鎖の再構築である大浄化。3年たった今でも、その爪痕は残っている。


砂漠林もその1つ。ハイエボリュートを発症、要するに神化した植物が、急速に砂漠という過酷な環境に適応した結果である。その植物からサンプルを回収し、ハイエボリュートの解析をするのが俺達の目下の目的だった。


人にのみ効能のあるワクチンが奇跡的に開発された一年前から、2ヶ月おきに一定期間の調査が認められるようになったが、まだ危険なのには変わりない。ヒト以外の生物は依然進化し続けているわけであって。


ラグナの移動ログを辿っていくにつれ、どんどんと密林の奥深くへと吸い込まれていく。生物の気配は全くしない。ただ、ヒトを優に超えた植物、いや、生物が辺り一面にそびえ立っているだけだ。植物のサンプルを回収しながら先を急いだ。


ラグナの移動ログが途切れた地点にたどり着くのに、どれだけ歩いただろうか。ここらで野営しようと準備を始めた時だった。


ガサッ……ガサッ……。


何かいる。さっきまで欠片も気配がしなかった生物が、突然殺意に似た存在感を纏って近くを闊歩しているのが分かる。


デカい角、デカい体、間違いなくあいつだ……。


文献に載っているのを目にしたことがある。セイヨウバルタラット、世にいうネズミだ。神化した動物の中では、まだマシなほうだ。


俺は肩に背負ったアンチメシアライフル(AMR)を手に持ち、マウントされたスコープをサーモグラフィーモードにした。距離が少しありながらも、枠めいいっぱいに映る大きさの敵に照準を合わせる。


パシュッッ


銃の先端に取り付けられた消音器がその銃声をかき消す。ここからが本番だ。今打ったのはただのビーコン。これが射程範囲内に入ると、やっとこいつの真価が発揮される。スナイパーライフルのような形状をしたAMRの長い銃身が縦横4つに分離し、その間を青い小さい雷が繋いでいる。ビリビリしていて触るととても痛そうだが、こいつを喰らえば、たとえ神化したやつだろうと……。


その時だった。もう1体の生物が俺の獲物をかすめ取った。霹靂のような速さ。こいつも間違いなく神化した生物だ……!


銃を向け、引き金を引くが、AMRは変形を中断し、元の姿へと戻っていた。見ると、スコープの画面に文字が表示されている。


『対象にヒトの細胞を検出、安全装置作動』


どういうことだ。相手はクソ神化野郎だぞ!安全装置を無理矢理取り外し、再び照準を合わせると、そこにはもう生物の姿はなかった。無残に食いちぎられたネズミの身体の傍には、第6調査機関の隊員バッジが転がっていた……。

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神とヒト(1話完結) しゃるれら @syalulela

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