第14話 ランキングチェンジバトル

 そして二ヶ月後の月初めの早朝。

 ギルド本部の大扉が開く前にギルド本部へと赴いたユキトは、大扉が開いた瞬間、ギルド本部に一番乗りした。

 そのままクエストカンターへと赴き、【へゼズタ】へ下剋上ランキングチェンジバトルを申し込んだ。

 ライトソニックパリィも《昂気テンションアビリティ》も、まだ完全に使いこなせるようになったわけではなかった。しかし、ビンゲとのバトルレベルの差が、今以上に広がっていくことを計算に入れ、このタイミングでの挑戦を決めたのだ。

【へゼズタ】が先月に下剋上ランキングチェンジバトルの挑戦を受け、それが今日行われることになっている可能性もあった。もしそうだったとして、それに【へゼズタ】が勝利したならば、ユキトの申し出は断られる可能性があった。そうでなくても、バトル形式の内容に不服を申し立てられる可能性もあった。

 だが幸いなことに【リスタート】から【へゼズタ】への下剋上ランキングチェンジバトルの挑戦は受諾された。

 バトル形式の内容も、ユキトが思っていた通り、ユキトのことを目の敵にしていて見下しているビンゲは、ユキトの提案をそのまま受け入れた。

 それからユキトは、クララに手紙を送った。内容は、もう一度努力することを決意して【厚切り肉のコートレッタ】を脱退し、ユキト一人だけの新たなユニオン【リスタート】を立ち上げたこと。そしてビンゲに下剋上ランキングチェンジバトルを申し込んだこと。そのバトルをクララにも見に来て欲しいこと。バトルの日時。

 ユキトはクララが新しく立ち上げた新ユニオンの名称を聞いていなかったため、ギルド本部の総合カウンターで「クララ・クルルという冒険者が所属しているユニオンに、この手紙を送ってください」とギルド職員に頼んだ。

 クララのユニオンホームの住所を聞けば、もしかしたら教えて貰えたかもしれなかった。でも直接自分で手紙を届けに行ったとして、その時にクララと顔を合わせることになってしまったら、ユキトは一体どういう顔をすればいいのかわからなかった。

 だから手紙は、小人妖精メルファリア族の少女に託し、自分の代わりにクララのユニオンホームへ届けてもらった。


 クームタータの月、カヤルの週、ネキの曜日。

 ユキトにとっての決戦の日が、遂にやってきた。

 今回の下剋上ランキングチェンジバトルの執行場所は東区・闘技区・第七小闘技場。

 バトル形式が、ユキトとビンゲの一対一の対決である故、数ある闘技場の中でも小ぶりな闘技場が選ばれた。

 ユキトは【アスギー】のユニオンホームから、ガゼと共に第七小闘技場へ向かった。

 ギルド本部が双方の都合を聞いて調整して決めた、開始時間の少し前に第七小闘技場に到着する。

 闘技場内には、今回の下剋上ランキングチェンジバトルの主審と副審を担う、公認ユニオンの人間ヒュマ族の女性冒険者が二人待機していた。

 公認ユニオンは、リーガやダンジョンで問題が発生した時に、その問題に対処したり、下剋上ランキングチェンジバトルの見届け人や町の警備等の仕事を請け負っているユニオンのことである。

 どのユニオンでもなれるわけではなく、ギルド本部から信頼されているユニオンに限られる。

 その条件は厳しく、三年以上ユニオンランクを1000以上にキープしていること。

 ギルド本部は公認ユニオンになるに相応しいかどうかを見極めるため、試験代わりとなるクエストを、常に出している。これらのクエストの難易度は、通常のクエストよりも高く設定されている。このギルド本部が出しているクエストを、百回以上クリアしていることも条件の一つとなっている。

 これらの条件を満たしていたとしても、ユニオンメンバーの中に素行の悪い人物、とどのつまり犯罪歴がある者が一人でもいる場合は、ギルド本部の信頼は得られず、公認ユニオンになることは叶わない。

 厳しい条件を全てクリアし、晴れて公認ユニオンとなれば、安定した冒険者生活がある程度保障される。

 ギルド本部から依頼された、公認ユニオンとしての仕事をこなすと、通常のクエストをクリアするよりも、多くのユニオンポイントが貰えるようになる。

 公認ユニオンに対し、下剋上ランキングチェンジバトルを挑むことはできない故、下位ユニオンに下剋上ランキングチェンジバトルで負けて、ユニオンランクを大きく下げてしまう、ということがなくなる。

 その代わり、公認ユニオンには下剋上ランキングチェンジバトルの挑戦権がなく、一足飛びでユニオンランクを上げることが不可能となる。

 これらの特権が与えられる代替に、公認ユニオンは、リーガの秩序を守る役割を担うこととなる。

 リーガやダンジョンで問題が発生した時に、ギルド本部から依頼される緊急クエストに対して拒否権がなく、強制的に引き受けなければならないのだ。

『安定した冒険者生活』を選んだ公認ユニオンの冒険者に対し、周囲の者たちからは《ギルドの犬》と揶揄されることもあった。

 お互いまだまだ名を馳せていないユニオン同士の下剋上ランキングチェンジバトル。円形に配置されている観客席には、ガゼ以外誰もおらず、閑散としていた。

 クララの姿もなかった。

 やはり来てくれないのかと思ったその時、クララが観客席に現れた。一人でちょこんと座席に腰を下ろし、両手を膝の上に置いて会場の様子を見守っている。

 来てくれたことにユキトは安堵する。

 そして待つこと数刻、開始時間ぎりぎりに【へゼズタ】所属のレ・ムンバ族たちを引き連れたビンゲが、悠々とした足取りでやってきた。

 これで役者は揃った。

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