第23話 二手に分かれて
冒険都市リーガ、その中央に鎮座するギルド本部へと向かいながら、彼方へと飛んでいく
原因がまだ全くわかっていない現状、ユキトが先刻述べた通り、体が
とするとユキトの得るはずだった
ダンジョンにはまだまだ未知の領域が多い。そのために見聞院が在るのだし、今も見聞院に新情報が寄せられている。
そう考えると、
そこまで思案したところでギルド本部に到着する。
アクラリンドの世界には、まだまだ未踏領域が存在するが、
アクラリンドに存在するダンジョンは、かなりの数に上る。ユキトのバトルレベルでは、まだまだ赴くには危険過ぎるダンジョンの方が多い。探し当てるのは困難を極めることになるだろう。
次に、
昨夜アルセの森から、水色の球が飛んで行った方角は、ざっくりとだがリーガ方面だった。
そこでユキトはまず、犯人が冒険者であると仮定して、動くことに決めた。
まず、リーガから一番近い位置にあるダンジョンであるモネア平原へ行き、
昨晩飛んでいくのを見た限りでは、飛翔速度はさほどでもなかった故、走って追いかけることは可能だろう。
リーガの中に
昨日クララから貰った星の雫を携え、ユキトはテレポートルームへと向かった。
最初に
しかし、バトルレベル16のユキトでは、倒しても
そこでモネア平原最強
斬り上げ一閃、緑の草萌ゆる地に墜落したスティンギーは、片手で掴めば全体を覆える程の小ささの、
翔んでいく方角を見定める。
明らかにリーガ方面ではなかった。
ユキトは嘆息し、これは犯人に辿り着くまでには、骨が折れそうだと覚悟した。
時は少し遡る。
ポンサウス武器店の中、それ程広くない店内には、所狭しと武器が陳列されている。
その武器たちはどれもが似通った意匠をしていた。剣、槍、斧、戟、鎚、棒、爪、全ての種類で、攻撃部位の色味が黄色から橙へと
バートは
金を払い、店を後にする女性冒険者に向かって、笑顔を浮かべたバートが、
「ありがとうございました」
とお辞儀をしながら見送ったその瞬間、バートのバトルレベルが上がった。
今バートは、
よしんば今ここで、低濃度の
「ごめんくださーい!」
バートはその少女の顔を見知っていた。
「クララちゃんじゃないか。武器を買いに来てくれたのかい?」
バートが笑顔で迎え入れたのは、以前街中でユキトと共にいた錬金術士の少女だった。
「いえ、ごめんなさい。今日は別の用件でお伺いしたんです」
「一体なんの用かな?」
「実は、ユキトさんがレベルフルカンストしてしまって」
「ユキトが? そうかい、それは残念だったね」
「わたしまだ諦めたくなくって。わたしが錬金術で強い武器と防具を作れるようになれば、まだこれからもユキトさんと一緒に冒険者を続けられると思うんです。それで、錬金術で武器を作ることができるバートさんに、武器を作る錬金術のやり方やコツ、あと簡単なもので良いので武器のレシピも教えてもらえないかと思って、今日は伺ったんです」
唐突に武器調合を教えてくれないかと宣う少女。
バートは正直そんな面倒は勘弁だった。
ユキトがガルウィングソード以外の武器を使用するようになれば、ユキトから
レベルフルカンストしたという話だから、このままユキトが冒険者を辞めてしまえば、どの道ユキトからの
忙しいからとか適当なことを言って断ろうと口を開きかけた時、クララが言った。
「ただでっていうわけじゃなくて、わたしからは星の雫っていうアイテムのレシピをお教えしたいと思ってるんですけど、どうでしょうか?」
断られるのではないかと不安げな様子の少女が口にした、星の雫というアイテム名を、バートは耳にしたことがなかった。
興味を惹かれたバートは、断る口上を言うのを
「星の雫っていうのは、どういうアイテムなんだい?」
「暗闇のステータス異常を治す効果と、使用してから一時間程度なら、普段は視えない低濃度の
バートは内心、驚愕に激しく動揺した。
そんなアイテムがあったら、自分の悪事が露呈するのは時間の問題ではないか。
どうにか動揺を抑え込み、バートが声を発する。
「へえ! そんな効果のあるアイテムがあったなんて知らなかったよ。クララちゃんが考えたのかい?」
「わたしじゃなくて、お母さんが考案したんです。わたしにだけ特別に教えてくれたんですよ」
「そうなんだ。お母さんは今どこにいるんだい? それともクララちゃんと同じでリーガで冒険者をしてたりするのかい?」
「いえ、実は何年も前から行方不明なんです。わたしはお母さんを探すために、冒険者になったんです」
星の雫の考案者だという、行方不明のクララの母も気にするべき存在ではあったが、生死もわからないのならば、今はそれ程気にする必要はないだろう。
実質今、星の雫を作ることができるのは、目の前の錬金術士の少女だけと思って問題ないだろう、とバートは断じた。
「なるほどね。話は大体わかったよ。その条件で錬金術の武器調合を教えてあげてもいいよ」
クララがぱっと破顔する。
「本当ですか!? やったあ! ありがとうございます!」
喜びに諸手を上げた後、バートに向かって深々とお辞儀をするクララ。
「その星の雫を誰かにあげたりしたかい?」
「昨日初めて作ったのを、ユキトさんにあげましたけど、それがどうかしたんですか?」
ということは今、星の雫はユキトが所持している一つだけ。
星の雫を使用すれば本当に
「いや、なんでもないよ。訊いてみただけさ。一つ条件があるんだけど、先に星の雫を実際に使ってみて、効果を確めさせてくれないかな?」
「勿論良いですよ。でも今持ち合わせがないので、新しく作らないといけませんね。素材も足りませんし、申し訳ないんですけど、アルセの森までご足労願っても良いでしょうか?」
これは絵画作品『星の産道』の作者ローエ・ヤンドが作った設定である。展示時に作品と同時に多くの人々の目に触れた解説文にも記載されていた。そしてそれは
錬金術の調合の素材アイテムとなる可能性がある、全ての植物と昆虫は、
しかし
とどのつまり、幻晶花を採取し、
錬金術士である母ララナから教えられていたクララは、そのことを知っていた。
バートが柔和な笑みを浮かべて了承する。
「いいよ。今から早速行こう」
クララが「はい!」と元気よく返事する。
入り口のドアにかけてある『OPEN』という札を、バートが裏返して『CLOSE』にする。
そして二人はギルド本部へと足を向けた。
低濃度の
ユキトの持っている星の雫の処分は後回しにして、今は目の前の少女の始末が最優先だ。
バートが今から自分を処分しようと考えているなどと、露程も疑っていない錬金術士の少女は、武器調合を教えてもらえることが嬉しいのか、鼻歌を歌いながら、大きく手を振り歩いている。
つい先刻レベルアップし、バトルレベル30となったバートにとって最近冒険者となったばかりで、しかも【厚切り肉のコートレッタ】の緩い入団テストに落ちてしまうようなクララを殺すことは、赤子の手を捻るに等しい容易なことだった。
クララの隣を歩きながら、バートは内心でほくそ笑むのだった。
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