第26話 オディオ ―憎悪の化身―
殺される等して、無念の死を遂げた生物が、
怨念の塊である
そして一定量集まった時、
しかし、今渦を巻いて集束しているのは青黒い
一定空間内に、複数種類の
一定空間内とは通常、ダンジョンのことを指す。
複数種類の
たとえ倒したとしても、再び同じ条件が揃えば、何度でも出現する。
複数種類の
これはほとんど知られていないが、
一定空間内が、飽和
今、クララとバートの頭上で起こっている現象は、後者の条件に近しい。
ダンジョンごとに出現する
これは、それぞれのダンジョンで、棲息している
複数の
そしてダンジョンに棲息している
現在、アルセの森の
このような事態は通常有り得ない状況だった。
今まで一度たりとも試されたことがない
クララとバートの頭上で今、異常事態が巻き起こっていた。
渦中の
顕現したのは体高約十メードル、幅約八メードル、優に六メードルを超える太尾を持つ巨体。でっぷりと贅で肥えた体躯は、蛇腹が大きく張り出し、全体的に赫い体皮を被っている。両腕は筋骨隆々だが、脚は体重によって潰れて縮んだのか、皺が寄った極短足。四本指の手足の先端から白く鋭い爪が生え、頭部には何本もの太い白角が伸びている。凶悪な鋭さを持つ二本の牙が、下顎からはみ出し、二メードルはあろうかという長さの赤い舌が、口からだらしなく垂れ下がっている。
「なんだ、こいつは……!?」
眼前に具現化した
明らかに本来のアルセの森の
なんの呼称も付けられていない
吊り上がった血のように赤く光る双眸に射抜かれた瞬間、放たれた
ガルウィングブレストプレートを失ったバートのバトルレベルは、本来の10にまで下がっていた。
どうあがいても勝つことはできないし、遁走しようとしても、逃げ切る前に命を蹂躙される。
そう察した、いや確信させられたバートの口から、カチカチと歯の鳴る音が発生する。
震える白いグローブを嵌めた手を、羽織る白いマントと背中の間に持っていく。バートは震える手で、そこに装備しておいた武器をどうにか掴み取った。
バートが取り出したのは蛇革の鞭。攻撃力は決して高くない。
「なるようになれええ!」
回避不能の鉄槌に向け、橙光を纏わせた蛇革の鞭を振り抜き、乾いた音を響かせた。
暫し世界に無音が訪れる。
バートの眼前、四指を開いた
あと少しでバートを潰せたというのに、
ゆっくりと手を引き戻す
大きな手がどかされ、バートの視界に露わになった蛇腹の中央。
果たしてそこにはテイムマークが刻み込まれていた。
バートの喉から引き攣った笑い声が漏れ、やがて哄笑へと変じていく。「くははっ……。ははははははは! やったぞ! やってやったぞ! たったの一撃でテイムできちまった! ははははははははは!」
ポンサウス武器店では、店主のバートが錬金術士ということで、錬金術の素材アイテムの買い取りも行っている。
攻撃力がそこそこ高く、軽くて扱いやすく、更に良心価格のガルウィングシリーズの評判は日に日に高まっていった。
それに対してバートの顧客たちの中には、恩義を感じる者が少なくなかった。
彼らはダンジョンで手に入れてきた採取アイテム、
バートは自身が所属する【フォーナー】のユニオンメンバーたちには、無償でガルウィングシリーズを提供した。すると【フォーナー】のユニオンメンバーたちもまた、素材アイテムをバートに提供するようになった。
その中に、滅多にお目にかかれないレア特性《服従》よりも更にレアな《服従+》が付いた素材アイテムが一つだけあった。
アイテムの特性とは、アイテムに秘められた力のことを指す。
生物がレベルアップ時に、自分の体に内包している
特性を引き継ぐことにより、調合品の効果を強化したり、または調合品には本来なかった能力を付与することを可能とするのだ。
《服従+》の特性を引き継いで作製したのが、今バートが装備している蛇革の鞭なのだった。
《服従+》の特性が付与された武器を装備し、自身の最大
レア特性とは言え《服従+》のテイムアタックの成功確率の平均値は一桁しかない。
テイムは、対象相手の残り
更に、テイムアタックの行使者の運のステータス値によって、成功確率は変動する。
現在のバートのバトルレベルは10。つまり、運のステータス値は決して高いわけではなかった。
その上、
だというのに、テイムできてしまった。
限りなく低い確率でのテイム成功、そんなほぼ有り得ない事態が、この状況下で起こってしまったのだ。
それはバートにとっては僥倖。クララにとっては絶望だった。
テイム成功の証であるテイムマーク。それは
但し
幻晶体は一定時間の間しかテイムできないからだ。しかもその時間はテイムした側とされた側の活力のステータス値によって変動する。
バトルレベル10のバートでは、バトルレベルおよそ20の
しかし、クララを始末する程度ならば、その短い時間で充分過ぎた。
口端を三日月型に吊り上げたバートが、クララを指さす。
「あいつを殺せ!」
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